押しボタンが恋しい夜

新型コロナウイルス感染症対策の一環として、これまで押しボタン式だった電車が自動開閉式になった。車内換気のためである。
皮肉なことにコロナの影響で電車の乗り降りが都心と同様になったので、嬉しいやら悲しいやら。
ボタンの前に立つと、まるで百貨店のエレベーターにいるお姉さん・お兄さんのごとく対応することになる。別に嫌ではなかった。スマホのゲームが良いところだとちょっと面倒に感じるけど、10年以上繰り返してきた日常だもの。無意識に手が伸びる。
そんな状態だから、この春初めて自動開閉式の電車に乗った時はびっくりした。
え、開いた…!?私まだ押してないんだけど…!?
後から車内アナウンスで説明を受けたものの、春の間はなんだか物足りないような、寂しいような気持ちでいた。
人は環境に順応していく生き物のようで、夏には自動開閉式が当たり前の日常となり、ボタンを気にすることも無くなった。
私がスマホのゲームに集中していても勝手に扉は開くし、きちんと閉まる。快適じゃないか。
しかし今日。雨の影響で気温が下がり、あまりの寒さに私の手は自然と押しボタンに伸びていた。押した。閉まらない。そりゃそうだ。だって都心と同じ、自動開閉式だもの。
ちょっと恥ずかしくなった私は、いそいそと車両の中央へ移動する。
3分に1本電車が走ってる都心と違って、こちらは下手したら30分に1本の世界である。電車がホームに来ても、10分以上停車していることが多い。
だからこそ、押しボタン式は車内を暖かく保つために最高で重要な機能だったのだ。
寒いのは嫌だから、ボタンを閉めない輩がいればイラッとしつつも自分で閉めに行く。
そして自分と同様イラッとした人から小声や会釈で感謝される。(自分が会釈する側になることももちろん多い)
それが去年の冬までは当たり前だったのだ。あの日常に戻りたい。
とりあえず今年の冬は去年よりもしっかり厚着して、電車の待ち時間が少なくなるように調整して帰ろうと思う。
そんな夜のお話でした。

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