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ソファーの上でロマンスを

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2004~2006 Novels Archive 大澤誉志幸さんの音楽から想起した物語。
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2022年1月の記事一覧

Private Heaven

 目を覚ますと、一瞬ここがどこか判らなくなった。  国際線の飛行機の中、ナナは周囲を見渡して思い出す。  こうして飛行機に乗っているのにまだ迷いがある。もう空の上だから後悔したって遅いんだけど。ナナはシートを倒してもう少しだけ浅い眠りに入った。目的地まではまだ時間がかかる。  それは突然だった。  土日祝日等とは縁のない仕事をしているナナに五月のゴールデンウィークは頭になかった。いつものように健やかに眠り、朝になり、新聞を取りに郵便受けを見に行くと見た事のない封書がナナ宛

One On One

 夜はバー、朝になるとカフェに入れ替わるこの店で、熱いだけのコーヒーを飲みながら視界が揺れる窓を見る。雨なんて、うんざりだ。  家にも帰らず、うだうだと何時間も店に入り浸る俺はなんてだらしないんだろう。憂鬱な気分を雨のせいにして昨日は仕事を休んだ。その後この店で酒を飲み、多分テーブルに突っ伏して眠り込んでいる間に店のスタッフが清掃も終えたのだろう。  いつの間にか夜が明けたらしく店内はカフェに早変わりしていた。外は曇っているが朝と言うだけで充分眩しくて瞼の奥がズキズキする。

What Can I Do

 そのホテルのラウンジからは、湖が一望できた。  夏に近い爽やかな気候のその日、オレは高校時代の同級生で、海外を拠点に仕事をしている友人が一時、日本に帰って来ると連絡を受け、らしくなくこんな場所で待ち合わせをしていた。何もこんな高級感のある場所じゃなく、その辺のファストフード店でもいいじゃないか、と心の中で毒づきつつも、友人がこのホテルのラウンジを待ち合わせ場所に指定して来たのだから仕方がない。気持ちを切り替えて、慣れない雰囲気の中、コーヒーを注文した。程なくして友人である彼

Long Distance Girl

 雨の朝。窓に映る街の中はかすんでいた。  カーテンを閉じてベッドに転がり、僕はため息をつく。恋人と別れた痛手がまだ残っている、なんて言ったところでかっこつけにもならない。ひとつだけわかること。僕は最初から終わる恋だと判っていた。彼女がどう思っていたのかは知らない。嘘つきな恋愛だった。愛していた。けれど僕は嘘に疲れた。最後に見た彼女の泣き顔が瞳の奥に叩きつけられるように今でも浮かぶ。嘘をついてでも僕たちはつき合って行くべきだったのだろうか。生活と性格の不一致。愛しいまま僕たち