仮面ライダービルドは愛と平和の戦士②


こちらの記事はかつて2018年11月7日、当時学生だった自分が書いたはてなブログを修正して再掲しています。なおネタバレを含みますので、最終話まで完走していない方はご注意ください。


卒論を1ミリもやりたくない今日この頃なので、またも仮面ライダービルドの話をしたい。
前回が主人公の仮面ライダービルド(桐生戦兎)とメインストーリーの雑な話だったが、今回はサブライダーの話をする。



登場ライダーについて

登場ライダーライダーは敵も含めて7人。作中の登場順に並べるとこうなる。
・ビルド/桐生戦兎(きりゅう・せんと)
・クローズ/万丈龍我(ばんじょう・りゅうが)
・グリス/猿渡一海(さわたり・かずみ)
・ローグ/氷室幻徳(ひむろ・げんとく)
  ※非公式だがファンの間では「げんとくん」で通っている
・エボル/エボルト、石動惣一(いするぎ・そういち
・マッドローグ/内海成彰(うつみ・なりあき)
・ビルド/葛城忍(かつらぎ・しのぶ)
石動自身は物語の開始以前から意識ごとエボルトに乗っ取られているため厳密には変身者ではない。また桐生戦兎の父親である葛城は、戦兎の前任者である。

ここに「仮面ライダー」ではないが「トランスチームガン」で変身する戦士を入れると…
・ナイトローグ/氷室幻徳
・ブラッドスターク/エボルト
・リモコンブロス、ヘルブロス/鷲尾風(わしお・ふう)
・エンジンブロス/鷲尾雷(わしお・らい)
ヘルブロスは、リモコンブロスとエンジンブロスの両方を使ったフォームだ。

重複も含めて計8名がアーマーを着用して戦う。仮面ライダー龍騎や鎧武のような、ライダー同士のバトルロワイヤルが物語の主軸にあるわけでもないのになかなかの数である。
万丈をのぞく7名は最初はビルドの敵として登場しているが、最終的には仲間になったり、命をかけてビルドが進む道を作ったりと、ヒーローとしての描写がされている(ただしラスボスかつサイコパス愉快犯火星人のエボルトを除く)。ほんと、最終回を目前に毎週誰かがエボルトに倒されて死んでいった(ショックすぎて8月は毎週葬式気分だった)けど、どのキャラクターも死に様がかっこよかった。ほぼ全員が性格男前ライダーってすごいよね…。
毎週誰かが死んだ直後に、エボルトがニコニコしながら「よっ」ていいながら登場するんだよ。そりゃ視聴者含めてみんなキレるし、戦兎だって叫ぶ。命がけで戦う姿を寝ころびながらモニターで楽しそうに観戦するド畜生ぶり。


仮面ライクローズ

いやいやクローズのデザインかっこよすぎ。ネイビーにゴールドは反則。問答無用で好き。主人公のビルドが二つのモチーフもちなのに対して万丈は「ドラゴン」だけなので、序盤の二人しかライダーがいない時は特にその対比が際立って良かった。しかもビルドが「鋼のムーンサルト」で足技中心なのに対して、クローズはボクシング選手の万丈に合わせてパンチ中心。これ以上アツい設定で視聴者を焼き殺さないで。
 
最初、冤罪で逃亡している万丈はただの熱血脳筋野郎かと思ってたが、戦兎やヒロインの美空とのコミュニケーションを通じて「人のために考えて行動し続けるいい奴」だとしっかり描写されて安心した。
熱血脳筋野郎には違いないんだけどさ、最初は自分の冤罪を晴らすためだけに戦ってたのが、最後には世界を救うには自分がいない方がいいと考えて心中しようとする。自分の一番愛するかすみさんが幸せならそれでいいやって引き下がる。泣いた。自分のことしか考えてなかったような万丈が、世界と愛する人のために自分を犠牲に出来るまで「真のヒーロー」にまで成長する。仮面ライダークローズも愛と平和の戦士なのだ。
 
 万丈の体内にはエボルトの遺伝子があるなどなど細かい話もしたいなと思ったけど、万丈ごめんな、正直げんとくんに夢中だったし一海の話の方がもっとしたいから割愛。次。


仮面ライダーグリス

猿渡一海の初登場時、「めっちゃぎらついてぶっきらぼうなミステリアスイケメンバトルジャンキー」な武田航平さんが出てきて大喜びしていた。10年前に仮面ライダーキバに「紅音也(くれない・おとや)」役で登場していたので武田さんは知っていた。
戦兎や万丈たちの住む東都と敵対する北都。その北都の擁する仮面ライダーが一海の変身するグリスだ。痩せた土地、停滞する技術革新で苦しい生活を強いられるマッドマックスのような土地から殴り込んできた一海。戦闘狂のような振る舞いからは想像出来なかったが、「自分たちの生活を豊かにする」という強い思いを持ったヒーローでもある。
めちゃくちゃ良い設定じゃん…と思っていたが、数話もすると、

「み~~~たん♡(キモオタ口調)」

みーたんとは、ヒロインである石動美空(いするぎ・みそら)の裏の顔であるネットアイドルとしての名前だ。
 
……待て。待て待て。武田航平の10年ぶりのライダー再出演なのに?!!!一海こと武田さんの鬼気迫るドルヲタの演技に全国の視聴者が度肝を抜かれた。
しかも回を経るごとにキモオタ度は上昇し続け、

・落ち込む美空を抱きしめようとするも挙動が完全に犯罪者
・戦兎が自暴自棄になっている隙に、勝手に番組タイトルを「ドルヲタ、推しと付き合うってよ」に変えようとする
・美空等身大抱き枕欲しさに和解した直後に戦兎を殴る
・バーベキュー中、美空が使ったタオルをフガフガ嗅いで静かにガッツポーズ
・その後本人に無断でこっそり使用する(実はげんとくんのタオルだったとすぐに判明)

 
顔が武田航平だから忘れがちだが、ほぼ全てが犯罪だ。あまりのキモさにさすがの美空も終始ドン引き。なので、「戦兎」「万丈」「幻さん」など仲間を愛称で呼ぶ美空に一海だけが最後まで「グリス」と呼ばれ続ける。
 
そんなキモい一面を見せつけられても、やはり戦う一海は本当にかっこいい。前述の通り、戦う理由は地主(≒貴族)としての責任感だ。土壌汚染で不作が続く北都で、地元の住人たちの家計が苦しくなったので、汚染の原因と考えられるスカイウォールの謎を解明しようと政府お抱えのグリスになった。また、本作では仮面ライダーになるには適合手術(人造/改造人間のみがライダーに変身できるという初期作品へのリスペクトと思われる)を受ける必要があるのだが、仲間に罪悪感を抱かせないために「記憶を消した」と嘘をついている。一海は「頼りになる兄貴分」として、仮面ライダーになる道を選んだのだ。グリスもまた、愛と平和の戦士なのだ。


グリスの最後の祭

ねえ一海の死亡回(最後から4,5話目に当たる45,46話)の話もしていい?一海の真骨頂はこの死に際なんですよ…。

〜45話:「希望のサイエンティスト」

残り8話くらいでエボルトとの最終決戦のため、一海はさらに危険なスマッシュ(怪人)改造手術を受けた。この手術によりエボルトの攻撃で倒されれば即消滅という危険な状態になっている。戦兎や万丈が強化アイテムでますます強くなる一方で足手まといになる自分に焦りを感じていたのだろうと推測できる。
戦兎も一海の気持ちを察してグリス用の強化アイテム「ブリザードナックル」を開発していたのだが、この手術を受けてしまったことでその使用負荷に耐えられない体になってしまったのだ。自分を頼らなかった一海に静かに怒った。
 

戦兎:「これで変身したらお前は消滅する。だからあくまで武器として使ってくれ」
一海:「世界を救うのが仮面ライダーなら命を懸けて戦うのが当然だろ、あいつら(≒三人の仲間たち)はもういない」
戦兎:「お前に何かあったら俺たちが悲しむ」
一海:「心配すんなって…それにこれはビルドドライバーでしか使えねえんだろ?」

※グリスは「スクラッシュドライバー」というベルトを使用している。今回戦兎が開発したものは戦兎や万丈が使用する「ビルドドライバー」専用アイテム。汎用性のない強化アイテムはご愛嬌だ。

 
フラグだ…と全国の視聴者が思っていたが案の定。
エボルトは自身の細胞の一部を分裂し、一海の死んだ北都の仲間たちに擬態させて最終決戦で立ちはだかる。一海は仲間を死なせてしまったことにずっと罪悪感を抱いていたが、直接手を下したほはエボルトだ。負い目で苦しむ一海を愉快に観戦するエボルトは本当にド畜生だ。

一海は戦兎たちを先に行かせて、かつて仲間と同じ声と姿の怪人相手に奮闘するも、罪悪感で攻撃出来ない。そんな一海にエボルトは追い打ちをかけるように、スマッシュたちを通じて「どうしたんすかあ」「早く楽にしてやりますよ」と挑発を続ける。最悪。

「悪いな戦兎、俺、約束破るわ」
手には使えば即死と言われたブリザードナックル。
ビルドドライバーの指示音声が響く。
「Are You Ready?」
 
「……できてるよ」

48話より

泣いた。やばいかっこよすぎでしょうが…。ベルトの指示音声はどのライダーも同じなのに、まさか「Are You Ready?」を「準備はいいか」じゃなくて「覚悟はできたか?」の意味で使うやつがあるか…。日曜日の朝からなんてことを…子供向け番組だぞ東映……。どうしてなんだよ…。わかってたけど、どうして使わさたんだよ東映……。
一海は戦兎や万丈と違って「平和のためなら命を懸ける、自分は死んでもかまわない」という自己犠牲的な描写が目立つキャラクターだった。当然この戦いで自分の犠牲を覚悟の上で戦場に向かっている。本来なら自分の通常変身では使用しないビルドドライバーを、戦兎の研究所から持ち出したのも一海のことを考えれば当然の行動である(だからこそ戦兎は何としても一海を助けたかったのだが)。
皆さん分かりますか?次回で確実に一海が死ぬのは嫌ほど思い知らされているんですよ。どんな気持ちで一週間生きればよかったんですか。一週間のうちで一番楽しいはずの日曜日を、どういう気持ちで迎えればいいんですか…。あんまりだ東映…。


46話:「誓いのビー・ザ・ワン」

「使えば死ぬ」と言われたブリザードナックルで開始早々変身したグリスはスマッシュ達と互角以上に戦うがその対価として体の消滅は始まっていた。ちょうど宇宙救済のための最後のアイテムである「ロストボトル」を手にした美空が到着したときだった。
 

美空:「もうやめて…死んじゃうよ」
一海:「…心配してくれるなんて嬉しいねえ、でもどの道助からねえんだ」

世界を救うにはロストボトルがもう1本生成する必要があった。スマッシュ改造実験を受けた人間、つまり仮面ライダー4人の誰かの消滅エネルギーでしかロストボトルは完成しない。一海はそのボトルを生成するためにもハナから死ぬつもりだったのだ。だからブリザードナックルも躊躇わず使用。
 

一海:「そろそろ潮時みてぇだな…この世にだいぶ未練が残っちまった……ありがとうな…」
美空:「・・・グリス」
一海:「最後までグリス(呼び)かよ……」
美空:「当たり前でしょ、呼んだら消えちゃいそうな気がして、呼べなかった。だからこれからも絶対呼んであげないんだから」
一海:「・・・みーたん、行ってくれ。世界を救うにはそれ(=一海から生成されるロストボトルボトル)が必要だ」
美空:「生きてよ……だから生きてよ、お願いだから生きてよ…おねがいだから…!生きてよ……!!!」
一海:「…推しに看取ってもらえるなんて幸せもんだなあ」
美空:「グリス…!!!」

46話より

 
静かに笑った一海は、まばゆい光に一瞬包まれたあと跡形もなく消滅した。その場に一人残された美空はうなだれた小さくつぶやいた。
「………………カズミン」

ああああ……。あああああああ…………。
これでまだ中盤だったんだぜ…信じられないだろ……。しかもこの一海の話の裏で内海さんの悲しい話もやってんだもん。ファンの心臓のえぐり方がやばい。
どうして最後まで美空が「グリス」としか呼ばなかったのかが、この一海の死に際で遂にカミングアウトされるのほんとだめ…つらい。死に際なのに場違いな事ばかり言って話を逸らすし、美空が縋り願っても最後まで背を向けたままだったし。一海なりの漢気だろうか、美空を悲しませないためか…つらい。ほんときつい。思い出すだけでもしんどいのに、文字起こしのために見返してますますつらい。
でもめちゃくちゃいい展開だったと思う。戦う意味や犠牲、覚悟。自分を犠牲にしても守りたいものがあるのだと、仮面ライダーグリスは教えてくれた。


本当はこの続きでげんとくんや内海の話もまとめてしたかったのだが、グリスのことを書きすぎて分量が多くなった。この下書きももう2週間近く放置してたからさすがに早めにお披露目というか供養したいし、何よりげんとくんと内海さんの死亡回まで扱うメンタルがない。未来の自分、頑張ってくれ。

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