五祖伝説
禅は、四祖・道信禅師のころから、広く人々に知られるようになった。
黄梅県の双峰山(破頭山)に住したときには、五百人の修行者が集まったという。
以下は、ほとんどおとぎ話のような伝説である。
この山中に、たいへん高齢で無名の一老僧がいて、松をせっせと植え続けていたので、栽松道者(さいしょうどうじゃ)と呼ばれていた。
栽松道者は、四祖にまみえて尋ねた。
「わしが仏法を得ることはできましょうか。できるのなら、お教えくださりませ」
「あなたはもう、だいぶ年を取っています。仏法を得たとしても、もうそれを広めることはできますまい。この生が終わったなら、もう一度生まれ変わっておいでなさい。私はあなたをお待ちすることにしましょう」
栽松道者はある日、川のほとりで洗濯をしている一人の娘に目を止めた。
道者は尋ねる、
「私に宿を貸してくれませんか」(私をあなたの中に宿してくれませんか)
「わたしは父や兄の許しを得なければなりません」
「わかりました。もし承諾してもらえるなら、お願いします」
娘はうなずいた。
道者は策をめぐらせた(とある。待ちきれずに娘の中に入ってしまったようだ。)
この娘は、周家の娘であったが、家に帰り着いたときには、もう孕んでいた。
父母は怒って、娘を追い出してしまった。
娘は帰る家をなくして、織物の里で、日雇いの仕事をしながら、男子を産んだ。
これが五祖(弘忍禅師)なのだという。
ところが母親は、得体の知れないこの赤ん坊を水辺に捨ててしまう。
次の日、見に行ってみると、死んでしまっただろうと思っていた赤ん坊が、流されもせず、生きていた。
生きていただけでなく、強烈なオーラを放っている。
母親は驚いて、赤ん坊を抱きあげた。
母親と子供は、村で乞食をしながら暮らしていたが、父親のいない子供であったため、姓のない(名のない)子供、と村人たちは呼んだ。
やがて、七歳になった童子は、四祖によって見い出される。
四祖は童子に尋ねた、「おまえの姓は何だね」
童子「姓がないわけではありませんが、普通の姓ではありません」
「では何という」
「仏性といいます」
「姓がないのではないかな」
「もとより何もなかったのですから、そんなものもないのです」
四祖は、この童子が栽松道者の生まれ変わりであることを確認して、母親を説得し、童子を引き取って出家させた。
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