猫を鼻腔内腫瘍で亡くしました

タイトルの通り、愛猫を先日がんで亡くしました。12歳と11ヶ月でした。
私と同じように鼻腔内腫瘍に直面した飼い主さん達の一助になればと、そして何より自分の心の整理のために、病気の経緯と対応をまとめました。

せき

メスの三毛猫のせきです。多頭崩壊から保護された子猫を、姉妹二匹まとめて引き取った経緯があります。

せき
妹のはるととても仲が良かった


人見知りですが甘えん坊で、ブラッシングが大好きでした。
妹猫は一昨年腎臓病で亡くなっていて、一匹になって寂しいねと話していた矢先のがんの発覚でした。

以下、時系列です。

発症前

1年半ほど前から、せきはときどき赤い涙を流すことがありました。
頻度が少ないのと元々猫の涙が赤茶っぽいのもあって、重大には捉えていませんでしたが、今思えば初期症状のひとつだったのかもしれません。
先述の通り、妹猫が腎臓を悪くしていたので、姉のせきも罹るとしたら腎臓病だろうという思い込みもありました。

この時点まででやってて良かったことは、ペット保険に加入していたことです。
最終的に治療にはかなりの金額がかかりましたが、そのうちの半額が保険で戻ってきました。お金で命は取り戻せませんが、心の負担を減らしてくれました。

初期症状

2023年7月ごろからくしゃみをするようになりました。
軽いくしゃみで、人間でいうところの花粉症のような感じです。
ほこりっぽいのだろうかと思い、部屋を掃除したりしたのですが、改善せず。一過性の風邪だろうと甘く見ているうちに、くしゃみの頻度はどんどん増していきました。

8月になると、鼻水をともなうようになりました。鼻がつまっているため食欲も落ち、ここで初めて動物病院に行きました。
ひとまず風邪でしょうと診断され、ステロイドと抗生物質が処方されました。
ステロイド(プレドニン錠)の投与によって翌日には症状はほぼ無くなり、餌ももりもり食べるように。けれど、一週間後には症状が再発しました。

これは腫瘍の特徴で、ステロイドによって鼻腔内の炎症が抑えられるため、一時的に症状が改善しあたかも治ったように見えることがあります。
投薬でずっと症状を抑えられればいいのですが、腫瘍の成長や薬剤耐性がつくことにより、徐々に消炎作用は効かなくなっていきます。

CT検査・治療方針の決定

ステロイドで一時的には回復しますが毎度ぶり返し、さらに鼻血が出るようになったので、いよいよ鼻腔内腫瘍の疑いが強いということになりました。
その間にも血液検査、細菌検査を実施していましたが、いずれも問題はありませんでした。

がんの確定診断のためには、画像診断(CT検査)や病理検査が必要です。CTのある病院は限られており、かかりつけ医に紹介状を書いてもらい予約を取って向かいました。発症から3ヶ月たった10月のことです。

CTにあたって全身麻酔を行うため、12時間前から絶食絶水をしました。高齢猫にとっては全身麻酔そのものがリスキーなので、今日が最期になるかもしれないと本当に不安でした。
病院に行くと、「無麻酔で顔のCTを撮って暫定的に腫瘍を確認できます」と案内されたので、一も二もなく無麻酔CTを選びました。

病院に来る前、私はもしがんだったとしても、抗がん剤治療(化学療法)は行わないと決めていました。通院のストレスや副作用を考慮してのことです。
放射線治療に関しても同じです。寛解率の低さに対して猫への負担が大きく、選択肢から外していました。

CTの結果、鼻のあたりは真っ白でした。左側は目の裏にも腫瘍が回り込んでいて、間違いなくがんでした。
心の準備はしていたつもりでしたが、予想と事実として突きつけられるのとでは全く違いました。

画像診断の説明が終わって、先生から病理検査をするかどうか尋ねられました。がん細胞の種類によって治療戦略が異なるからです。しかし、鼻奥の細胞を採取するために、これもまた全身麻酔が必要ということでした。
私は検査を断りました。CTが無麻酔で終わった中、抗がん治療も行わないと決めているのに、不必要にせきの体に負担をかけたくありませんでした。

ステロイドで症状を緩和し、残りの時間を穏やかに過ごしてほしいという私の意見を、先生は尊重してくれました。でもそれは、寛解や延命の可能性を捨てていることと同義でした。
今でもこの選択が正しかったのかは分かりません。

分子細胞標的薬

かかりつけの動物病院の先生は、偶然にも腫瘍を専門とする先生でした。
その先生が、犬の肥満細胞腫で使われている薬が猫の鼻腔内腫瘍に効いた例があるとして、分子標的薬(パラディア錠)の使用を勧めてくれました。
分子標的薬は従来の抗がん剤に比べて副作用のリスクが少なく、とても魅力的に見えました。

10月の中頃からパラディアの投薬を開始しましたが、結論から言うと、せきには効きませんでした。
吐き気止めも一緒に処方されたのですが、食欲が激減し、一方で鼻炎症状は治まらなかったため、すぐに投薬を中止。以降は消炎鎮痛剤一本に切り替えました。

(あくまでこれはせきの例です。効く猫も居ると思います。分子標的薬の作用機序はまだ未解明な部分が多いらしいので、今後研究が進んで、ひろく猫の抗がん治療の選択肢になってくれればと願っています)

投薬の日々

10月末時点でせきの体重は1kg減っていました。
常に鼻がつまっているからなのか食欲が無く、好きだったパウチを半分以上残すようになっていました。

腎臓の値は悪くないので、水はしっかり飲んでいるようです。なので点滴はせず、食欲増進のための薬(レメロン錠)を処方してもらいました。レメロンは非常によく効き、微増ですが体重が戻りました。

また、消炎鎮痛薬についても、先生の判断でステロイド(プレドニン錠)から非ステロイドのオンシオール錠に変更しました。
これが良かったのか、11〜12月前半は10月より元気なんじゃないかと思うくらい、普通に歩いて、普通にご飯を食べていました。

鼻腔内腫瘍では腫瘍の肥大にともなって顔の変形がみられます。
せきも例にもれず、左目が突出して左右非対称顔になっており、眉間の盛り上がりもありました。少しずつですが、その程度は日々大きくなっていました。

「猫 鼻腔内腫瘍」で検索すると、膿が皮膚を突き破っているような、かなりショッキングな画像が出てきます。
先生に「腫瘍が皮膚を破って出てきた場合はどうするんですか?」と尋ねたら、消毒などで対応できると意外とあっけらかんと答えてくれました。けれど一方で、「飼い主さんの心が、愛猫の変わり果てた姿に耐えられないこともある」とも。

実は私も、初めて鼻腔内腫瘍について調べたとき、未来の私はそのショックを受け止められるだろうか、と同じような心配をしていました。
でもそれは杞憂でした。顔の形が変わったとしても、愛猫は世界一可愛いままでした。

最期

予想以上に元気なので、これはあと半年くらい持つんじゃないかと楽観していた12月の中頃のことでした。

ある日突然、せきは全くご飯を食べなくなりました。レメロン錠を変わらず投与しているのに、です。
足取りはふらふらで動作も緩慢、ああついにきたかと思いました。

水も飲んでいなかったので、この時点で病院での治療は諦め、自宅で静かに看取るための準備をしました。
このとき私が悩んだのは、点滴をやめるタイミングでした。点滴行為自体が猫にとってストレスになるのと、死期に脱水症状になるのは(痛みに対して意識を低下させるという意味でも)ごく自然なことだからです。
動かなくなってから二日目の晩、せきは粗相をしました。自力でトイレができないのであればと、次の日からはもう点滴はしないことに決めました。

一週間のあいだ、いつ最期が訪れるのかと緊張しながら過ごしました。当然寝不足になりました。
けれど予想に反して、クリスマスが過ぎたある朝、せきは自力で歩くようになりました。すぐに点滴をして水分を補給すると、翌日にはさらに元気になっていました。
命ってよくわからないです。

えさは変わらず食べないままだったので、動物病院に一度かかり、ロイヤルカナンのリキッドフードを買いました。シリンジで食事を与えるため、つまり強制給餌のためです。

ただ、強制給餌は2週間ほど実施して止めました。
強制給餌には一日で合計2時間かかります。その最中、せきはずっと嫌がって前足でシリンジを遠ざけようとしていて、正直可哀想でした。
それに、死期が近いことには違いないので、胃腸に過剰な負荷を与えたくないというのもありました。

年末の復活劇から最期にかけての一ヶ月、せきが排便したのは2回だけで、ほとんど水で生きているといっても過言ではありませんでした。
それでも自力で歩いて、家族に甘えながらゆったり過ごしていました。

1月の末、せきは再び寝たきりになり、1月28日、家族に見守られながら息を引き取りました。
穏やかな最期でした。


あらためて振り返ってみると、ステロイドなど何も処置をしていなければ、もって10月までの命だっただろうと思います。

せきは薬で命をのばしたわけですが、その間で何ができたかというと、正直何もできていません。むしろ通院などで嫌な思いをさせました。
だったら放射線治療を試してみても良かったんじゃないかと、後悔する自分がいるのも事実です。

穏やかに最期を迎えてもらうという方針でやってきましたが、投薬も点滴も強制給餌も、それらを止めたことも、本当に猫にとって最善なのだろうかとずっと悩んできました。今も結論は出せません。
結局のところ、飼い主が納得できるかどうかなんでしょう。

愛する猫がいない現実は虚しいです。
使われなくなった猫のトイレも、餌入れも、捨てることができそうにありません。
どうかいつか、腎臓病も癌も無くなって、一生猫と一緒に暮らせる世界になりますように。

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