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【キミの女装の中心線#06】婚活真っ最中、謙虚な会社員のキミと仕事の話

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#06

今回は、婚活中の女装男子、美奈さんとデート。
女装サロンRAARで女装をして、初めて女装姿で外出する記念日でもあるそうだ。そんな日に立ち会えるなんて光栄だ。

お目当てのカフェが大混雑していて落ち込んでいたけれど、美奈さんは「色々歩いて探してみましょう」と寄り添ってくれた。リサーチ不足の私に、そんな言葉をかけてくれるなんてもう今日のデートは大成功な気がする。

まじですべてのカフェが大混雑。観光客で溢れかえっている

私たちは新宿のカフェの空きを確認しながら歩く。
コロナでがらんとしていたはずの新宿は、いつの間にか人で溢れていた。

初めて会ったのに彼女の優しいまなざしのおかげで、緊張せずに話せた。目の印象はどれだけ着飾っても繕っても隠せないと昔から感じていたものが、今日、確信に変わりそうだった。

「美奈さんは普段、何されてるんですか?」
「会社員です」
「おお。女装歴は?」
「女装歴というほど女装してないんですが、数回している程度です。まだはじめたばかりで」
「デビューしたての方と出会えて嬉しいです。婚活もしていると事前に聞いてたんですが、出会いはどうですか?」
「んふふ。そんながっつりはしてないんですよ」

カフェデートのはずが、二人でチキンの貴族になることにした

「なんだかさっきから話してると、美奈さんって謙虚ですよね。圧がないっていうか」
「そうかな。でもなんだろう。僕の仕事柄、そういうのを隠すことが身についているのかもです」
「会社員ですもんね。私、占い師なんですけど圧は隠しきれないですね〜」
「占い師は圧があった方がいいんじゃないですか」
「そう言ってもらえると嬉しいです。当たり前だけれど、人にアドバイスする時って、占い師はみんな自分のことを棚に上げて話すんですよね。そうしないと人の未来なんて断言できないし」
「その話、とても興味があります」
「みんな色々言うけど、他人の人生の責任取りたくないじゃないですか。脅すはいいけど次のうまくいくやり方を教えない、囃し立てた先もサポートしないのってダサいな〜と思います。そんなことを一旦担う商売が占い師だと思います」
「次の手を教える仕事、か。それでもしうまく行かなくても、その占い師のせいに出来ますもんね。なかなかだな。」

自分の仕事の話をすると、喉が乾く。
ミックスジュースを追加で頼んだ。そういえば、なぜ私はこの仕事を誰にも頼まれていないのにしているのだろう。数年前は不動産のOLをしていて毎日家賃督促の電話をかけてそれなりに楽しかったのに。

店内は昼間から酒を飲んでいる人もいた。それも、仕事かもしれない。

忙しそうに両手いっぱいにジョッキを持っている店員さんが、こちらにもドカンと置いて去っていってくれたので私もその勢いを借りて飲み干した。

「未来を見て話している時は、自分は神様の気持ちです。お客さんが帰ると、なんであんなことを熱く一生懸命に言ったんだろなと不思議な思いをすることもよくあります。さっき会ったばかりの人にあれこれ言うし、変な仕事かも」

私たちは早々に店を出て、また忙しい街を歩くことにした。

「うまくいかない時に会いにいきたくなるのが、占い師ですよね」
「はい、なかなか絶好調の人は私に会いにきません」
「絶好調の人、どこにいるんだろう」
「おそらく山の奥とかに住んでるんじゃないですかね。希少です」
「新宿にはいないでしょうか」
「今、街を歩いて見渡したかぎり、伊勢丹から出てきた人は幸せそうです」

「ンフ。それは僕もわかりました」
「へへへへへ。そういえば美奈さんの名前って、どう付けたんですか」
「女装サロンのカメラマンさんから付けていただきました」
「おお。人につけられた名前っていいですよね。なんかそういうふうに見えてるんだな〜と思えるし。自分のこと、客観的に見える気がする」
「はい、気に入ってます」

お別れの時間は一瞬でやってくる

「美奈さん、初めて会った気がしないです。すごく話しやすかったです。次、お会いした時はご結婚されてるかもですね」
「はは。ゆるやかに婚活続けてみます」
「最後に、どんなタイプが好きなんですか?」
「タイプ?特に定めていないです」
「もう、最後まで謙虚なんだから。じゃあアピールできることは?」
「煮物が得意です」

もうみんな惚れちゃうだろ、という言葉は飲み込んで、彼女のこれからの出会いを占い師として大応援したい。

「では、また」

さよならした美奈さんの後ろ姿は、絶好調に見えた。

次回は現役AV女優の女装男子と出会います、おたのしみに。


*今回デートした女装モデルさん
美奈さん


*協力
女装サロンstudio RAAR 新宿
Twitter:@salon_RAAR
営業時間:10:00~20:00(不定休)
TEL:03-6205-6450
〒160-0022 東京都新宿区新宿5-18-12 八重洲ビル6階 60A号室
※ダイコクドラックのある建物の上階です。
都営新宿線、東京メトロ丸ノ内線 「新宿三丁目駅」E1出口から徒歩1分
都営大江戸線、東京メトロ副都心線 「東新宿駅」A1出口から徒歩3分
※事前に必ずご予約してください。


* 作家プロフィール
ご機嫌よう。稲田万里(いなだ・まり)です。
福岡県出身の作家、占い師。東京デザイナー学院卒業後、ブックデザイナー佐藤亜沙美氏に師事。その後、不動産会社、編集プロダクションなどに勤務し、スナックのママも経験する。占い師としての専門は霊視、易。2022年の10月、ひろのぶと株式会社より初の著書『全部を賭けない恋がはじまれば』を上梓。Twitter @chikazukuze

全部を賭けない恋がはじまれば
(ひろのぶと株式会社)

ぜひ読んでください。感想、すご〜く嬉しいです。精神がお腹いっぱいになります。

#キミの女装の中心線


思いっきり次の執筆をたのしみます