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あの時できなかったことを

「夏の暑い時期に施工のご依頼があったらどうしよう・・・・」
今年は春先からそんなことを懸念しておりました。
「エアー鉋」を導入して二度目の夏。昨年は緊急事態宣言の影響もあり、春先からの受注活動が抑えられたこともあり、夏場の施工の受注はありませんでした。今年は春先から順調に受注が入るようになり、6月の展示会出展からつながる受注も夏には数件あるはずと予測を立てておりました。

植物性粉体を対象に吹き付け、劣化層をミクロンの単位で削り取る「エアー鉋」の作業は何よりその「粉体」を避ける必要があります。作業を近くで数分見学しているだけでも「粉体」を被って茶色い雪だるまがすぐできてしまうものすごい量。技術者(職人)はその「粉体」を避けるために、わかりやすくいうと防護服のようなものを着用して作業を行います。

夏用の作業にといわゆる小型ファンのついた「空調服」も準備してはおりますし、元が夏の外の作業の経験もある大工さんたちですから、体調コントロールもしながら作業はしてくれるとは思っておりますが、それでもこの暑さの中での作業は・・・・と心配はしておりました。

幸か不幸か、ご依頼いただくおりに「一番暑い時期が過ぎてからでいいですよ。」というお申し出もいただいたこと、また、お盆の時期はご寺院様も何かとお忙しいということで今週、来週は作業も小休止している状態です。

おかげさまで9月以降は作業カレンダーが順調に埋まり、「どうやってスタッフィングする?」という嬉しい悲鳴が生じる月も生まれてきており、この暑い時期を乗り越えるとまた違う世界が広がっていると峠を登っている気分でおります。

「あなたはニコニコ笑って構えているだけでいい。」
外資系企業で経営者の端くれとしての教育を受けていたときに、上司が冗談のように私に声をかけてくれていました。今思うと当時の私は自分のパフォーマンスを何らかの形で数字や実績に反映させねば、USやEU、ASIAの本社から良い評価を受けなければと眉間にシワを寄せて、剣を振りかざして戦っておりました。
正直に申しますと「ニコニコなんてしていたら付け上がられる。馬鹿にされる。」とも思っておりました。今だからこそ「ニコニコ笑っていなさい」というのは、おこがましいのですが私の頑張りを認めてくださった上で、「小さなことで一喜一憂しなさんな。大きく構えなさい。」と経営者としてのあり方を教えてくださっていたのかなあと思います。そう思うと、ただただ感謝の思いと、「ニコニコできずに申し訳ございませんでした」という思いがあふれます。

そして・・・私が自分で頑張れば頑張るほど、必死になれば必死になる程、まわりがうける波も大きかったんだろうな、と。
当時もよく「怖いよ」とか「厳しいね」と言われていたのですが、その時は恥ずかしながら分からなかったわけです。

今は小さいながらも一つのお城を作り上げ始め、看板を掲げ、その頃よりは表に見える範囲、規模は小さいとはいえ、多くのことを考え、決めて、動かなければならなくなっています。
うちの会社は本体はミニマムサイズなのですが(笑)いつの間にか「現代の名工」を職人チームのトップとして抱え、地方によっては知る人ぞ知る仏具店や太鼓メーカーが営業を担ってくださり、いつの間にか直接のお取引がなくとも、行政などに携わる方々や地元の名士とも呼ぶべき方々がビジネス状況を案じてくれるようになっています。
本当に時に恐れ多く思えるほど、ありがたいご縁が結ばれています。

その温かいご縁が私を支えてくれています。
私に、もう剣を振りかざす必要がないということや、本来の立ち居振る舞いを教えてくれています。

秋以降はまた違う流れになりそうという予感。きっとこの停滞時期は神様が「さあ、もう一度自分のお役目を考えなさい。どんな世界を目指すのか、どんなお城を築いていくのかを決めなさい。」と与えてくださった時間なのでしょう。

もう決めているはずだけれど、何度も何度も腹を括ってきたつもりではいるけれど、一つ階段を登るごとにやってくるこの「自分を見つめ直し、方向を定める決意」を促される「問いかけ」の時。

今の私はあの時できなかった「ニコニコ笑って」ができるようになっているようです。
峠の向こうに広がる景色を、その素晴らしい景色を皆で分かち合うことを心から楽しみにしながら、この時間を過ごしていきたいと思っています。

まだまだ暑い日が続きますが、暦の上ではあと数日で「立秋」、目には見えないけれど「秋」のエネルギーが入り込むタイミングです。皆さまが春から育ててきた種はこの夏の日差しの元で大きく成長し、「秋」に豊穣、実りを迎えることになります。
皆さまもどうか「できないこと」に心悩ませるのではなく、「できなかったこと」を乗り越えてきたご自分の力を信じて、新たな面からご自分の「実り」を楽しめる季節を迎える準備ができますように、心よりお祈り申し上げております。

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