私だって働きたくない!

 わたしは仕事に限らず、何事においても偏屈で頑固で真面目なタイプだ。所謂優等生タイプと呼ばれるやつかもしれない。決められたことを守れない人間も、努力をしない奴も、責任感のない奴も総じて大嫌いだ。けれど、こういう人間は煙たがられて、多少ちゃらんぽらんでも要領のいい人間が好かれる。だから、こういう人間が一番損をするようにこの世は出来ている、と思う。

 他記事で先述したように、旧態依然とした弊社に入社したわたしは実習期間中に「お前は女のくせに大卒で気取っている」と難癖をつけられ、そこからは反省して頭が悪く見えるように振る舞い続けた。現場にいるときはそうするしかなかったのだ。大卒と知るなり突然喧嘩腰になってくる連中を振り払うには見下せるような女でいるしかない。

 それは社員だけでなく、現場で働いているアルバイトや派遣もそうだった。勝手にわたしを高卒だと思い込んで「こんな男ばっかりの会社に入って土日何やってんの? 男漁り? あっこれってセクハラかな?」とか「まだ二十歳も行ってないのになんでこんな会社入ったの? もっと稼げるのあるでしょ笑」と下世話な言葉をかけられたことも何度もある。それでもひたすら我慢したのは、わたしは本社勤務になりたかったからだ。本社に行けば、わたしの人生を認めてくれるくれる人が沢山いると思ったからだ。わたしの人生を隠して生きなければならないような現場では、絶対に働きたくなかった。

 少ない同期の中では最も学歴が高かったこと(とはいっても本当に大したことはない)、必死に耐え抜いた実習の成績が良かったことで、わたしは希望通り本社の勤務になることが出来た。しかし、希望を出していた『総務』ではなかった。実習を終えて配属になったのは企画課で、会社創設以来、新卒の女を迎えるのははじめてとのこと。「きみは将来の管理職候補として育てようと思っているから頑張ってほしい」と言われながら、鳴り物入りで部の一員になったわたしは、完全に浮かれていた。皆優しかったし、仕事もすごく丁寧に教えてくれた。わたしは自分の部が大好きだった。現場に行けば「本社配属になった新卒の女が来た」と陰口を叩かれたり、妬まれたりすることだってある。だけど、自分の部の人が傍にいてくれればそれでいいのだ。

 だが、現場と密接にかかわって仕事をしなければならない以上、どうしても現場には出なければならない。現場に出れば「若い女のくせに」が待っている。それが地獄だ。

「女のくせに!」なんて言うのであれば、その憎き女に怒られないように作業をして貰えればいいだけだ。「若い癖に!」と不満を訴えるのであれば、そんな若い人間でも分かるようなことをきちんと仕事としてこなしてもらえればそれでいいのである。そして、最初はわたしを敵視していた人間も、わたしが便利な存在であることに気付けば手のひらを返したようにすり寄ってくる。同じ現場事務員同士で「アンタもせいぜい○○さんに媚びを売っとけば?」なんて言った・言われたという話を聞いた時はあまりの衝撃で開いた口がふさがらなかった。面倒な女のいざこざも、わたしは持ち前のことなかれ精神でせっせと話を聞いてしまうし、必死で仲裁してルール決めまで付き合ってしまう。わたしは本社から派遣されてきた監督者・支援者の立場だが、現場の責任者たちは面倒ごとから目を逸らし、そしてすべてをわたしに押し付けてくる。

「君は出来るから──……」その言葉は呪いのようだった。

 真面目にやればやるほど、仕事をこなせばこなすほど、成功させればさせるほど、わたしの元には仕事が降ってくる。それは決して嫌ではない。自分のしたことが認められるというのは嬉しい。わたしはそんなに才能のある人間ではないし、ブスだし、特筆すべきこともない凡庸な存在だから、余計にそうだ。だけど、もう限界だと思うときがある。この世は出来ないものが勝ちなのだ。中途半端にあれこれとしてしまう都合のいい駒であるよりも、馬鹿で何も分からない方が幸せなのだ。そう思ってしまう。

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