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Silver Story #61

途中ドリンクのサービスがあって私は、目を覚ましたが二人は、ぐっすりだったのであえて起こさなかった。
初めて訪れる異国に、それよりも何年も思い描いていた自分の父親に会うという大イベントが控えているのだから今のうちにゆっくりしておいてもらおうとも思った。
日本に着いたら全てがバタバタで、あっという間に時間が過ぎていくと思うから。

私はスマホを取り出して数時間前に撮ったお母様の最高に素敵な笑顔を出してしばらく見つめていた。
スーツケースの方にカメラをしまったことを後悔した。1台くらい手荷物に入れとくべきだった。バリで過ごした日々を日本に帰るまでにもう一度見直しときたいと思ったからだ。
バリのあの夜のあの写真を特に見ておきたいと思った。
確かに見たバリの精霊のあの写真を、一枚だけオレンジになったあの写真を。大きな目玉のアレを。

あの写真を見ることで、ユキさんと光一さんが対面する時に最高の瞬間をうまく演出できるようにバリの精霊が力を借してくれるのではないかと思ったからだ。

お母様はあの事は誰にも話さないようにと言っていたが私の中でなら何度でも蘇られていいんだよね。忘れるようにとは、言われなかったしね。

ただあまりにも不思議な事だったから、もしかしたらあのオレンジの目玉も、もうカメラの中から消えているかもしれない。
それならば今確かめない方が良かったのかも。
もし消えてしまっていたなら、私が見て感じたことは幻でこれから光一さんとユキさんの再会もうまくいかないのかもと、不安になってしまうから。

そんなことをぐるぐる考えながら窓を見ると、まだまだ都市らしきものも見えなかったので、もう一度目を閉じることにした。

そして次に目を開けた時は、日本でありますようにと小さく手をあわせた。

#小説 #あるカメラマンの話 #バリの話

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