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VUCA時代のマネジメントのポイント

◆ドラッカーのマネジメントに登場する4人の石工

ピーター・ドラッカーの「マネジメント」で、「仕事を通して得られる価値」を示す以下のようなエピソードがあります。

建築現場で、何をしているのかを聞かれた三人の石工がそれぞれ、

一人目の男:これで食べている
二人目:腕のいい石工の仕事をしている(手を休めずに)
三人目:国で一番の教会を建てている(目を輝かせて)

と答えたというものです。

このエピソードにはずっと違和感があったのですが、ある日、佐藤等さん編著の書籍「実践するドラッカー【思考編】」(ダイヤモンド社、2010)の中に以下のような記載を見つけて、違和感は解消されました。

すなわち、この話には続きがあり、奥にいた四人目の石工は

四人目:私は皆の心のよりどころを作っている

と答えたというのです。


◆石工のエピソードを読み取る

このエピソードはいろいろな含蓄がありますが、その一つは仕事には様々なレベルの意義があるということです。

つまり、

一人目:仕事の意味を生きるための手段だと考えている
二人目:他人に認められるための手段だと考えている
三人目:所属している組織の目標達成に貢献しようとしている
四人目:所属している組織のパーパス実現に貢献しようとしている

という意味があります。

従来の肉体労働の世界ではこの違いをポジティブに使っていました。つまり、四人目の人達が経営を行う。その元で、三人目の人達が二人目の人たちの管理を行う。二人目の人たちはより高いパフォーマンスで自分の仕事をするとともに、一人目の人たちに仕事の仕方を教えるという構造で組織はできていました。

ところが、知識労働の時代になると、このような構造では組織はできません。それを無理にこの形でやろうとしてきましたが、VUCAと呼ばれる時代を迎えて限界に達しています。すべての人が自分のすべきことを判断してやらなくてはならないためです。

VUCAの時代には、最低でも組織の目標達成に、できる限り、組織のパーパス実現に意識して貢献してくれないと組織が成り立たないのです。


◆共有認知

そのために重要なことは、いわゆる「共有認知」です。簡単にいえば、組織やチームで認知を共有化することです。共有認知が非常に重要な役割を果たしているのはリスクマネジメントです。リスクマネジメントにおいて共有認知をするとは、リスクに関する認識を共有して、同じような対応をすることです。

これと同じように、業務において、

・ゴール、計画、戦術
・連携方法、タイミング、仕事の仕方
・取り組んでいる作業、苦労している点、課題や問題
・価値観や好み

などを共有することが不可欠です。例えば、ゴールであれば、なぜ、そのゴールなのかということを共有するといったことです。

これがVUCA時代のマネジメントのポイントになります。


◆マズローの法則との関係

このドラッカーのエピソードを考える上で欠かせないのが、人間の「欲求」には5つの段階があるとするマズローの法則です。これは、アメリカの心理学者、アブラハム・マズローが考案したもので、人間の欲求は5段階のピラミッドのように構成されている心理学理論です。5段階とは以下の5つです。

・生理的欲求
生命活動を維持するために不可欠な、必要最低限の欲求
・安全の欲求
身体的に安全で、かつ経済的にも安定した環境で暮らしたいという欲求
・社会的欲求
何らかの社会集団に所属して安心感を得たいという欲求
・承認欲求
所属する集団の中で高く評価されたい、自分の能力を認められたい、という欲求
・自己実現の欲求
自分にしかできないことを成し遂げたい、自分らしく生きていきたいという欲求

そして、この5つに加えて、後年、「自己超越の欲求」という第6の欲求を加えました。これは、

・自己超越の欲求
 自分のエゴを超えたレベルでの理念を実現したいという欲求

です。このマズローの6段階と、ドラッカーの石工のエピソードを重ね合わせてみますと、それぞれ

一人目:生理的欲求~安全の欲求
二人目:安全の欲求~承認欲求
三人目:承認欲求~自己実現の欲求
四人目:自己実現の欲求~自己超越の欲求

というレベルに対応していると考えられます。


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