僕らは、本を売らない
レストランsioに入って1年が経ち、
料理人から仕掛け人、そして弟子になった。
1日の半分以上を鳥羽と過ごす。
時には、鳥羽の自宅で寝泊りする。
お子さんからは、新しい家族だと思われるくらいだ。
鳥羽は、深夜の散歩が日課だ。
僕も、たまに一緒に歩く。
その時間がクリエイティブや未来について考える、
1番ゆっくりとコミュニケーションがとれる時間である。
かねてから気になっていた質問をぶつけてみた。
「そういえば、そもそもなんでレシピ本を作ることにしたんですか?TwitterやYouTubeもあるし、無料で見れて、しかも本が売れない時代に。相当なチャレンジですよね。」
すると鳥羽は、
「あれはレシピ本じゃねぇから。愛のデリバリーだから。」
と答えた。
シェフの見ている景色は、やはり違った。
なぜ本が売れない時代にレシピ本を販売するのか
青山ブックセンターさんに棚ができ、イベントをしてもらえることになった。
ABCの店長山下さんは、つい先日もsioに食べに来てくださったり、
僕らに選書してくださったりとお世話になってばかり。
また、カレンダーには、来週月曜日AM9時 蔦屋書店と書かれている。
代官山の蔦屋書店さんにも特設棚を作っていただけることになった。
関わる人からたくさんの愛をいただいているからこそ、
おかげで僕らは今日も料理を作れている。本当に有り難い限りだ。
あらゆることがものすごいスピードで、信じられないレベルで動き出す。
思えば、あっという間だった。
夢中で走っているうちに、この日を迎える。
「本が売れない時代にレシピ本を販売する理由」
ここに直面した。
動画ではなく、Twitterではなく、
わざわざお金を払ってまで買う理由があるのだろうか。
なぜ、僕たちはレシピ本を出すのだろう。
そもそも、どうしてレシピを公開したのだろう?
2020年は、コロナによって、価値観が大きく変化した。
料理と強制的に向き合うことになった人も大勢いると思う。
そんな中、料理人として何ができるか、
圧倒的な危機感とスピード感で動いたのがシェフだった。
3月29日の宣言直後、
o/sioのスペシャリテである唐揚げのレシピを公開し
翌日にはテイクアウトの弁当を販売開始。
そこから毎日のように、#おうちでsio を考案した。
4月に入り、シェフは3週間家に籠った。
#おうちでsio の開発やテイクアウトの研究のためだ。
営業も止めず、ひたすらお弁当とバインミーを作った。
リモートで届くボスの号令に、ボクらも夢中で呼応していく。
すべては、幸せの分母を増やすためだ。
やさしいレシピのおすそわけ に込めた想い
この本のタイトルは、
やさしいレシピのおすそわけ。
#おうちでsio が副題である。
#おうちでsio を流行り物にしたくなかった。
お客様から求められているし、これからも続けていく。
ジャンルを問わない料理人である僕らだからこそできるレシピ公開だからだ。
易しいし、優しい。
誰でもおいしく作れるを徹底的に大事にした。
料理というツールを通して、僕らが何を届けたかったのか。
どういうタイトルにするか。
それぞれの角度から出てくる意見をどうまとめるか。
どの皿を使い、どう盛り付けると綺麗か。
どこか遠すぎない、身近さがあることも重要。
キッチンに置いても邪魔にならないかどうか。
編集者、ライター、カメラマン、フードスタイリスト、
sioのメンバーで常に、話し合いながら。
忙しい毎日の中で、営業後にも校正チェック。
寝ぼけて、進まない日もあった。
でも、やり切った。
どうやったらやさしいレシピがおすそわけできるか。
ここに集約している。
いつもベクトルは、お客様であるべきだ。
つまり、愛のかたまり、なのである。
お客様があってこそ、僕らは料理人。
優れた料理人とは、想像力がある。
自らがいかに先回りできていないかを感じる場面が多くある。
想像力とは、愛である
と鳥羽は良く言っているが、その通りだと思う。
僕たちは、緊急事態宣言とともに訪れる、
これからの料理との関わり方や価値観の変化を想像した。
お腹をペコペコに減らしたお子さん達に3食作るお母さん。
急にリモートワークになり自炊の必要性が生まれた独身男性。
作り手を想像してさまざまなレシピを作った。
やはり人気なのは、10分ほどで作れる定番レシピ。
ハヤシライスや親子丼、パスタなど。
どれもたくさんの再現投稿とお礼の言葉が並んだ。
シェフは、3週間自宅に籠もってレシピを開発しただけではない。
奥さんに開発したレシピを元に作ってもらい、おいしくできるかチェックした。
さらに、投稿後には #おうちでsio で投稿している方の反応をすべて確認し、逐一感想をコメントした。
やばい
最高
あざす
全然いいす
おいしそうな投稿には安堵し、
素晴らしいアレンジは褒めた。
もちろんいいことばかりではないが、
反省点を持って、次のレシピに生かす。
この本を通して、
料理の楽しさ、
食卓から生まれる幸せ、
頑張りすぎないことの大事さ、
簡単でおいしいことの偉大さ、
など、何か持ち帰って欲しいという一心から。
もはや、執念である。
レシピ本ではない、愛のデリバリーとは
あなたは、昨日の夜、何を食べましたか?
それは、人生何度目の食事ですか?
日常すぎる、食べるということ。
あと何回食事できるのかなんて、分からない。
僕が思うに、人生で幸せな瞬間を増やす最も手っ取り早い方法は、
おいしい時間をつくることだ。
誰しも限りのある中で、自分たちの料理やレシピがおいしい時間の役に立つ。
料理人にとって、これ以上幸せなことはない。
鳥羽は言った。
これはレシピ本ではなく、
愛のデリバリーだから。
レシピ本ではないのか。
たしかに、腹落ちした。
HEY!バインミーができた時と一緒だ。
コロナ禍で食との向き合い方が変わる中で、
レストランsioのおいしい思考を詰め込んだ、究極のミニマムを作った。
もはや、レシピ本ではない。
おうちで『sio』を体感できる究極のミニマム。
僕らのすべてを詰め込んだ、愛の結晶。
僕たちは、美味しいに挑戦し続ける。
そして、 #おうちでsio も作り続ける。
いつもと変わらず、言う。
僕らは、料理人だからね。
結局、これからも、シェフはずっと変わらない。
2020年9月28日、
暑苦しすぎるほどにすべてを込めた愛のデリバリーがいよいよ始まる。
レターパック片手に、まっすぐ本棚に向かい、そのまま1冊買う。
生まれ育った鹿児島の自宅に、すぐ届けたいと思う。
拝啓 母さん
これが、僕が働いているsioです。
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