マガジンのカバー画像

ソファーの上でロマンスを

16
2004~2006 Novels Archive 大澤誉志幸さんの音楽から想起した物語。
運営しているクリエイター

2021年12月の記事一覧

Welcome

こんにちは。幸坂かゆりと申します。 こちらは更新、案内ページです。このマガジンは2004年頃から同タイトル『ソファーの上でロマンスを』という拙ブログにて書いていた短篇を纏めています。当初、敬愛するアーティスト、大澤誉志幸さんの曲名を小説化して書くという目的を持っていたのですが、あまりにも曲が膨大なのと自分で聴き込んでいないもの、難しいと感じるもの等が多くなり、当時は毎日のように更新していましたが書けないまま放り出した形になってしまいました。 けれど、大澤誉志幸さんのタイト

完璧なエゴイスト

 僕はファンシーな物は受け付けない。  待ち合わせている彼女は僕の苦手なその類の物が好きだった。最初は……恋のせいで瞼を閉じてしまったのだ。けれど時が経ち彼女の好きな世界が判った頃、ついて行けないと思った。好みの問題だから彼女のせいじゃない。ただ僕には無理だ。合わせられない。だからそれぞれの道を歩むしかないと思い、今日こうして彼女を待っているという訳だ。それにしてもうるさいカフェだ。  店内を見回してみる。いかにも彼女が好きそうな犬も同伴できるログハウスで、ぬいぐるみが至る所

罪と罰

 つい、癖でポケットに手を突っ込んでしまう。そこに携帯電話はないとわかっているのに。仕事用のものはある。プライベートで使う方だ。家に置いて来てしまったのだろうか。少し焦ったが、もしこのまま見つからなかったら彩子に鳴らしてもらうまでだ。  彩子は僕の妻だ。  派手さはないが柔和で大人しくて、いつも美味しい夕食を作って待っていてくれる。しかし仕事を終えて家に戻ると、部屋の中の雰囲気が違った。いつもならするはずの料理のいい匂いもしない。とにかく彩子がいない。何度も呼んだが返事もない

僕の恋人

僕が彼女を知ったのは、大人が集うような店だった。 本来、まだ未成年である僕はそんな場所に入ってはいけなかったが、僕は同じ年頃の少年たちよりも大人びた外見を持っていたせいか、バーテンダーに気づかれることはなかった。ほんの少し優越感を持ちたくて、ばれない程度に時折この店に来るようになった。もちろん、アルコール度数が低いロングカクテルくらいしか飲めなかったのだが。 その日、店内はまだ早い時間だったせいか空いていた。そこに彼女がいた。彼女は店の奥の、人目につかないような席に座り、煙

赤いヒールと平手打ち

まったくイヤになる。 オレがこの国に来たのは親父が無理矢理連れて来たからだ。 まだ幼かったオレをまるで人形みたいに意見も聞かず、母親の手から連れ去った。なのに親父と来たら何の言葉も会得しない内にぽっくりと逝きやがった。残されたオレは、と言えば宿泊していたホテルの年老いた女に育ててもらったらしい。親父はそれでもオレが死ぬまでこのホテルで暮らせるだけの金を遺していた。女は娼婦でオレは彼女に育ててもらったと言ってもいい。その娼婦、リーナは外出していることが多いので部屋の掃除などは