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短編 / 掌編

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エコバッグに詰め込んだアイディアたち
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#掌編

半径100メートルの天使

 どうしてせっかく直接会わずに済むリモート会議だと言うのに、ケンカになってしまうのか。まあ、上司とは言え、プライベートのことで説教めいたことを言われたのだからこちらが下手に出ることはない。だからそのままを口にした。すると相手はムッとした。自分から言い出したのに、それはないだろう。  とりあえず時間が来て「それでは後ほど」と言って画面を消せるのはいい。相手を削除できたみたいでそれはそれでスッキリはする。しかし、もやもやした気持ちが収まらない。  よし、飲むか。  冷蔵庫を

ラストシーンは来なくていい

 夢を見ていた。  もちろん、紛れもなく現実の中で。  大部屋俳優、なんて呼ばれている来生だが確実に実力がついてきている、と実感していた。端役ではあってもオーディションに受かる率が増えている。更に実際演技をすると手応えを感じた。  今日もそうだった。一生会えるのかどうかすら判らないほどのベテラン俳優であり、雲の上の存在だった役者と共演でき、彼に言葉をもらえた。嬉しい言葉だったが来生は有頂天になるより先に、身が引き締まる想いだった。彼の作品やインタビューはほとんどすべて観てい