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あなたの思い出買いますから(仮)イギリスアンティーク⑦

 間違いない。目の前にいるのはおじいさんだ。
ずいぶん若いけどさっき見た顔の面影はある。
横にいるのはほんとうにさっき聞いたまんまの綺麗ないや可愛らしい女の人だ。

泣いている!!
じゃあ、さっきのおじいさんが話していたまんまのその時に、僕は連れて行かれたってことなの⁈

こんなリアルな思い出の引き渡しは初めてだ!
大体話だけでそのタマシイは満足して成仏していくのに、今回は僕を彼らの思いの中に引きずりこむなんて、どんなに強い思いだったんだ!

大丈夫か?初めての事だから自分もここに止まらないようにしないと、帰ってこれなくなる!
気持ちをしっかり持たないと、と自分を律して状況を見守ることにした。この場を見届けないと後にも先にもいけないから。

2人に集中すると少しずつ話し声が聞こえてきた。

「どうしたんだ?彩 なんで泣いてるのかい。ちゃんと訳を話してくれないか?」

「......うっ、な、なんでもないのよ.....うっ、うっ、ごめんなさい。」

「なんでもないことはないだろう。今まで君が泣いたこのなんか無かったじゃないか、何か辛いことがあるのかい?日本に帰りたいとか、ここの暮らしが辛いとか?僕は仕事ばかりでキミの相手もよくできてないから本当にすまないと思っているよ。」

「....あなた、大丈夫よ。本当になんでもないのよ。ごめんなさい。」

「ダメだよ。そんな泣くなんてちゃんと話してくれよ。これからもここで暮らさないといけないんだから、キミに辛い思いはさせたくない。僕ができることならなんでもやってあげるから、お願いだよ。話しておくれ。」

おお〜、なんて優しい人だったんだ。あのじいさんは!
僕は少し感心して2人の姿を見ていた。

おばあさんはサイさんっていうのか。おばあさん、さあ、話してください。おじいさんがここまで思いが強く残っているこの紅茶の所以を!
仕事を進めるというよりむしろそっちの方が大事だし気になってきたので僕はおばあさんに心を寄せていった。
彩(サイ)さん。話してください。あなたの涙の訳を。

「ねえ、彩。本当にキミのことを大切に思っているんだよ。今まで言ってこなかったから、それが当たり前だと思っていたから、何も言わなくてもわかってくれてると思ってた僕がバカだったよ。だから話してよ。いま、この国イギリスにいて本当に感じたんだ、イギリス人がイギリスの男がどれだけ奥さんや、女性に優しいか、奥さんや家族のことを大切にして仕事をしているかってことをね。」

サイさんは少しずつ落ち着いてきて顔を上げておじいさんを見つめていた。

「日本ではそんなの感じもしなかったけど、この国に来て本当に違うんだと思うし、そうあるべきだと思ってきたんだ。家族あっての自分だし、仕事だし、愛する人を泣かすようなことはダメだと本当に思うんだ、だからさ。」

「....あなた、ありがとう。....この紅茶をいただいて、、、。実は、お隣の奥様にお茶に誘われたの。
いつもよくしてくださってとても親切な方なのよ。
お家に誘われてお茶をごちそうになっている時お家の中を見ていたら……写真立てが沢山……楽しそうに仲良く写っているご家族の皆さんの写真が沢山あったの。

その中でも私がとても心惹かれたのが多分ご夫妻がお若い時にステキな笑顔で並んで写っている写真があったの。

緑の木々が美しい緑の丘のような場所でピクニックしてらしたみたいなの。
ステキなバスケットと奥様の手作りのサンドウィッチ、そしてステキな紅茶のセット、カップとソーサー、ティーポット、、、、本当にステキな風景だったわ。

私はイギリスに来てそんな所に行ったこともそんなことした事もなかったからとても羨ましくて、
奥様もその写真の時のこと本当にしあわせそうにお話しせてくれたの。
私、寂しくなって、あなたは忙しいからいつも、私はひとり。
お仕事でお疲れたからお休みの日もゆっくりしてもらう事だけ考えていたから、、、こんなステキなご夫婦の時間を過ごしてあるんだと、ほんとうに羨ましくて、、、。
うっうっうっ…………。」

そう言うと、またサイさんは泣き出してしまった。
本当に寂しかったんだな。ひとりでずーっと知らない異国で頑張っていたんだなと、初めて会ったサイさんがいじらしくて可愛くて、そしてかわいそうで変な気持ちになった。

「彩、ごめんよ。今度の休みに、行こうよ。そのピクニック?
どこがいいかお隣の奥さまに聞いておいてよ。
そしてその紅茶、一緒に飲もうよ。ね、そうしよう。本当にごめん。そんな寂しい思いをさせていたなんて、、、。」

二人はしっかりと抱き合っていた。

「なぁ、どうじゃ?この紅茶本当に良い香りじゃろう?」
僕の肩におじいさんの手が触れた感覚で僕は正気に戻った。

「は!ああ、よかった。戻れた。」
思わず僕は声に出してしまった。

「おじいさん、紅茶は二人で飲んだのですか?ピクニックはしたの?」

「んん?答えはノーじゃ。
するつもりじゃったが急遽日本に戻る事になって、家の片付けや、何やらで結局ピクニックもできずに日本に帰国してしまった。
まあ、彩には寂しい思いから解放してやったことにはなったんだけど、やはりあの美しいイギリスの風景の中で二人で紅茶を飲んでゆっくり語りたかった、そんな時間を持ちたかったなぁと今でも思っているんじゃよ。」

行かなかったのか、残念だなぁ、サイさんも行きたかっただろうな。あ、でも日本に帰ってこられたんだから良かったのかな。
そんな事を考えていたら不意に肩を揺さぶられた。

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