ドライ=もん(戯曲)

みさこ(以下、み)「プーたん、今年もイグに出すん?」
プリコグたん(以下、プ)「美沙子さん、その呼び方、やめていただけます?」
み「いいじゃないのよ。好きなように呼ばせろよ」
プ「はいはい、しかたないな」
み「去年はわたしの未来の演説をそのまま書き起こしたのを出したんよね。今年もそれでいくん?」
プ「あのね、今年は『自分がアホだと思うヤツ』ってテーマが指定されてんのよ」
み「じゃあ、わたしのじゃダメか」
プ「え、そんなことないと思うけど……」
み「どういう意味⁉︎」
プ「冗談よ。大丈夫、この一年の間に思いついたネタをちゃあんとストックしてるから」
み「へええ、すごいじゃん」
プ「それも、ふたつも」
み「一年でたったふたつか」
プ「ボクは真面目だからイグ向きのネタは難しいんよ」
み「……どんなヤツなん」
プ「聞いてくれる? ひとつめはね……」
     = = = =
季節は冬
深夜、安アパートの一室。机に向かい漫画を描いている主人公、ノヴァ=ノヴァータ(通称、ノヴァタ)
明日の締め切りのため、今夜は徹夜の覚悟だ
カリカリ、とペン先の音だけが続く
今回は傑作をものにしている自信があった。なんとしてでも明日までにこれを仕上げ、提出するんだ。今度こそは間違いなく入選するぞ
そうノヴァタは自分に言い聞かせている
そのとき、なにやら机の一番上の広いほうの引き出しの中から、ごそごそと音がした
「なんだ? ネズミでもいるのか?」
そう思いつつも、ペンを走らせ続けるノヴァタ
手を止めている余裕はなかった
突然、バコンと威勢よく引き出しが開き、ノヴァタの(やや)出っ張ったお腹を直撃した
ブッ!!!
後方にふっとぶノヴァタ
「なっ、なに???」
椅子ごと倒れてしまったノヴァタが上半身を起こして机に視線を向ける
すると、開いた引き出しから、ヌッと手が出現した
青ざめるノヴァタ
もう片方の手も出てきて、両手が引き出しの縁にかかった
次の瞬間、ビュンと黒装束の男がそこから飛び出した(見た目はマトリックスのネオである)
ストン、と、机の前に男は仁王立ちとなる
腰を抜かして声も出ない状態のノヴァタを男は見下ろし(サングラスで視線の向き先はわからない)、口を開いた
「オレはドライ=もん」
「へ?」
「オマエの子孫が先祖を守らせるためにオレをここに送り込んだ」
おお、よくあるヤツか。ようやくオレにも運が向いてきたぞ! と思い、ノヴァタは喜色満面となった
「ああ、なんだ、びっくりしたよ。ハハハ、僕はまた、引き出しにネズミでもいるのかと思っちゃった」
「なにぃ⁉︎ 引き出しにネズミだと?」
途端に殺気だった顔つきになるドライ=もん(くどいようだが見た目はキアヌ・リーブスだ)
素早い動きで懐からなにやら取り出した
それは(いったい懐のどこにそれが入っていたのかわからないほど巨大な)銃のような物体である
「え? えっ⁉︎ な、なにそれ」とノヴァタ
「これか?」
眉毛ひとつ動かすことなく、ドライ=もんはそれを構えた
(てってれー)「分子還元銃」
口をあんぐりとするノヴァタ
「これを打てば直径最大5メートル範囲の物質はすべて分子レベルへと還元する」
そう言ってからドライ=もんはポチポチと銃身の横側のパネルを操作する
「出力を最小にセット。これならば影響は1・5メートルの範囲に収まるだろう」
「え……、ちょ」
ノヴァタが止める間もなく、机に向け銃をぶっ放すドライ=もん
まばゆい閃光が放たれた次の瞬間には、机があった空間からは、机だけでなく壁や床まで丸い形に何もかもが消失していた(もちろん机のうえにあったノヴァタが描きかけていた原稿もだ……!)
開いた穴からは、通りがかりのヨッパライが何事かと目を丸くしているのが見えた
その場で白目をむいているノヴァタ
「安心しろ、これでネズミは消え去った」とドライ=もん
――いや最初からネズミは存在していなかったんだけど、とナレーター(ノヴァタは白目のままなので代わりにツッコんだのだ)
そのとき、部屋の片隅で電話が鳴った
大股に電話機に歩み寄り、受話器を手に取るドライ=もん
「ミッション完了」
そうドライ=もんが言うと、その姿は消失し、受話器が床にポトリと落ちた
机のあった空間からピューと風が吹いてきて、ノヴァタの髪をゆらした
     = = = =
み「たしかにアホ。というか、バカよね。で? もうひとつは」
プ「二回戦に乞うご期待!」
み「イグは決勝まで一作品じゃね?」

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