silver story #31

#31
銀色の光に魅せられていた私たちは、互いに感じていたんだと思う。今夜の祀りの重大さを、この先の生き方を大きく変える大切な夜になるということを。

またいつか、私の生き方が定まった時にここに戻って来たい。そして、この荘厳なバリの風景を光を思う存分切り取ってみたい。そう思った。

「さあ、サヤ行きましょうか。」それは、お母様の覚悟を決めた合図だったのかもしれない。

私は、もう一度ゆっくりと目の前の風景を見返した。目に入る限りのこの緑と光を頭の中のスクリーンにしっかりと焼き付けた。
次に来た時は、どんな風に見えるだろうか。そんなことを想像しながら思いっきり深呼吸をして戻ることにした。

「本当に歩けるのですね。不思議ですね。」
「はい。本当に歩けるのです。私も驚いています。」
会話は、それだけだった。

相変わらずの暑さと湿気で背中に汗が流れていくのを感じならお母様の家に向かった。横にいるお母様は、優しく微笑んで目を細めたり、眩しい光でいっぱいのバリの青空を仰いだり、それはそれはとても穏やかな顔をしていた。

「お母様今何を考えいますか。」
私は、ある思いを確かめたくて聞いてみた。
お母様は、この瞬間昔に戻っていたんじゃないかなと思ったから。

「サヤ、忘れられない物や、人がいるというのは嬉しいことですね。うまく言えないけどわかりますか?」

「そうですね。」

お母様の顔を見ているとその言葉で十分だった。
そして、私にもそんな人がいることが嬉しくなってきた。

花でいっぱいの中庭を通って、部屋に戻るとユキさんがお母様とは、真逆の表情で時計を何度も見ていた。
祀りに早々と駆り出されたサリナちゃんのことが心配なんだろう。
昔祀りの巫女の経験しているお母様は、その様子を見て微笑んでいた。

「ユキ。ティダッ・アパアパ。大丈夫ですよ。」

ユキさんは、フーッと深く息を吐いてカウチに腰掛けたが、相変わらず時計を見つめて険しい顔をしていた。

台所から、テ・パナスの香りをお母様が運んできた。
暑いバリには、欠かせない飲むとサッパリとする紅茶で、これで少しはユキさんも落ち着くだろう。

ジンジャーの入ったテ・パナスは、ゆっくりと私の緊張もほぐしながら入っていった。

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