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哲学プラクティスに関わる人への9の質問 #14 西村高宏さん

1.肩書き・職業など

福井大学医学部 准教授 

2.現在の主な活動

・東日本大震災の被災者などとともに、仙台市にある公共施設「せんだいメディアテーク」などと連携して震災に関連した哲学対話の場を継続的に開催。
・医療現場における「哲学的対話実践」モデルの構築に関する研究・実践。
・イタリアの哲学プラクティショナーたちと連携し、精神保健医療福祉領域における「哲学的対話実践」の可能性/不可能性を問い直す研究・実践。

3.はじめて哲学プラクティスに出会った日はいつですか?

自分が本当に「哲学プラクティスに出会って」いるのかどうかは甚だ怪しいのですが、その存在というか、海外での実践活動を知ったのは、たしか大阪大学「臨床哲学」研究室が立ち上がる前後の1997年もしくは1998年あたりだったように思います。とはいえ、わたしの勉強不足なのかもしれませんが、その頃は「哲学プラクティス」といった名称はあまり使われていなかったように記憶しています。くわえて、自分としては、当時立ち上がりつつあった「臨床哲学」の考え方や試みにとくに魅かれていましたので、生意気にも「哲学プラクティス」と「臨床哲学」は似て非なるものだなどと漠然と考えていたように思います。ただ、恥ずかしながらそういった感覚は、自分が現在行なっている活動の奥深いところでいまも燻っているように感じます。

※私自身が「臨床哲学」として理解しているのは、『臨床哲学ニューズレター』に掲載されている、「臨床哲学事始め」の文章によるものです。

4.はじめて哲学プラクティスを実施したのはいつですか? 

大阪大学の「臨床哲学」研究室に在籍している頃は、わたしの歪んだ性格の問題もあるのでしょうが、あえて「哲学」を「実践する」といった前のめりさがすごく苦手でしたので、いわゆる「哲学プラクティス」には結構後ろ向きな感じでした。ただ、いつか必要な時がきたら、自分なりのやり方で哲学対話の場などを拓いていこうと考えていました。

実際にその時期は、自分が仙台に異動してしばらくしてから、仙台市にある「せんだいメディアテーク」において2010年から実施した頃、ということになるでしょうか。とくに、哲学対話の必要性をありありと感じることになったのは、自分自身もその被災の場に巻き込まれることになった2011年の東日本大震災の被災者の方々や、せんだいメディアテークのスタッフの方々と協働ではじめた、震災に関連した哲学対話の場「考えるテーブル てつがくカフェ」です。現在、この活動は、仙台にいる『てつがくカフェ@せんだい』のスタッフたちが引き継いでくれています。

5.哲学プラクティスを、はじめてやろうと思ったのはなぜですか?

当初から、それを自分からやろうといった動機も意欲もあまりなかったように思います。ただ、恩返しのつもりで自分なりの「臨床哲学」をずっと模索し続けていたときに、あの未曾有の震災に巻き込まれ、被災の場で過ごすなかで必然的に哲学がもつ力に、またその実践へと促されていった、というのが正直なところです。

6.今まで哲学プラクティスを続けてきたのはなぜですか?

理由は、やはり「その必要性に後押しされて」という一言に尽きると思います。被災の現場や医療の現場にしても、自分自身がその場に投げ出され、またその現場に関わっていくなかで、やはり哲学的な思考が本当に必要とされているなと感じることが多々ありました。必要性こそが、活動を後押しし続けてくれるのだと思います。

7.活動の中で、一番大事にしていることはなんですか?

「いたずらに成果を求めない」ということと、活動が打ち上げ花火のように一発でイベント的に終わってしまうことのないように、何度も何度も粘り強く継続し、対話の場を丁寧に育てていくことができるような環境、機会、そしてそれを行なうだけの気の長さや肺活量が大事なのではないかな、と最近思うようになりました。

8.あなたにとって、哲学プラクティスとは?

すでに述べましたように、わたしは「哲学プラクティス」と「臨床哲学」とのあいだに何か大きな、しかも本質的な違いが潜んでいるのではないかといった問題関心にずっと引きずられてきました。ですので、わたしにとって「哲学プラクティス」は、自分なりの「臨床哲学」の具合を考える際の重要な参照軸のようなものです。

9.影響を受けた活動、人物がいたら、教えてください。

影響を受けた人物としては、やはり、めぐりめぐって「臨床哲学」を立ち上げられた鷲田清一さん中岡成文さんになろうかと思います。そのほか、せんだいメディアテークで震災に関連した「てつがくカフェ」を行なった際にご一緒させていただいた写真家の畠山直哉さん志賀理江子さんでしょうか。お二方とも、こちらが惚れ惚れするくらいに、わたしなんか比べものにならないほどの哲学(実践)的な感覚をお持ちでした。

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※「哲学プラクティスに関わる人の9の質問」については以下をご覧ください。



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