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すき焼きを因数分解する

すき焼き師のオリタタクヤです。

わたしは全国の名店のこだわりを知るために、すき焼き巡礼をしています。

同じすき焼きといえど、全く同じものはどこにもなく、どのお店にもそれぞれの創意工夫があり、めぐる度に気づきがあります。

知れば知るほど、すき焼きは面白い。
もっと知りたい。

そもそも、すき焼きとは何なのでしょうか?

すき焼きの歴史や背景を知ることも重要ながら、すき焼きをもっと自分なりに理解するために、因数分解してみます。

すき焼きの構成は至ってシンプル。
牛肉と野菜、卵、調味料です。

すき焼き=食材(牛肉+野菜+卵+醤油や砂糖)× 調理(焼く or 煮る or 両方)

すき焼きという料理は、いたってシンプルな構成で、変数も限りなく少ないです。

国民食、ハレの日の象徴であるすき焼きにはさまざまな表情があります。

一家団欒、鍋を囲んでワイワイ食べる“ケの日のハレのすき焼き”から、ぼくらが提供している外で食べる“ハレの日のすき焼き”まで。

わたしは日本一のすき焼き師になるべく、まずは日本一すき焼きに精通しているものになろうと考えています。

すき焼き巡礼する理由は、もっと広く、すき焼きを理解するため。
すき焼きを因数分解する理由は、もっと深く、すき焼きを理解するため。

日本一への道中ですが、すき焼きについて3つ気づいたことがあります。  

一つずつ解説していきたいと思います。

①強力なコンテンツがゆえの弊害

すき焼き巡礼は、ぼくらが小さい頃にハマったポケモンマスターへの道に似ています。

シティを旅して、全国のジムリーダーと戦いながら、ポケモンとわざマシンを集めていく。
西を中心としたジムリーダーと戦う中で、気づいたことがあります。

それは、どのすき焼き店も美味しいという当たり前のこと。

扱っているのは基本的に、和牛。
それぞれの土地に由来した銘柄牛や、目利きを経て仕入れた一級品のものばかり。
美味しくないはずがありません。

ただ、すき焼きというものは、大きく差が生まれづらいコンテンツだと思いました。

それぞれの食材や調味料、調理方法にもちろん違いはあります。
しかし、正直、すき焼き単体で圧倒的な違いを出すことは難しいと考えます。

そこが、すき焼きという料理の強さであり、危機でもあり、伸びしろでもあると考えています。

すき焼きは和食の中でも、まちがいなく強者。
ただ、食事はあくまで総合体験です。

すき焼きを通じた食体験の満足度を上げるのは焼き手なんだと思います。

②すき焼きの良し悪しは焼き手がつくる

専門店のすき焼き、肉屋さんのすき焼き、
牛丼屋のすき焼き
まったく同じ材料で作ったすき焼き
同じ材料、同じ場所で作ったすき焼き
違う材料、違う場所で作ったすき焼き
1000円のすき焼き、2万円のすき焼き

さまざまなすき焼きを食べる中で、気づいたことがあります。

それは、焼き手によって体験の満足度が大きく変わるということ。

特別な工程はないため、大前提の美味しいは大きく変わりません。ただ、もちろん人によって味わいの違いもあります。

しかし、すき焼きを食べる時間の満足度は、その焼き手によって大きく左右します。

良い焼き手 = 調理技術 ✕ プレゼンテーション ✕ ホスピタリティの掛け合わせがスコアになります。

いくら美味しく焼いていても、魅力が伝わらない。
説明は流暢だが、味はいまいち。
どこか緊張感があって、食事に集中できない。
ごはんがほしい。日本酒ではなく、ワインが飲みたい。

すき焼きを焼く時間の中に、その人の総合力が試されるのではないかと思います。

すき焼きの面白さは、そこにある。
僕はそう思います。

もはや、すき焼きを扱い切れるかどうか、はその人の人間力です。

すき焼きをお客様の前で仕上げていく小一時間の中で、シェフにもサービスにもソムリエにもならなければならない。

すき焼きの強さに甘んじていてはいけません。

③すき焼きはセミプロがいっぱいいる

おうちにもすき焼き奉行がいる

すき焼きの要素としてもう一つ重要なことがあります。

それは、すき焼きは、これまでおうちでもたくさんつくられてきたということ。

レストランとしての創意工夫がなければ、すき焼きは外で食べるに値しません。

だから、ぼくが働く㐂つねでは、すき焼きの前の前菜で季節を感じてもらいながら、すき焼きはお肉一枚ずつに味変をします。

スペシャリテはやまつ辻田極上七味すき焼き

すべては、最後まで楽しく召し上がっていただくため。

どこで食べても、一定の満足度は超えてくる中で、もちろんしつらえを含めて、すき焼きから生まれる総合体験を楽しんでいただけるように努力しなければならないのです。

だからこそ、思うこと。

これからのすき焼きは、人なのです。

すき焼きはある意味 完成された食べ物。良い食材をシンプルに調理する料理であるからこそ、変数が生まれづらい。すでにおいしいんです。

しかし、おいしいの先にある感動を生むことができるのは人のちから。

すき焼きにはまだまだ、可能性があり、それをつくるのは焼き手のちから。そう思います。

感動すき焼きの方程式

感動がある料理の方程式は、こう表すことができます。

感動がある料理= 人の力 × 料理の質 × 文脈

ここでいう文脈とは、その料理がもつ歴史やその場所のしつらえなど、どこでどのように食べてもらうか、という周辺情報のことを意味しています。

お鮨や天ぷら、イタリアン、フレンチ問わず、どんな料理でもこうなるでしょう。

ただ、食材の力や文脈が整いがちなすき焼きにとって、最大の変数は焼き手、だと思います。

あくまでも、料理人にとって料理は手段。
食べてくれる方がいて、成り立つものです。

すき焼きを因数分解すると、いま何が必要で、これから何が必要なのか、が明確になってきました。

すき焼きのプロフェッショナルとして学び、実践を続けながら、人間力を磨く。

そして、ゆくゆくは、良い焼き手をつくる教育をしていきたいと考えています。

そのためには、まずは一歩ずつ日々の営業からです。地道こそがゆるぎない道を作ると思います。

「こんなすき焼きの食べ方、初めてで感動しました。」という声をたくさんいただいてきました。

誰しもが食べたことあるはずなのに、まだまだ余白があって、こんなに可能性のある料理はないんじゃないかと思います。

焼けば焼くほど、確信するのです。

㐂つね式の味変で″化ける″すき焼きが、日本のすき焼きのあたらしい定番になる。
その日まで、積み重ねていきます。

わずかでも日本の食文化をアップデートできたのなら、この人生に一片の悔いなし。

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