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ベトナム人学生との1年間を振り返る③〜尊厳の保持と自立支援〜

①ではベトナム人学生と関わるきっかけ、②では介護実習について書きました。

今回は、講義で「尊厳の保持と自立支援」について伝えたことについて書いてみようと思います。

ご存知かもしれませんが、高齢になり介護が必要な状態になったとき、ほぼ介護保険制度を利用することになります。

介護保険法の第1条には、「尊厳を保持して」「自立した生活を営むこと」を目的としています。

「尊厳を保持する」とは、簡単に言うと、利用者さんの希望、これまでの価値観や生活歴などを考えること。そして、たとえ判断力や理解力が低下しても、人として当たり前に接することです。

例えば、高齢により調理が難しくなった場合、「お嫁さんにも台所に入らせなかった」という生活をされてきた方に、いきなり「ヘルパーが代わりに調理しましょう」という支援は適切ではないですよ、ということです。

支援者側が「もう自宅での生活は難しいのでは?」と感じていても、「妻を看取ったこの家でワシも死にたい」と言われれば、勝手に施設入所させることもできません。

意思表示できない方の入浴介助をする際にも、湯船に入っていないときは体にバスタオルをかけます。

「自立支援」は、何でもかんでも「困ったことを助けてあげる」ではく、「利用者さんが自分でできるように支援すること」です。

多くの高齢者の場合、加齢によりできないことは増えていきますが…

トイレでズボンをおろすことは難しいが、手すりを持って立つことはできる。

箸を使うことは難しくなったけど、スプーンを使えば自分で食べられる。

左半身は麻痺があるが、右手で体の左側や下半身は自分で洗うことができる。

などなど、食事・排泄・入浴の行為の中で、自分でできることは自分でしていただきます。

その方ができることまで職員がしてしまうと、どんどん身体機能は低下していきますし、職員に依存することなってしまいます。

このあたりの話を、実際の事例を交えて講義の中で伝えていきますと…

学生「残存機能の活用ですよね」

私「おー、すごい。勉強してるね!」

学生「先生、もっと褒めて!」

というやり取りがあったので、ある程度理解しているのかな?と期待しまして。

私「では、皆さんに聞きますよ。80才のおばあちゃんが一人暮らしをしています。最近膝と腰を痛めて買い物に行けなくなりました。さて、皆さんならどう支援する?」

学生「代わりに買い物に行ってあげる!」

コケそうになりました😅

私「では、このおばあちゃんが『自分で買い物したい』って希望したらどうする?」

学生「無理しないでって言う!」

私「さっきまでの話を聞いてた??😓」

尊厳と自立支援の話を振り返り、もう一度聞くと、

学生「車椅子で一緒に買い物に行く!」

という回答が返ってきました😅

「リハビリしてまた買い物に行けばいい」という回答はなかったですね…。

前回の記事でも書きましたが、彼ら彼女らに悪気はないんです。

むしろ、「助けてあげたい」という強い気持ちを持っています。

「ただ、困っていることを助ける」のではなく、「どう助ける(支援する)のか?」が大事なんだということは、就職してからも引き続き指導や助言が必要になるかもしれません🤔

学生さんとこんなやり取りもありました。

学生「先生。僕がアルバイトしてる施設にいるおばあちゃんが『早く死にたい』って言ったから、『早く死ねるといいですね』って言った。そしたら『あんた、ひどいことを言うね』って怒られたよ。なんで?」

これも学生に悪気はないのです😣

私「同じ『死にたい』って言葉でも、言い方や言ったときの表情や態度で真剣さが違うと思うでしょ? 言葉だけでなく、『どんな気持ちでその言葉を言っているのか?』を考えることが大事なんよ」

と伝えましたが、どこまで理解してもらえたのかは不明です😓

私が担当した22人の学生は、「尊厳の保持と自立支援」を学ぶだけでも大変なのに加えて、日本語の使い方も覚えなくてはなりませんでした。

「申請日にさかのぼって利用できる」

という文章を読んで、

「先生、さかのぼってって何ですか? 坂を登ることですか?」

と聞いてきた学生もいました。

1年間学生さんたちと接してきて、記録を書くことや相手の気持ちを汲み取ることなどの難しさを実感しました。

自分が日頃何気なく使っている日本語の複雑さも感じました…。

職場によっては、そこを割り切って教育せず、「介護補助」として働いてもらうところもあるかもしれません。

自分の夢のため、母国の家族のために遠い日本に来たにも関わらず、「使い捨て」のような待遇・扱いをされないことを願います😥

私の職場では、この22人のうち、まだ就職の決まっていない2人を10月からアルバイト採用することになりました。

利用者さんや職員への接し方、勤務態度や意欲など総合的に判断して、採用するか否かを決めたいと思います。

ここでは、④〜アルバイト採用編〜として紹介したいと思います。

まとまりのない長文を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。