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夢・備忘録

 めずらしく夢を憶えていたので、書き留めておく。

 いっちゃんが突然家に住まわせてと押しかけてきた。

 いっちゃんは、若いときに活動していたノイズバンドで、一時ドラムを叩いていた同い年の女性だ。(わたしはノイズG &Voだった)
恋愛、仕事、体調不良、遊び、人生がいちばん忙しい時期を一緒に過ごした友人でもある。

 強引に我が家に住み着いたいっちゃん。ある日、仕事から帰ったら台所のコンロ6口すべてを使って、彼女が凝った料理を作っていた。イギリスの郊外の家のような、カントリー調のアイランドキッチン。寸胴鍋にはもうもうとスープ、骨付き肉がフライパンに放射線状に並べてある。ジャムで煮込んでいるらしい。他にもエスニックな香りのする料理が火にかけられている。
 わたしはお腹が空いていて、家族を待たせているのだ。すぐにでも調理に取り掛かりたいのに、おおらかで豪快ないっちゃんは、台所を片付けながら料理をしない。まな板も包丁も全て使いっ放しだ。
 オーガニックでエシカルで丁寧な暮らしを励行するいっちゃんは、シルクの五本指ソックスを重ねばきして、手編みのカラフルなレッグウォーマーをつけている。絶対腹巻きも巻いてるはずだ。いっちゃんは身体を冷やさないように気を遣っている。そんな彼女が持ち込んだ謎調味料が、アイランドキッチンにズラーっと並んでいた。
 わたしはイライラして、ギリギリ聞こえるように口の中だけで嫌味を言いながら、冷蔵庫の食材をかき集める。残っている材料で作り始めたのは、肉なしミートソースだった。
 いっちゃんの骨付き肉は、彼女とわたしたち家族の人数分、8本が並んでおり、てらてらと光って美味しそうだ。いっちゃんが「一緒に食べよう」という前に、肉なしミートソーススパゲティを完成させなければ、とわたしはさらにイライラする。家族にいっちゃんの作る料理を見せてはいけないと焦る。骨付き肉は手が汚れるし、ぎたぎたになった手でグラスやテレビのリモコンを触られるのは嫌だ。それに、いっちゃんの料理を食べてしまったら、肉なしミートソーススパゲティなんか誰も手を付けないだろう。

 いっちゃんとわたしの家族は、顔中をジャムまみれにして、シャツの袖で拭く。スマホで写真を撮る。インスタにアップするかもしれない。脂の付いた指で擦られた液晶画面が、虹色に光っている。家族はわたしが用意した食卓を囲むときより、よく笑い、自由に振る舞っているように見えた。
 わたしは涙が出そうになって、冷めて艶のなくなった肉なしミートソーススパゲティーを、わざと蕎麦のようにずるずると啜った。いっちゃんとわたしの家族の白いシャツに、真っ赤な点々が血飛沫みたいな印を残していた。

 最近いっちゃんが編み物の進捗をインスタにアップしていて、それを見るのが楽しみだったから、彼女の夢をみたのかな。久しぶりに会いたくなった。

*人物像と設定は事実とは異なる。

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