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スタートアップで働く人が知っておいた方が良いと思う「キャズム理論」Part3 ー 具体的にどこを攻めるか

この記事は以下の記事の続きとなります(マガジンもあります)。

スタートアップで働く人が知っておいた方が良いと思う「キャズム理論」
Part1 ー 前提知識
Part2 ー ニッチ市場から攻める

上記の続きとなる、このPart3 では、「具体的にどこを攻めるか」、について記載していきます。

【前提】この記事の主な対象者

この記事を是非読んでほしいのは以下の様な方々かなと思っております。その方々にとって(そうでない方も居ると思いますが)、少しでも参考になればと願っております。

・スタートアップの経営者
・スタートアップのマーケティング、営業、プロダクトオーナー(企画)
・新規事業、新サービス立ち上げの責任者やメンバー

それでは、「Part3」の内容を記載していきます。

攻略地点の決定

Part2ではニッチ市場から攻める、ということについて触れましたが、ここからは具体的にどこから攻めるか、について考えていきます。市場に新規参入するときは、昔から以下の様なセオリーがあります。

・想定されるマーケット全体をいくつかのマーケット・セグメントに分割
・各セグメントの将来性について調べる
・ターゲットとするマーケット・セグメントがいくつかの最終候補に絞られたら、各候補について、市場規模、可能な販売チャネル、ライバル企業に対する差別化要因などを推定
・最後にこの中から一つ選んで、そのセグメントに全精力を傾ける

が、そのとおりにうまく実行している企業は少ない様です。上手く実行出来ていないのは、知識がないからではなく、危険性が高く、頼りになるデータが少ないから、つまりハイリスク、ロー・データの状況によって、判断力が麻痺していることが理由となります。

ハイリスク・ローデータ環境での意思決定

キャズムを越えるに当たって決定すべきことはたくさんありますが、信頼できる情報がほとんどない状況下で、もっとも難しい決断を下さなければなりません。というのも、これから入っていくマーケット・セグメントの中で、このイノベーションに関わる製品について知っている者は誰もいないからです。この製品を使っているビジョナリーは、企業がこれから攻め入ろうとしているマーケット・セグメントにいる実利主義者とはサイコグラフィック特性が大きく異なり、これまでの過去の経験をそのまま適用することはできないため、ハイリスク・ローデータの状況となります。

このようなときに犯しやすい最大の過ちが数値情報に頼ろうとすることです。新しいテクノロジーや製品の市場規模について、明るい未来を予感させる予測数値が新聞などに発表されてる場合には要注意です。もともとデータが少ないために、人々はこのような予測値に飛びつきやすく、そのうちに「3年後には1億ドルの市場となる、その市場の5パーセントを取れれば、、、」という話が聞こえてくるようになります。

このような状況では、まず判断材料が少ないという事実を素直に受け止めることが必要で、予測値とはまったく別の観点で判断材料を探すことが必要となります。数値の分析ではなく、情報に基づく直感が、決断を下すにあたって重要となります。

ターゲット・カスタマーの特徴づけ

キャズムを越えるときにはマーケット・セグメンテーションを行いますが、ターゲット・マーケット、ターゲット・セグメントだけに焦点を当てていると失敗します。マーケットというものは人格を持たず、抽象的な存在で、何一つイメージは沸いてこないからです。故に焦点を当てるのは、ターゲット・カスタマーとなります。顧客のイメージが頭の中にしっかりと定着すれば、あとはその顧客のニーズに応える形でマーケティングを進めていけばよいのです。

ターゲット・カスタマーの特徴づけというのは、イメージを作りあげていく作業であり、1人ひとりの頭の中にあるイメージを抽出して、それを並べることから始めます。大切なのは、考え得る、一人ひとりの顧客ごとに、あるいは製品の異なる用途ごとに、できる限り多くの特徴を抽出する、ということです。通常は20〜50の特徴が抽出され、その中で類似したものを一つのグループにまとめると、8〜10種類の異なる特徴が残ります。このようなターゲット・カスタマーのプロフィールが集まれば、あとはその「データ」(「データ」と呼ぶにはほど遠く、単なる「材料」のようなもの)を使って、そこから有望と思われるマーケット・セグメントを優先順位をつけながら決定します。

シナリオ作り

候補となるマーケット・セグメントが多く、絞らないといけない、というときは、ターゲット・カスタマー・シナリオが効果を発揮します。シナリオを作る、という行為は、高度に戦術的な、そして対象を限定した演習であり、実際のマーケティング戦略を立てるうえで、多くのヒントを与えてくれます。

以下ではシナリオ作りについて、3つの項目を見ていきます。

【シナリオ作りその①:ヘッダー情報】

シナリオの先頭には、以下の3つのポジションについて、簡単なプロフを記しておきます。

プロフを作る3つのポジション
・エンドユーザー(製品を実際に使う人)
・テクニカル・バイヤー(製品の革新性を評価する人)
・エコノミック・バイヤー(製品の経済性を評価する人)
※この3つは、消費者市場では1人あるいは、2人に集約されることが多い

企業向けの市場の場合には、「業界の種類、地域情報、所属部門、役職」等を書き込み、消費者市場の場合には、「年齢、性別、収入、社会グループなどの人口統計情報」を書き込みます。

シナリオのヘッダー情報が欠かせないのは、企業のマーケティング担当者やR&D担当者にとって、顧客が製品を購入するタイミングや製品が使われる環境をはっきりとイメージできるようにするためです。

【シナリオ作りその②:エンドユーザーが抱えている問題】

シナリオの2番目の記載内容は、エンドユーザーが抱えている問題が原因となって、エコノミック・バイヤーに及ばされている影響についてです。

現状認識
・エンドユーザーが抱えている問題をしっかりと把握する(いま、何が起きているのか?それに対して、エンドユーザーはどうしようとしているか?)
望まれる結果
エンドユーザーが手に入れたいモノは何か?何故それが必要なのか?
試みたこと
新しいテクノロジーがまだ世に出ていないとき、エンドユーザーはどのように問題を解決しようとしたか?
阻害要因
その時に何がうまくいかなかったのか?そして上手くいかなかった理由は?
経済的影響
結果はどうだったか?うまく問題解決を図れなかったために、どのような影響が出ているか?

【シナリオ作りその③:新しいテクノロジーが採用された場合の新たな状況】

シナリオの3番目に記載する項目は、新しいテクノロジーが採用された場合、「現状認識」ならびに「望まれる結果」は先ほどと同じですが、残りの3項目を次の様に書き換えます。

新たな試み
新しいテクノロジーに基づく製品を使って、エンドユーザーはどのようにして問題を解決しようとしたか?
支援材料
・この新しい製品のどこがよかったのか?問題を解決できた理由は何か?
経済効果
・削減出来た経費はどれほどか?得られた便益は何か?

シナリオの検証

シナリオをさらに完成度の高いモノにするために、市場開発戦略チェックリストに照らしてみます。次に示すリストは、マーケティング戦略を作成するときに検討すべき項目で、キャズムを越える時に解決しなければならない課題でもあります。

・ターゲット・カスタマー
・購入の必然性
・ホールプロダクト
・競争相手

・パートナーと提携企業
・販売チャネル
・価格設定
・企業のポジショニング
・次なるターゲット・カスタマー

第一段階では、いくつかのシナリオを先頭4つの項目で判断します。最終的には1つのシナリオに絞り込みます。同時に複数のセグメントを追ってはいけません

ターゲット・カスタマー
・製品を購入するエコノミック・バイヤーの特徴を一つだけ想定できるか
・使おうとしている販売チャネルはそのエコノミック・バイヤーと接点を持っているか
・エコノミック・バイヤーはホールプロダクトに対して対価を支払うだけの資金を持っているか
(このようなエコノミック・バイヤーがいないと、営業部隊は多くの見込み顧客に製品の価値を説いて回らねばならず、限られた時間を無為に過ごすことになります)
購入の必然性
現行システムの問題点は、エコノミック・バイヤーが改革を決断するほど甚大なものか(実利主義者は、あと1年いまのままでなんとかなると判断すれば迷わずそうする。しかし、彼らは代替案について調べておこうという意識も持っているため、企業の営業を何度も呼び、新製品について説明を求める(が、購入はしない))
ホールプロダクト
ターゲット・カスタマーの「購入の必然性」に応えるホールプロダクトを提示することが出来るか
競争相手
顧客が抱えている問題は、すでに他の企業によって解決されていないか(既に先にキャズムを越えている競争相手がいるならば、私たちがこれから手に入れようとしている先行者利益は、既にその企業の手に落ちているので、そこに向かって行ってはならない)

上記4項目を5点満点で評価します(最低は1点✕4項目の4点)。いずれかの項目で極端に低い点数を取ったシナリオは、失敗の可能性が高いので、橋頭堡候補から除外します。判断に迷った場合は、購入の必然性の項目で高得点を獲得したシナリオを優先します。また、ホールプロダクトを提示するのが困難なシナリオは最善のシナリオの可能性があります。なぜなら、簡単ならすでに誰かが先にやっている可能性が高いためです。

以下の5項目は、あれば望ましいという範疇のもので、評価点が低くても、時間と資金を費やせば克服出来る類いのものです。

パートナーと提携企業
ホールプロダクトを顧客に提供するために必要な提携関係が、他企業との間で築かれているか
販売チャネル
・ターゲット・カスタマーを訪問し、彼らの要求を理解してホールプロダクトを提示する販売チャネルが既に築かれているか(見込み顧客との間でこのような関係が築かれていない場合には、企業は、そのニッチ市場に精通した人間を新たに採用し、その人間を先頭にして顧客と商談を進めるのが望ましい)
価格設定
・ホールプロダクトの価格はターゲット・カスタマーの予算範囲内か
・その価格は、問題点が改善されることによって得られるメリットに見合うモノか
(※「価格」というのはホールプロダクトの価格、製品単体の価格ではない)
・販売チャネルも含めて、全てのパートナーは彼らの労働意欲と忠誠心を維持するために十分な見返りを得ているか
企業のポジショニング
・企業は、製品及び、その関連サービスの提供者として、ターゲットとしているニッチ市場から信頼されているか(キャズムを越えようとしているとき、その答えはNoだ。ニッチ市場の良いところは、問題に対するソリューションをベンダーが責任を持って提供するならば、顧客からの信頼を勝ち得るのが早い)
次なるターゲット・カスタマー
仮にニッチ市場を首尾良く支配出来たとして、そのニッチ市場は「ボウリングの一番ピン」としての機能を果たしてくれるか?つまり、このニッチ市場の顧客とパートナーは、企業がさらに次のニッチ市場へ侵攻していくための礎石となるか(メインストリーム市場に進出していくための出発点)

第一段階のテストをパスしたシナリオは、第二段階でここに述べた五項目について評価を与えられ、再び得点順に並べられます。

ここまで評価して、ハイリスク・ローデータ環境で意志決定をする「データ」を入手したと言えます。

妥当な市場規模

ターゲット・セグメントが大きいほど望ましいと考えがちですが、必ずしもそうではありません。ターゲットとすべきマーケット・セグメントは、以下の条件のものとなります。

ターゲットとすべきマーケット・セグメント
・次の段階で先行事例にできるほど大きいコト
・そのセグメントを制覇できるほど小さいこと(大きい企業は小さい市場を相手にしない)
・企業が提供する製品が効果を発揮するセグメントであること

ここでPart3の内容は終わりとなります。次回のPart4では「ホールプロダクト」について記載していく予定です。

【前提】この記事の元になっている書籍

以下の書籍に書いてあるものにちょっと自分の経験や意見などをまとめたのがこの記事となっております。興味が出てきたのでもっと詳細に知りたい、ということでしたら書籍の方を読むことをオススメします!


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