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Silver story #53

二人は向い会って手を取り合いながらお互いの目をしっかり見つめ合っていた。
お互いの口にする言葉に対して、心に嘘いつわりがないのを確かめ合っているように見えた。

今から始まる事は、人生を大きく変えることになるから二人はしっかりとした覚悟と確認が必要なのだ。
ユキさんは前向きなのがよくわかるが、果たしてお母様はどうなんだろう?

これからの生活にもかなり影響があると思うけど大丈夫なのだろうか?
期待、不安、喜び、失望、いやもっと様々な 光一さんの出方で、かなり変わると思う心の持ち様を全て自分で受け入れる覚悟をしないといけないのだ。

いつもは、お母様が優しく包み込むように接しているが、今は、ユキさんが、お母様を労わるような仕草で話している。

彼女たちのところだけ優しい時間がゆっくりと流れているようで、私はそれを羨ましく思いながら眺めるしかできなかった。

最後の言葉を二人納得したみたいに頷き合うと、こっちを向き直し、二人並んで向かって来た。

「沙耶、お待たせしました。
もう、決めました。だから大丈夫です。」

お母様は、キリッとした趣きでキッパリとそう言いだした。

「サヤ、オネガイシマス。パパ二 デンワシテクダサイ。ワタシ ハナシマス。」

二人は、揺るぎないモノを胸に抱いたように、笑顔で私に話しかけ、電話のある場所に二人で歩き出した。ユキさんが、お母様の肩を抱くように、ゆっくりと包み込むように、両肩に手を置きながら歩いて行った。

その後ろ姿を見つめ今度は、私が覚悟を決めないといけなかった。

光一さんにかけるしかないんだ。私の事より二人の事をとにかく短時間で伝えなければいけないんだ。
妙なプレッシャーがべたっとくっ付いて並んで歩いているのを感じながら二人の後をついて行った。

「光一さん。私、沙耶よ。心配かけてごめんなさい。これくらいでわかってもらえるよね。それから、なんて言おう。今私ね、バリでお世話になっている人がいて私を助けてくれた人。でね、それが光一さんが知ってる人なのよ…こんな感じで伝わるかな。」
私は小さく声に出さしてリハーサルをやりながら本番の舞台に向かう舞台俳優の気持ちになってきた。
いかにうまく遠い日本の光一さんに伝えられるかここは、オスカー俳優くらいの心意気で臨まないと良い結果が生まれないような気がして来た。
横のプレッシャーがだんだん私を飲み込みように頭から被さってくるのを感じていた。

#小説 #バリの話 #あるカメラマンの話

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