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【漫画感想】『ウルさんは僕の夢の中』を読んで我が夢を振り返る

 私はたまに、寝ている間に見た夢の内容をTwitterに書き残したりする。そいつを読み返してみると中々面白い。過去の夢ではニンジャの大統領をカラテで襲撃して殺したり、鬼滅の刃アメリカ編(実写ドラマで、主人公は刀ではなく暴力で鬼退治する)を見ていたり、藤井聡太八冠に車の運転をしてもらっていた。今朝方は「核戦争を起こした方が最終的に世界は平和になる」という危険思想のもとアメリカに開戦をけしかけるというイカした夢を見たものだった。

 夢は現実で起こり得ない出来事を、シラフでは思いつけないような奇想を見せてくれる、だから好きだ。しかし最近は悪夢に苦しめられることもある。よくあるのが大学で卒業単位が足りなくなる夢や職場でデカいやらかしを犯す夢で、その後の朝はショックのために午前の健康状態が著しく害される。出来ることなら穏やかで悪くない夢を見たいものだ。そんな折に出会ったのがこの『ウルさんは僕の夢の中』という漫画だ。
  (3分くらいで読了できるのでリンク先からとっとと読んできて下さい、この先はネタバレ込みだし)

 間違いなく漫画オブザイヤーの1つであり、これまで読んだ読み切り漫画の中でも十指に入るほどに私の心に沁み入った。いい夢をみるための研究をしている「僕」が夢の中で「ウルさん」というお姉さんと出会い、よろしくやっていく本作は、モラトリアムの美しさと離別をこの上なく表現した50P弱に仕上がっている。

 私がこの漫画の美点だと感じたのは、登場人物の個々人の悩みの解決に重きを置いていないということ点だ。「僕」は現実に「ウルさん」は夢に揉まれ、疲れ果てている。そんな2人が出会い、時間と空間を共にするそこが癒しと楽しみになってくれていた。癒しと楽しみ、それ以上の発展性は特になくて、経験を持ち帰って人生の問題が都合よく解決する展開も起きず、そして2人の夢の時間はある日唐突に終わりを告げる。

 少し冷淡も思えるこのバランスが私にはとても刺さった。人生の悩みや障害は夢に頼ろうと頼らずとも消えないし、自力で解決するしかないものだ。けれども夢の研究に没頭した日々は、そしてウルさんと交流したあの時間は無駄ではない、否、無駄なものだからこそ尊かったのだろう。ウルさんに方にしてもきっとそうだ、そんな行間に思いを馳せさせてくれた。

 ともかく実にいい漫画だった、心の片隅おまえをしまって生きていくとしたい……しかし私の心は浅ましいのでそんな小綺麗な感想で終わってくれない。

 願わくば、この私の夢にもウルさんがやってきてほしい。居間でウルさんとただ無為に時を過ごしたい、ウルさんがくれたクッキーを苦いコーヒーと一緒に食べたい、思いのままにできる夢の中であえて手料理を作ってウルさんを驚かせたい、ウルさんのシャンプーの匂いに胸の高鳴りと罪悪感を感じたい。けれども私の願いはきっと叶わない。私の見る夢は決して、作中の「僕」のように高潔なものではない。例えばウルさんを、大統領をカラテ殺する夢や世界大戦をけしかける夢に誘ったら一体どうなるものか。

わたし「みてみてウルさん!イカれた連続殺人鬼を車で轢いたよ!でも殺人鬼はタフなので何度でも立ち上がって襲ってくるよ!すごいね!!!」
ウルさん「は、ははあ……君のはまあ、よくある支離滅裂な夢の類だねえ。しかしなんというか、暴力性は君の趣味なのかい……?いや、別にいいのだが……」

 だから私はウルさんを楽しませてあげられない、むしろ彼女を苦しめる側の人間だ、だからウルさんと会いたいなんて言う資格なんてない。夢にも現実にも私の魂を救ってくれる都合のいい存在なんていないのだ、そう思うとなんだか悲しい気持ちになってしまった。

 そんな事を綴っていたらもう日付を回っている。今日はもう寝ます。今宵は悪夢でもカオスでもなくて、穏やかなだけの夢を見たいな。

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