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酸を制するものは、弁当を制する。


それは、数十cm四方の難攻不落な要塞だった。


ずっと身近にあったのに、
近づいてよく目を凝らしてみると、
ずいぶん高い壁だったんだと気付かされる。


所狭しと並んだ、食材たち。
カラフルな奴もいれば、地味な奴もいる。
計算された体型、あえてのラフさ。


おいしい弁当をつくるには、
これまでの料理とは全く違うスキルがいる。
そう気付かされたのが、この1ヶ月だった。



弁当の因数分解


運動会で食べる大好物が詰まった大きな弁当。
部活の大会、試合の合間に食べたおにぎり弁当。
PCと向き合いながら食べたコンビニの幕の内弁当。
優しい味付けでホッとするバイト先の豆腐焼売弁当。
夜勤のバイトで明け方に食べた冷えたガテン系弁当。


これまで幾度となく、何気なく口にして来た弁当。


でも、本気でおいしいを突き詰めようと向き合ってみると、考えるべきポイントが無数にあることがわかった。


考え得るだけでも、

五味のバランス
香り
量感
色どり
温度
容器
順番
詰め方
食材の内容
カットの形、大きさ
油もの、揚げ物の使い方
汁物おかずとの向き合い方

がある。


それぞれを満たしつつ、
全体をまとめる必要がある。


さて、構成要素も考えてみる。

例えば、1500円の弁当。


満足いただくためには、

主食(ごはん) 1種類(まれに複数)
主菜(肉や魚) 1〜2種類
副菜(野菜など) 3〜5種類

となる。


色味だけをとっても、

複数の色を組み合わせてカラフルにするのか
ベースの色はどうするか
ベースに対してどう差し色を入れるのか

など考えるべきことが多くある。


僕らは何度も試行錯誤しながら、
日替わり弁当を作っていった。

味、見た目、人気。
飲食店では切り離せないオペレーション。

それらを加味して、お弁当を作る。


そして、さらに僕らが作る必然性。

小さな箱の中にイズムを踏襲することが必須であった。


キレと、リズム。


僕らの料理にはキレがある。


料理のキレの出し方は、

・食感の鋭さ
・温度の落差
・酸による心地良さ

の3つがある。



例えば、穴子のフリット。

これもキレの料理だ。


コーンフラワーでガリッと揚げた衣と、
ふわふわの穴子のコントラスト。

食感を活かし切るために塩で召し上がっていただく。

添えられているのは、鮎魚醤とホワイトバルサミコ酢でととのえられた大根おろし。

やわらかな酸味が心地よい。


食感のキレ、酸のキレ。


そういったものを常に意識している。


それまでの印象をリセットしたり、
逆に強い印象を生むことができる。

極めて、時間を操ることに近い。

すなわち、リズムが生まれる。


キレにより、料理に流れを作ることができる。


キレがないと、全体的にのっぺりとなり、
動きがなく、楽しくない料理になるのだ。


だから、僕らは一皿にもキレを意識するし、
コース全体を通しても、意識する。


あえて、静寂させる皿もあれば、
ジェットコースターのように忙しい皿もある。

静と動を生むのが、キレなのだ。



ところが、どうだろう。


弁当には、先ほどのキレを出す手法のうち、上の2つが使えない。 絶望的だ。


お弁当は極めて制限が多い。

それでも、キレは必須。


そのため、酸味の扱い方が超重要であることがお分かりだろう。


五味モデルの立体構造が、
コース料理とは違う、少し歪なイメージを持つ。


和食、洋食、中華。
イタリアンにフレンチ。

そして、弁当。
弁当には、圧倒的な奥深さがあり、
間違いなく一つのジャンルと言える。

敷学、とでも言おうか。


そして、掴んだ弁当への解像度を活かし切って
sio贅沢弁当を完成させた。

ぜひこちらのnoteも読んでいただきたい。

https://note.com/pirlo/n/nbb78e13bff02

そして、ご賞味いただきたい。


敷学においては、こう言える。


酸味の扱い方を制するものが、弁当を制する。

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