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2022年映画 個別賞表彰式

 今年は私にとって最悪な年だった、私生活での色々なアレがアレだったり、アレなイベントが重なったりで私の精神は満身創痍となってしまった、今はだいぶ改善したが。そうなると本も映画も思うように積み消化できなくなるし、アウトプットの源泉がピタッと枯れてしまう。来年以降はなんとかしたいものですね。

 とはいえ、そんな精神状態にあっても、いつくもの優れた映画に巡り会うことができたので良かった。本数こそ昨年より少なかったけど、平均値が結構高かった気がする。前情報抜きで特攻するのを控えた結果といえばそうかもしれないが。

 せっかくなので本年のベスト10記事でも仕込んでみようかと意気込んだものの、優柔不断なプラナリア君に迷いが生じる。年ベストを名乗るだけのリストを作るには、観たかったけど見逃した新作が多かったし、鑑賞数も伸び悩んだ(あくまで個人的な基準)訳だし、なにより自分ごときが、人様の作品に点数を与えて序列決めする行為にだんだん限界を感じつつあったのも大きい。悩んだ末に、とある部分で秀逸だった作品をピックアップし、それぞれ然るべき部門賞(作品賞とか脚色賞とかそういうアレ)を与えることにした。要は仮装大賞の結果発表みたいなノリですね。それではやっていきます。

撮影賞『ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦』

 この撮影賞を冒頭に配置した理由は1つ、この『ファイアー・オブ・ラブ』をより多くの人に知って欲しいからだ。

 例えば『トップガンマーヴェリック』は、撮影という観点で言っても素晴らしかった。危険な大空へのハイウエーに踏み入って初めて得られたリアルな大迫力。素晴らしい映像とその裏にある作り手の熱い意志に全世界が涙したことであろう。しかし、こうした超大作映画にも勝るとも劣らない、リアルな撮影の迫真性があるドキュメンタリー映画があるとしたら?

 主人公は火山学者夫妻として名高いカティア・クラフトとモーリス・クラフト。2人が出会い、火山に生き、火山に殉するまでの生涯を実際の映像資料を用いて綴ってる。ここで言う映像資料というのは夫妻が実際に山に登って撮影したものが大半を占めるが、どれも正気を失っている。溶岩から滅茶苦茶近い場所を歩道であるかのように歩くわ、溶岩の傍に週単位で住み着くわ、固まりかけの溶岩を手袋越しにこねるわ、THE MAKINGの労災回どころじゃなくヒヤヒヤすること間違いなし。彼らは決して肝試しや酔狂でやっている訳ではなく、明日死んでも悔いはないと腹を括った上で、片方がしくじれば両方死ぬような研究に身を捧げているのだ。

 人の都合など及ぶべくもない自然の驚異と、そこに心酔した2人の探求心に我々はただ圧倒されるばかりだった。ディズニープラスに貢いでいる方はぜひ観ていただきたい。

主演男優賞『ウィリーズ・ワンダーランド』より ニコラス・ケイジ

 主演男優賞はニコラス・ケイジさんに贈られます。ズルい、これは反則でしょ。「廃遊園地に巣食う人食い着ぐるみがターゲットに選んだのは最強のニコラスケイジだった!」までは予見できますよ。けどね「しかしそんなニコラスケイジにも弱点がある、定期的にエナドリと3Dピンボールをキメないと死んでしまう体質だったのだ!」までされて耐えられる人間は存在しません。私の負けです。

主演女優賞『漁港の肉子ちゃん』より Cocomi

 主演女優賞はCocomiさんに贈られます。モデルやフルート奏者として活動されている方とのこと。Cocomiさんが演じたのはタイトルにある肉子ちゃんの1人娘キクコで、本作はそのキクコが海上の自宅(!?)で暮らしたり、同級生とのわだかまりに立ち向かったり、ミステリアスな男子の秘密を知ったり、自らの産まれに関する秘密も知ったり……とまあ、そういう物語だ。

 兎にも角にも、終盤のある場面でこの主人公のことが大好きになってしまった。映画の随所に挿入されていた不可思議な演出、それが何だったのか明かされる時の、まるで許されるような、暖かさで全てを包み込んでくれるような……そんな雰囲気にやられて、本作は私にとって良き思い出として刻まれたのだった。もちろんCocomiさんの演技も大ハマりしていた。声優初挑戦で爪痕を残してくれる例が昨今は多い気がする。

 余談になるが、男優賞と女優賞を決めるにあたって今年鑑賞作を振り返ると、男性主人公作品の比率が想像より遥かに高かったことに気づかされた。もっと意識して女性を描いた映画も観たいな。

アクション賞(光部門)『HIGH&LOW THE WORST X』

 アクション賞の選定は熾烈を極めたが、それでも初めて劇場で観たハイローを外す訳にはいかなかった。従来作より洗練された反面小さくまとまった感のある脚本にやや窮屈さを感じるものの、究極のアクション、美術、キャラ造形は容易に我々をハイローの世界にいざなってくれる。

 大量のならず者とならず者が雪崩込み、マシンガンめいて魅せ場が連なるる光景は正にハイローならではの贅沢さ、そんな中にあって一際存在感を放つ須嵜亮という特異点はとんでもなかった。

アクション賞(闇部門)『カーター』

 私は熟考の末アクション賞の枠が1つでは足りないと判断し、闇部門としてカーターをブチ込むに至った。この作品の異常性をスルーしてしまうのは余りにも惜しかったのである。主人公は記憶喪失、襲撃する武装集団、訳の分からぬまま謎の声を頼りに刺客から逃走したり、返り討ちにする……のだが、最新の撮影技術を惜しみなく用いたワンカット風の滅茶苦茶ゴリゴリ動く映像と、常軌を逸したアイデアの数々が視聴者の脳を容赦なく蝕む。

 アクションパートは「凄い」と「見づらい」の境界線を行ったり来たりするし、お話もやたら難解で、ラストも腑に落ちない。優れた映画とは正直言いたくないけど、唯一無二の体験を味わえるという点でみるなら間違いない一品。きっと記憶に忘れがたい133分になることでしょう、ストーリーの内容ほぼ思い出せないけど。

名台詞賞『ヴィジット』

 せーのっ、「ヤッツィーーーーーーーー!!!」

 (大変すばらしいジュブナイル×ホラーでしたよ。スタッフロールも最高)


タイトルロゴ賞『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』

 フリー素材ヒトラーをダシにしたおちゃらけ映画かと思いきや、想像より1万倍は大真面目でその上タイトルには一切偽りがないことで有名な本作は、タイトルロゴがバンする時点ですら死ぬほどカッコいい。

 与太者「ヒャッハー!か弱そうな老人だーッ!」
 おじさん「ウワーッ?!」
 与太者「略奪と破壊だぜ!」
 実はかつてヒトラーを殺した経験のあるおじさん「なら死ねい!」
 与太者「ウワーッ?!」

 といった具合の、舐めてた相手が最強の殺し屋だった〜な文法のシーンが最序盤に差し込まれる。だが彼の顔、仕草……なんて悲しそうなんだ。長く数奇な人生を辿った男特有の憂いは重苦しく、この映画は本気で「ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男」の半生を描こうとしているのだと、再生ボタンを押すまで舐めてた視聴者が気づかされた所で……

   THE MAN WHO
            AND THEN    THE BIGFOOT
   KILLED HITLER

ラストカット賞『真・事故物件 本当に怖い住民たち』

「本当に怖いのは幽霊ではなく人間だったのです……」というホラーの常套句があるらしいが、そうした言葉を何週にもメタった作品だったと思う。売れない女優の主人公たちはマネージャーに立案された怪しげなホラー企画の一環として、事故物件として噂の古アパートに住まわされてしまう。そこで遭遇する心霊現象とヤバい住民。やがて上がる悲鳴と血飛沫、臓物!そして……!

 道中はやや乗り切れなかったのだが、ラスト2分足らずの部分がそれはもう大変な騒ぎになり、完璧なタイミングで『THE END』が出るので大興奮してしまった。もうお前が優勝でいいよ。とはいえ、どこからどう見ても某映画のパロディでしかないし、よく考えるとストーリーの流れ含めてコピってる感もなくはない、それでもジメッとした邦ホラーからこの展開に至るのは極めて痛快だし、引用元と思われる作品の監督に見せても笑顔になってくれる気がするので、たぶん大丈夫ではないか。

歌曲賞『RRR』より Naatu Naatu

「"ナートゥ"をご存知か?」

 「!?」

 今年はナートゥの年でした、自分にとってのVR元年がいつやって来るかは分からないけど、ナートゥ元年は間違いなく到来していたよ。作品全体に対する所感は後ほど。

歌曲賞(同時受賞)『ONE PIECE FILM RED』より ウタの歌

 こちらも同時受賞とさせて頂いた。なにせ紅白歌合戦に出場したのだ、このnoteを執筆している間にもウタは天下のNHKで、その美しい歌声を披露している。冗談じゃあない、彼女が一体どんな思いで新世界作ろうと、海賊の世を否定しようと……いや、もうよそう。

 緻密な伏線管理が十八番に見えて、実は無から面白い設定を生やすのが宇宙一うまい男尾田栄一郎ら劇場版スタッフが新たに仕掛けるのはなんと、あの四皇シャンクスの娘にして新四皇ルフィの幼馴染であるインターネットカラオケマンのウタ。稀代の歌姫として世界中から愛と信仰を捧げられる彼女が初めてリアルライブを行うが、その裏には恐るべき陰謀が渦巻いていた!きっとあのゴードンという男のしわざに違いない……というあらすじだが、もう色々エライ事になっており、これが今年No.1ヒット作品というのが正直信じられない。

 歌唱役に現実世界における稀代の歌姫Adoを配し、鮮烈な舞台演出と共に放たれる「新時代」のインパクトたるや。それが物語が進むにつれ不穏で禍々しく変化する曲調、明かされる本性と止まらないライブ。中盤の「救世主の負荷耐久試験」とでも言うべき会話劇はあまりにも真に迫っていてゾッとした。恐らく製作陣も"異色のワンピース"のつもりで作ったのだろうけど、その試みは成功しているし、成功しすぎている。

 仮にベスト10表を作るとしたら、恐らくギリ入らない程度の立ち位置になるだろうけど、印象深さで言うなら恐らくナンバー1だ。私はこのFILM REDを通してワンピースという作品を再発見した。2022年という年は私にとってワンピースの年だったように思う。

ベスト悪役賞『アンブレイカブル』『ミスター・ガラス』より ミスターガラス

 今年も優れた悪役に数多く巡り会うことができた。『孤狼の血 LEVEL2』の鈴木亮平はストレートに邪悪で素晴らしい。『シン・ウルトラマン』のメフィラス星人はフワッとしていた物語にテーマを提示してキュッと引き締めてくれた。『ザ・バットマン』のリドラーもバリーコーガンも大好き、ペンギンは泣いていい。また旧作になるが、ザ・バットマンに備えて観たバートン版バットマン2部作もそれはそれは凄くって……

 『ザワクロ』の須嵜亮はもっとも美しく強い。『スパイダーマン : ノー・ウェイ・ホーム』は悪役に焦点を当てたストーリーがとても響いた、もっと彼らのことを知ってから観るべきだったと後悔。『トップガン マーヴェリック』における敵国の設定は極めてミニマルなものだったが、かの軍のエースパイロットの変態性は忘れがたい。『必殺!恐竜神父』の忍者集団も愛すべき奴らだった。そういえば『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』の犯人の犯行もちゃんと怖いものだったのでビックリしたなあ。

 とまあ、候補になる悪役は色々いた訳だけど、「ヒーローとは、悪役とは何か」「二者が最後に立ち向かう敵とは」といったメタフィクション問答に挑戦し、あらゆるヴィランとヒーローの根源と化したミスターガラス氏を表彰したい。メタフィクション大好き丸なのでこの三部作、特に最終作は本当に刺さった。

作品賞『サイダーのように言葉が湧き上がる』

 ベスト10作成こそ拒否したものの、これが今年No.1だと胸を張って言える作品くらいはバッチリ決まっている。それは12月下旬という終盤も終盤に滑り込んできた怪物、サイダーのように言葉が湧き上がるだ。

 本作における最大の成功はその舞台設定。果てしなく広がる水田の海と、ここではないどこかに繋がってそうなバイパス道、そんな田舎と言うほどでもないけど何もない郊外に浮かぶショッピングモールという舞台は、私を労せずして郷愁の世界にいざなう。大筋は本当にストレートに素晴らしい思春期ラブコメで、それぞれのコンプレックスをぶち破って思いが爆発するクライマックスはジーンと来てしまう。

 けれども明るいだけじゃない、美しい色彩と若者たちの物語の裏に何か後ろ暗いなにかが、言うなれば「緩やかで差し迫った滅び」とでも形容できそうな空気感が、少なくとも私には感じられた。シャッターで埋め尽くされた商店街、モールの敷地にかつて存在した施設、デイサービス。そんな風景が、一体どうしてこうも胸に突き刺さるんだ。そのシャッター商店街にずっと住まい、今はデイサービスに通っている1人の老人の物語は主役2名と遜色ない重みを持っていて、彼に訪れた救いに私は本気で涙を流してしまった。

 一応、面白さの絶対量や欠点の少なさとかで言うなら、本作より上だったのはいるのだけど、自分へのブッ刺さり具合を加味してベスト1とさせて頂いた。えっ?じゃあその2位に甘んじた映画は何かって、それは……

特別賞『スパイダーマン : ノー・ウェイ・ホーム』『トップガン マーヴェリック』『RRR』

 今年を代表する3作に共通するポイントが1つだけある。面白い、ただただ純粋に、あまりにもエンタメとして秀逸、たったそれだけ。

 ここまで色々な部門賞を表彰してきた訳だが、この3作は上記のほとんどの賞にニアミスしている、あるいは肩を並べてもいる。とにかくあらゆる点が優れていて、欠点も、全くとはいかないだろうが、殆どない。性癖とのマッチング度を度外視するならば、今年鑑賞した様々な映画と比較しても頭1つ抜けている。

 『NWH』では長らく続いたり中断したりしたシリーズの集大成を、最高の形でお出ししてくれた(過去作もちゃんとチェックした上で臨みたかったなとつくづく後悔している)。『マーヴェリック』は体当たりの超映像と時代の節目を感じさせるストーリーテリングで、これぞ理想の映画の型だと高らかに叫んでみせた。また『RRR』はメガトン級の奇想と熱量を"たった3時間"にまとめ上げ全世界に殴り込んだ。確かに今年は私にとって最悪の年だった、ずっと沈んでいた。それでもそんな事など意に関せず、これ程までに面白い、執念すら感じるほど楽しさの研ぎ澄まされたエンタメがいくつも産まれては世界を駆け巡っている。

 暗い感情に絡めとられて抜け出せずにいた私にとって、そういう事実がある種の救いになっていたのかもしれない。例え落ち込んだとしても最高に面白いエンタメはすぐ側にあって簡単にアクセスできる、そんな何気ない事にとにかく感謝したい。そんな1年だった。

いざ2023年

 来年はこれまた生活リズムがガラッと変わりそうで不安はありますが、今年以上にどんどこ面白い映画とかに出会っていきたいものです。見逃した今年公開の奴も多いですしね。それではよいお年を。

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