ハコヅメ的世界との邂逅



 こんなことが身近で起こるんだ……と思った話。

*ちょっとだけ警察のお世話になった

 母がある日小銭入れがなくなった、と言っていた。サチからもらったものなのに、どうしよう、小銭も少し入っていたのに、と世界の悲愴みたいな表情だ。
 また車のなかじゃない? 前もそんなことあったし。
 と車のなかを浚ってみると確かにどこにもない。
 物凄く落ち込んでいるので小銭入れはまた買ってあげるよ、と言っておいた。
 しかし「そういえば警察のサイトで遺失物を探せるんだっけ」と、だいぶ前にTwitterのライフハックみたいな投稿があったのを思い出した。私はそのとき手が離せなかったし、姉がちょうど携帯を使っていたので姉に頼んで県警の遺失物検索サイトで探してもらったのだけど条件に該当するのは眼鏡のみ、とのこと。
「そっかー」と答えてまた違う時間帯に通販サイトで今までより少し良いポケット付きの小銭入れがあったのでそれを誕生日のプレゼントにしよう、と決めて購入ボタンを押そうとした。
「でも自分ではまだ調べていないな?」ということを思い出したので念のため県警の遺失物検索サイトを見てみることにした。何事も自分の目で確認しなければ。
 母がなくしたのは店舗内か、駐車場、もしくは路上。なくしたものは大きな枠では財布類、細かな枠では小銭入れ・コインケースで同じくらいの日付で三件見つかった。
 こんな短い期間に同じ市で三つも小銭入れの遺失物の届け出があるのか、と驚いた。
 そのなかの二つが母の小銭入れの特徴と似ていたので「このどちらかじゃない?」と母にタブレットの画面を見てもらった。そのうちの一つの見つかった日にちと場所が近いもので財布の特徴が似ているものの問い合わせ番号を控えて「明日電話する」と言う。
 けれど私のなかでのハコヅメ情報では確か警察という組織は24時間体制のはず。19時になっていたけれどその日のうちに電話することを勧めた。
 1コールか2コール目で電話に出てくれて、なくした場所と日付、小銭入れの模様の特徴、つけていた根付などの情報を告げるとほぼ間違いないので明日伺います、ということになった。
 翌日私は起きる時間を一時間寝坊し、これからウォーキングに出ようかなという時間に電話がかかってきた。知らない番号だ。知らない番号からの電話は受けないようにしている。
 でもこれ……なんか昨日電話した警察署の電話番号の下4桁に似ているな……しかもなんかめっちゃしつこい。
 出ようかな……やめようかな……でも警察だったら母は仕事でいないから答えられんしな……と思っているうちにコールが止んだ。
 ウォーキングから帰宅後に母も帰宅し、着信履歴を確認するとやはり警察からだという。折返し電話をかけると案の定めちゃくちゃ怪しまれた。
 確かに特徴を知っているだけだと見たことのある人がなくしたことに乗じてもらっちゃおうみたいなこともあるのかもしれない。根付はどこの神社で買ったものなのか、ストラップの色は、ついているものの詳細は、などかなり事細かに訊かれて記憶力ざっくり型の母は警察署に行く前にぐったりしていた。
 念のため私も付いていくことにした。携帯で場所をナビをしようというのもあったりしたが、万一母が疑われても小銭入れの購入者は私なのだし、購入履歴も通販サイトに残っていたのでそれが証拠になるかは分からなかったがなにも証拠がないよりはましだろうと考えた。
 途中、道に迷ったり紆余曲折があったが警察署に到着し、「お電話差し上げた海野(仮名)と申します〜」みたいな感じで窓口の様子を二人して窺った。
 担当の署員のかたに「お財布のなかにはなにが入っていたかご存知ですか?」と訊かれた。本人しか知り得ない情報の聴取かな? ということで小銭以外に入れていたものを答えて、ついでにお札を入れているほうのお財布を何気なく出したところ小銭入れと同じブランドの同じ柄で揃えていたことも手伝って比較的あっさり信じてくださり、私は単なる付き添いというポジションで終わった。
 行くのも大変なら帰るのも多少大変だったが小銭入れは無事に戻ってきたし、中身の小銭も無事だった。
 届け出てくださったのはなくした場所だったお店の店員さんだったが特にお礼の品は希望しないとのことだったので電話にてお礼をして終わった。
 都道府県警の遺失物検索サイトはとても便利なので皆様も「なくしたーもうだめかも」と思う前に一度探してみてほしい。

 余談だけどもその後母に「今後はなくさないように」とパスケースなどを落ちないようにするチェーンを買ってきてプレゼントし、かばんに繋いでおくことをお願いした。





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