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【プリズンライターズ】本と宇宙人になったカエル・書評 Vol.9「血泥の戦場」

こんにちは!全国の刑務所で刑務官が受刑者に”さん”付けする様になりました。
最初は少々気持ちが悪かったものの、ようやく最近は慣れて来ました。変化のない受刑生活にとって変化は多少の潤滑油となります。

そんな我々にとって次なる変化は、やはり、これから始まる”拘禁刑”でしょうか?
とは言え新たに拘禁刑がスタートして入所して来る者と、既存の我々”懲役刑”の者は区別され一緒の処遇を受けることはないらしく基本、今までと同じ”役に服す”との事で少々ガッカリですが、それでも色々な事が変化して行くらしく今から楽しみでもあります。

”拘禁刑”が出来ると知った時は、”作業しなくて良い”とか、”作業時間が半分になる”なんて色々な話しを耳にしましたが、そうは問屋が卸さない。
でも?…と思う無期の者は自分だけではないと思います。それは、拘禁刑と懲役刑の処遇の関係上、一緒に出来ないのは判ります。
施設が別々であろうと、同じ施設の中で別々になろうと数年後には、懲役刑より拘禁刑の方が多くなり、いずれは懲役刑は無期だけ、なんて日が来る。
短期の刑務所は当然、拘禁刑しか収容していない事になりますが、長期の刑務所はどうなるのでしょう?
まさか、無期の者だけの工場が出来たり、他の施設の残された無期の者と一緒に疎外されるかの如く何処か無期(懲役刑)の刑務所が出来るのでしょうか?それとも、そうなる前に”拘禁刑”に移行されるため現在(これから)がそもそも移行措置なのでしょうか?
いずれにしても現状より悪くなる話しではないと思うので今から楽しみにしています。

話しは変わり未だロシアによる軍事侵攻が続き、イスラエルでも戦闘が続いています。
今回紹介する本は”冒険・スパイ小説”の中でも、そんな“ミリタリー”に分類される小説です。

受刑者の方は“冒険・スパイ小説”を好む人は多いのではないでしょうか?
名作や有名な著者を上げれば切りが無いですが、近年に限ると、やはりマーク・グリーニー(暗殺者グレイマン・シリーズ等)、スティーヴン・ハンター(極大射程・等)、ジョン・ル・カレ(ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ等)が有名でしょうか?
多作でない著者なら、それこそ便箋7枚では収まらない程いますし、読んで来ました。
そこから“ミリタリー・ノベル”に絞ると、真っ先に思い浮かぶのは、今回、紹介する、クリス・ライアンかもしれない。
紹介した本は、最近(2年以内)読んだものからなので違うが、同じ作家なら、“ファイア・ファイト偽装作戦”(ハヤカワ文庫)や”反撃のレスキュー”(ハヤカワ文庫)は自信を持って面白いと言えます。
この手のジャンルは面白いけど難しい。読みにくい等と感じる事が多く好みがかなり分かれてしまうけど、このライアンは、読み易い。

また、最近では、ジャック・カー(ターミナル・リスト上下 ハヤカワ文庫)、ドン・ベントレー(奪還のベイルート 新潮文庫)という、この手のミリタリーノベルで当たりを見つけたので、是非!読んでみて下さい。


「血泥の戦場」 クリス・ライアン

冒険・スパイ小説の類が好きな方なら序章を読むだけで著者が誰なのか判ってしまいそうな程、読み易く、その上インパクトが強い作品も珍しい。
海ならクライブ・カッスラー、陸なら、この人、クリス・ライアンだろう。

毎回ながら最新の世界情勢を的確に反映させて描くライアンのミリタリーノベル。SAS隊員ダニー・ブラック・シリーズ第四弾である。
本作は、英国にて大規模な爆破テロを決行するべく難民船に紛れ込んだISの戦闘員を拿捕し、テロを食い止めろ、との指令が、SAS隊員ダニーに下されることから物語は始まる。 任務に就くチームは四人。これが大変な曲者で曰く付き揃いときている。

今回の作戦中に紛れて、女房に手を出した男を射殺しようと目論んでいるリーダーのトニー。そして狙われている隊員スパッド。

この状況だけでも漫画の様な話しだが、メンバーにはブラックの他、そのリーダーと愛人関係にあるケイトリンという女性隊員までいる。
最悪なチームだが、メンバー個々の実力は最高級の折り紙付きときているから面白い。

そんな腕利きのチームは指令通り、無事船内にてIS戦闘員を拿捕する事に成功するが尋問は失敗。依然、英国での爆破テロは刻一刻と迫っており、チームは急遽ISの司令官を襲撃する他なく死地イラクへと潜入するのだ。

メンバーの関係性から一見、笑える内容なのか?と思われるが物語は全くそんな事はない。
ひとたび戦地に赴けば臨場感あふれる光景が広がり、敵の流弾がページを捲るたびに飛んで来るかの様な手に汗握る作品だ。

危険な任務だが隊員それぞれの思惑が絡み合い、正に囚人のジレンマ状態の中、ブラックは孤軍奮闘する。
果たして隊員は死地を潜り抜き、テロを未然に防げるのだろうか……。

本作はシリーズ4作目だが、この作品からでも充分読める。

ただし次作のためにクリフハンガーの様な終わりを迎え、続きはお預けを喰らうのが玉に瑕。
もっとも、それがスパイスになっているシリーズ作ならでは醍醐味と言える。

そんなライアンの作品は、まるで海外ドラマの様な楽しさ、そして読み易さがあるので翻訳物嫌いな者でも抵抗なく読めるはず。


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