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VUCAの時代の現場主義について考える


◆日本の現場主義の変遷

現場主義は日本の成長の源泉だったということに異議がある人は少ないでしょう。一方で、今、成長が止まっている原因になっているのが現場主義であると認識している人も少なくないと思われます。現場中心では競争力が持てなくなって、企業を戦略的に動かそうとするのに対して、現場の抵抗が根強く、結局、中途半端になってしまったからです。

日本企業は現場が強いと言われてきましたが、その意味合いはだんだん変わってきたように感じます。

戦後の高度成長の中で、日本企業の現場は努力を重ね、高い競争力を持つようになりました。この競争力の背景には、単に技術力だけではなく、製品/サービスを実際に顧客に届けるまでに行う事業のプロセスで行う活動全体(いわゆる、バリュー・デリバリー・システム)で、それぞれの活動に対して自社や競合他社の強み・弱みを整理し、自社の特徴や課題を抽出し、改善してきたからだという印象があります。

競争力が強くなるにつれて、現場出身の人たちが経営の中核に入っていき、それに伴い、徐々に現場が経営活動の中で強いパワーを持つようになってきました。

ところが、90年代に入ると、インターネットが普及し、競争力の主体が技術からビジネスモデルに変わってきます。この動きにバブルの崩壊というダメージを受けていた日本企業はついていくことができず、結果的に現場のバリュー・デリバリー・システムとしての競争力は弱まり、一方で現場の経営活動の中での力はそのまま、残りました。

その後、さまざまなやり方で経営が力を持とうとしましたが、冒頭にも述べましたように、現場の抵抗があり、中途半端な状態に留まり、ビジネスモデル構築に適応できず、企業自体の競争力が弱まってきたのが実情です。

今、現場主義という言葉の意味するところは、競争力はないが、経営的なパワーはあるというイメージがあります。

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◆VUCAになって現場力が再び問われるようになった

こういう流れの中で、今、起こっているのは現場の重要性の見直しです。その原因はVUCA化にあります。

1990年から2005年くらいまでは、ネットワークをベースにして戦略的にビジネスモデルを構築し、グローバルに事業を展開していくという企業が成長してきました。この中では、戦略や計画をいかにエクセレントにするか、最適なものにするかがポイントでした。

しかし、その後、さまざまな要因があって、VUCAな時代に入ります。VUCAな世界では、戦略や計画はあまり意味を成しません。そもそも、最適化という概念が成り立たなくなってきました。

VUCAに適応していくには現場の力が不可欠です。現場を中心に事業や経営を動かしていくことが不可欠です。本来の意味での現場主義が必要なのです。


◆これまでの現場主義とこれからの現場主義の違い

ただし、今の日本の現場主義や過去の日本の現場主義とは根本的に違うことがあります。それは、経営との関係です。これまでの現場主義は、現場が力を持ち、経営はその支援をするという位置づけでした。つまり、経営の主体は現場でした。

しかし、今、求められているのは現場と経営の一体化です。


つまり、現場が最前線で動き、VUCAの中で試行錯誤する。その結果を現場と経営が共有し、進む方向(戦略)を決めていく。そして、現場はその方向に向けて、試行錯誤を重ね、その結果によって方向性を変えていくというプロセスが必要です。


このような現場と経営の一体化こそが新しい現場主義だといえます。そして、VUCAな時代に適応していくには、このような現場を創ることが一番の近道だといえます。


◆新しい現場主義の中心はパーパスである

このような企業運営をするためのポイントはパーパスです。

従来は経営がビジョンを明確に定め、現場はその実現、実践を考えるという発想でした。しかし、これでは現場は動きません。かつての現場主義の源泉は、自分たちの存在意義にありました。自分たちが企業の成長にコミットしているという実感があったので、現場は頑張れました。そして、技術からビジネスモデルに経営の中核が変わってきたときに、現場がついていけなかったのは逆に存在意義が分からなくなったからです。

必要なのは、人為的なビジョンではなく、本当の意味での存在意義(パーパス)を見つけ出す。そして、その企業の人全員が自然に湧き出してくるような自分たちの存在意義を見出い、企業や社会にコミットしていく。こんなパーパスが必要なのです。

このパーパスこそが、新しい現場の中核になるものです。

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