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【瓦版】隠したチェキ

どうやら私は痔主らしい。税金も他の人と同じくらいかかるみたい。
痔になることは、ずっと昔からお父さんから予言されていた。お父さんも痔だったようで、そのまたお父さんも痔だったみたい。

それを意識したのは中学2年生の頃。お母さんが飲んでいた中国の怪しいダイエット茶をこっそり飲んだ。単に痩せたかったので、ごくごく適量よりはるかに多く飲んだ。

激しい稲妻が腸を揺さぶり、トイレへ駆け込んだ。

天にお祈りポーズをして「痩せろ痩せろ痩せろ」と、いきみまくったのだ。3時間ほど経っても、痛みが止まらずトイレから出れない。家族からコンコンされても「まだ出てる」と言って、いきみまくった。

やっと、何も出なくなって、立ち上がった。肛門付近がじんわり熱い。体重計に乗ると、1.3キロ減っていた。これはこれは、大したもんだと毎日飲むことにした。

翌日も、いきむ。その次の日も。毎日いきむことが続いた肛門付近の熱はどんどん熱くなっていたがすぐに治るだろうと呑気でいた。学校に行くと、男子が「アナルって知ってる?」と聞いてきた。「あぁ、知ってるよ。常識でしょ」とクールに返したが、異性からそんな急に言われた単語はエロくて仕方ない。

家に帰って、触って確かめなければならないと思って、お風呂場でパンツを脱いだ。

何かがでている。ネズミの太くて短い尻尾のようなものが。そして熱い。みんなこうなのかな?鏡に写してみる。他にもいろいろ写って眩暈がした。情報が多い、お風呂に長く浸かりすぎたのかもしれない。


夕飯を食べてる時に、お父さんに聞いた。
「あのさ、わたし、お尻から何か出てるんだけど、これってみんなかな?」
「え、出てんの?それ、痔じゃない?」
「痔じゃないと思う。絶対違うと思う。いや、違うね」
「いや痔だよ。一回見せてごらんなさい」
「やだよ。思春期って知ってる?お父さんが見せなよ。いまは痔が治ってる普通の感じなんでしょ?」
「やだよ。なんでお父さん、50にもなって、娘に肛門見せなきゃいけないんだよ」
「やだよ。失うものないでしょ。お母さん、ほら、お願い。お父さんの携帯でお尻撮って」
「やだ、やだよ!!!」


…パシャ

豆電球にした暗い部屋で、お父さんの肛門を撮ってくれたお母さんに感謝である。お父さんは何も言わずに風呂に行った。私とお母さんは一緒に写真を見る。

「きんも」
「こら、あんたが見たいって言ったんでしょ。ほら、なにも飛び出てないのよ、普通は」

私は痔の中学生と、その日から家族に認定され、田舎の痔の病院に連れていかれることになった。緊張して震えは止まらないし、知らない人に尻を見せるなんて、信じられない。なんでこんなことになったんだろう、ダイエットなんかしなきゃよかった。


先生はおじいちゃんだった。メガネが少しずれてて色々心配になる。
「ここの銀のベットに寝転んで。」
よく冷えた鉄のベッドに尻丸出しで横たわる、なんのプレイ。尻の割れ目をぱかっと開かれて、思わず目をつぶった。むり。

「あーーーーーーー痔。痔、痔やねぇ」
「本当ですか?」
「うん、でもすぐよくなる」

尻を見られたショックで、もうその言葉が信じられなくて、薬をたくさんもらったのに、飲んだふりをしてしまった。

お父さんからも、痔はどう?と夕飯のたびに聞かれてしんどい。腫れに腫れとんのよ。親がいない日に、氷を冷蔵庫から取り出して肛門を冷やしたこともある。なぜか血が出た。


そして数十年が経った。
穏やかになったはずの痔が、なんだか騒がしい。なんか内側から激しくノックしてきてる。誰か住んでる?

そして一昨年、痛みがピークに達し、東京で手術することになった。そこの先生は名医らしいと聞いたので、1週間も入院してすべてを任せた。
看護師さんに励まされながらぶっとい麻酔の注射を打たれた。先生が3箇所もバチン!とハサミで切りとった音がした。痛みは麻酔のおかげで感じないが、尻に小さな杵で叩かれた衝撃があった。小さな餅つき。そんな綺麗なものでもないか。

手術後、先生は手慣れた様子でパシャっとチェキを撮って、意識朦朧とする私に手渡した。この根性焼きした肛門のチェキ、どうしたら良いんですか。

その後、車椅子で病室まで運ばれ、そこから数時間寝続けた。
先生は回診に来てくれたタイミングで心配してくれると思いきや、「今日、俺の息子の大学受験日なんだよね」と不安なコメントを残して去っていった。手術に集中できてなさそうな顔してたけど、大丈夫だろうか。

でも今はそんなことより眠くて仕方ない。麻酔が切れてきて痛くて、もう訳わからない。睡眠薬ももらったけど、でっかいミラーボールの幻覚が出てきて渋谷のクラブで踊った時の感覚が蘇り酔ってきた。

てんやわんやの入院が終わり、家でもゆっくり動く日々が続いた。
2週間後、鏡で術後の尻の様子を見てみると、なんかまた新しい命が生えてきている。きのこみたいな生命力だ。でも痛くないから大丈夫か。

そこから一年経ったあと、本棚の整理をして、ある本をパラパラと流し読みしていたら、肛門のチェキがしれっと挟まっていて叫んだ。私、あの時、意識朦朧としながら大事なチェキだ…という意識で大切な本の中に挟んだんだろう。リスがどんぐりを森の中に隠して保存するけれど、隠した場所が分からなくなってそれから新しい木が生える、という話を思い出した。私、このエピソード大好きなんだよ。まさか自分が同じことやれるとは嬉しいよ。私にとって、隠したどんぐりはチェキだったというわけ。ああ、自分が愛おしい。

毎日、瓦版のように世の中で起きたかもしれない、いや起きてないかもしれない個人的大事件を軽く書き連ねていきます。世の中、苦しいニュースばかりで耐えられないので自分で書くことにしました(動物が産まれたニュースばかり希望)。完全見切り発車小説、としとこう。瓦版があった当時、2〜3文で売られていたようなので、今回から書いていく瓦版も100円にしたいです。これを最後まで読んで気に入ったら100円サポートしてください。記事のオススメボタンも押してもらえると飛んで喜びます(^^)やった〜。

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『全部を賭けない恋がはじまれば』
(ひろのぶと株式会社)


ぜひ読んでください。いろんな人生を詰めた本です。感想、すご〜く嬉しいです。ぜんぶ読んでます◯精神がお腹いっぱいになります。


思いっきり次の執筆をたのしみます