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ごくごく私的な製本合宿リポート(完全版)1日目

製本合宿 2022年9月10日~11日 於:美篶堂伊那製本所および伊那市周辺

私は、2022年4月から1年間、本づくり協会主催の本づくり学校(基礎科)に通っていた。おもに手製本について学ぶ学校で、毎回1冊、違う製本方法の本を作ってきた。同期は8人だ。

本業につながるかというと、まあそうではないのだけれど、子供の頃から編み物や裁縫などの手芸が好きで、その延長で自分の手で何かを生み出すのは楽しいだろうな思って参加することにしたのだ。器用ではないが、ものづくりは楽しい。本当はこういう仕事の方が向いていたのではないかと思うこともある。

本業はほとんど開店休業状態なので、本づくりをすることで、自分自身に「何かやってる」という言い訳をしているようなものだった。

さて、本づくり学校の年間スケジュールを見ると、9月に「美篶堂伊那製本所にて製本合宿」と書かれてあった。伊那とは? 地図で確認すると、長野県の地名だった。自宅からはなかなかの距離で、電車の乗り換えアプリで検索をしたところ、4時間もかかるという。乗り換えも多い。

何度目かの授業のとき、先生から「製本合宿に車で行かれる方は教えてくださいね。向こうで分乗していろいろ移動したいので、助かります」というお話があった。
なるほど、車という手があったか…。
家に帰って今度は地図アプリでルート検索をしてみると、私が住んでいる千葉県北西部から美篶堂のある伊那までは、車でも4時間くらいだった。だったら車の方が荷物を積みっぱなしにできるし、向こうでも自由に動けるし便利かもしれない。気持ちは車で行く方に傾いていた。
さらに次かその次だったかの授業のとき、同期のワタルさんが先生に「合宿へは車で行きます」と伝えていて、とっさに「私も車で行くつもりです」と言っていた。
言っちゃった…。粗忽者を遺憾なく発揮。
先生は「無理しないでくださいね~。伊那は遠いですよ~」とやんわり脅してくださる。

話は逸れるが、今までで一番たいへんだった運転は、一人で3歳と0歳(生後二か月)を乗せて首都高を通ってディズニーシーに行ったときと、その2年後にやっぱり5歳と2歳を乗せて中央高速で2時間半かけて清里に行ったときだ。ディズニーシーのときは、高速に乗っている間じゅう0歳児が泣いていたし、清里のときは静かにさせるために事前に買っておいたおやつをあっという間に食べ尽くされて、サービスエリアで追加購入した苦い思い出だ。時間的には今回が一番長いけれど、よく考えたら一人旅だし、楽勝では?

     *

というわけで、車で伊那まで行くことにしたわけだけれど、じつは今回、私には製本合宿とは別なミッションがあった。
私が前職でとてもお世話になった方(故人:仮にAさんとする)の奥さんが、昨年伊那に移住された。それまでは群馬にお住まいで、行って行けなくはない距離だったけれど、仕事の忙しさにかまけて一度も行けていなかった。それがさらに遠い伊那へ移住されたことで、もう行くことは叶わないのではないかと思っていたところへ、まさかの製本合宿が伊那だなんて! こんな偶然があるだろうか。いやない。この機会にどうしてもお伺いして、ご仏前にお線香を上げさせてもらいたかったのだ。
連絡を取ると、合宿前日の金曜日に時間をあけてくださるということで、前乗りでの出発と相成った。

     *

当日、ナビをとりあえず伊那インターにセットして朝7時に自宅を出た。最短ルートは首都高経由なのだけれど、前述のとおり首都高は苦手なので、ちょっと遠まわりにはなるけれど、圏央道経由を選んだ。30分ほどで高速に入る。2年ほど前に買い換えた車には、高速道路での自動運転機能がついている。それをセットすれば、あとはアクセルを踏まなくても指定の速度と車間距離をキープしてくれるという優れものだ。休憩を2回ほど挟み、ところどころ渋滞はしていたけれど、なんとか12時過ぎに伊那に到着した。

途中、SpotifyでThis Is 松田聖子を流して熱唱していたら、ナビの指示を聞き逃して岡谷で降りてしまい、出口で申告してUターン道路から戻るというアクシデントがあった。まあなんでも経験と勉強である。
ちなみに歌っていたのは「風立ちぬ」だ。
♪風立ちぬ~ 今は秋 帰りたい帰れない あなたの胸に~
若いころの聖子ちゃんは、全然タメがないなぁ。

中央自動車道を走っていると「目的のインターで降りそこねたら次のインターでお申し出ください」という看板がけっこう頻繁に出てきて、「そんなに降りそこねる人いる?」と思っていたら、まさか自分がそんな目に遭うとは。人を呪わば穴二つとはこのことか。ちょっと違うか。
インター出口で係員に「すみません、間違えて降りてしまったんですけど…」と申告すると「ちょっとお待ちください」と言ってトランシーバーのようなもので誰かと話し始めた。
「じゃあ、戻る道をご案内しますね。ETCカードはお持ちですか? ではまずそれを抜いてください」
Uターンゲートを通るときに、ETCカードを読み取らないように、外しておいて、ゲートを抜けたら差せという。なるほど。それで料金を二重に取られることを防ぐわけか。新たな学びがあった。時間的なロスは20分くらいかな。

さて、気を取り直して、とりあえず昼食だ。明日は本づくり学校のみんなと信州そばを食べることになっているから、何か別なものを食べよう。事前に調べたところ、このあたりのご当地グルメはソースカツ丼とローメンだそうだ。でも一人で食べるにはどっちも勇気がいるなぁ。
町中を流していると、「みはらしファーム」という看板が出てきた。ん? なんか検索したときに出てきて、産直市場とか、レストランとかあったような。ご当地食材で作ったものが食べられるかも、行ってみるか。

みはらしファームには、そば作りや草木染めを体験できる施設があり、季節によってはいちご狩りやブルーベリー狩りができるそうだ。狩り(?)が好きなので、ハンターの血が騒ぐが自重する。農産物直売所や温泉などもあるらしい。
そこに併設されているレストランは、バイキング形式。
窓際の席に通されて外を見ると、「みはらし」というだけあって、南アルプスの山々がパノラマで広がっていて眺めは素晴らしかったが、料理は普通だった。特にご当地食材メインということもなく、野沢菜のおやきと、きのこのピザに使われていたくらい。それが食べ放題とはいえ1800円というのはちょっと高いのではないか。
帰りに直売所を覗いたら、新鮮な長野産のりんごや梨、野菜などが売られていて、ああ今日が最終日だったら! と悶えた。いやいや、まだ始まってもいないよ。なんなら本番は明日からだよ。

その後、Aさんの奥さん宅へ行き、ご仏前にお線香をあげることができた。Aさんが亡くなってから私が仕事を辞めるまでの長い長い話をかいつまんで報告し、奥さんの伊那移住に至る不思議なご縁と、南アルプスの山々の素晴らしさを伺っていたらあっという間に時間が過ぎ、長居を詫びて辞去した。

今日の宿をナビに入れると、なんと昼間に行った「みはらしファーム」の近くだった。辺りはすっかり暗くなり、街灯もない中、不安になりながら到着。チェックインをして、そういえばもう夕飯の時間だったと気づいてフロントで「このへんで食事ができるところはありますか?」と聞くと「このあたりは観光地なので、夕方には閉まってしまうお店が多いんですよ」と言われて焦る。それでも少し行ったところにある喫茶店が九時までやっているというので、部屋に荷物を置いて、車ででかけた。
それにしてもどこも真っ暗で、ヘッドライトをつけないと何も見えない。怖い。
食事を済ませて、最寄りのコンビニ(と言っても車で五分くらい)で飲み物を買って、宿に戻った。

明日はいよいよ製本合宿本番だ。

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