silver story #33

#33
三人それぞれの思いが重なりあった時間が過ぎていたその時だった。

「スラマッ・ソレー。アリーシャ。ジャンガン・サワティール 。サリナ……」

開放された、テラスから一人の老人が現れた。多分初めの日にたくさんいた村の人の中の一人だと思う。

お母様は、奥から出てきて、こちらの言葉で話し始めた。ユキさんも側に行き話しを聞いていて、その表情からすると、サリナちゃんが無事に役目をこなしていることがわかったようだった。

一通りの会話が終わったらしく、老人は、私のほうを見て両手を合わせて「スラマッ・ティンガル。」と言って去って行った。

お母様の名前がアリーシャさんというのが今さらながらわかって、光一さんの顔が不意に浮かんできた。

「サヤ、わからなかったでしょう。今来た人は、村の世話役さんで祀りの進み具合を教えに来てくれたのよ。
サリナが無事に、神様と同化して神様を村に迎える準備が出来たという事らしいわ。
私たちもそろそろ支度をして行きましょうかね。」

お母様からの合図が出た。
いよいよ祀りのはじまり。どんなことが待っているのか未知の時間。もしかしたら一人一人の人生も変えてしまうかも…、それは、ちと、おお袈裟かも知れないけれどそれくらい期待と不安と興奮とが入り混じった瞬間だった。

三人で家を出た時は、外はすっかり紫の帳が降りていて、遠くの山々は、真っ黒な神の化身の様にそびえ立っていた。

星明かりはあったが足元を電灯で照らしながら二人について行った。
まだ足がおぼつかないのでユキさんが支えてくれた。

暗くただでさえ知らない土地だから何処をどう行ったのか分からず、もう二度とたどり着くことができないダンジョンの様で、ふとあの夢を思い出した。
やっぱりあの時と同じ様に、まとわりつくジメッとした空気がバリの地に確かにいることを実感しながら進んでいった。

しばらくすると星明かりが木々の合間合間からしか見えないくらい両側が黒い木々に覆われた道を進んでいた。

すると遠くに小さな灯りが見えてきた。
「えー!」
「どうしたの?サヤ。」
「夢と一緒なんです。こないだ見た夢と全く同じなんです。今来た道の感じもこの空気感も、何もかも同じなんです。」

「ユキ。サヤはもうすでにウィシュヌに見つけられたのかもしれないわね。さあ、あと少しよ。サリナが待っているわ。」

興奮気味の私を二人は笑いながら引っ張って行ってくれた。

首からぶら下げたカメラがユサユサと揺れる度にその重みを感じた。今まで気にも留めなかった重みだが今夜は、私に課された責任の重さの様で、慣れ親しんだカメラが別の物に思えてきた。

「いよいよかぁ。」
私がそう口にすると二人はクスクスと笑いだした。

周りの木々は、益々生い茂ってきてもう闇なのか木なのかわからなくなってきた。橙色の楕円の電灯とまっすぐ先の白い丸を交互に見ながら進んでいった。

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