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あの世へコール。

 『もしもし、お父さんですか。もう少しでここを離れると聞いたので、伝えたいことを書いておきます』

 住民票の写しが届いた。父の名前に訂正線が引かれ、除籍されていて三人、言い様のないショックに見舞われる。本当に三人家族になってしまったのだ。
 父が棺に入ったとき、死装束というものを着ているところを初めて見たけれど死装束というのは旅装束なんだな。錫杖を手に、足元に笠を持ち、小手をする。私は有り難いことに笠を持たせる役をやらせていただいた。
 父が亡くなって分かったことはどれだけ父に頼っていたかということ。面倒な書類は全て父がやってくれていた。家の電器が切れると父が替えてくれた。物が壊れると得意のガムテープと接着剤でなんでも直してくれた(たまに壊されて逆ギレされた)。
 父がこの世を去ってまだ四十九日も経っていないのに、まだ一ヶ月前は生きていて、私たちは四人家族だったのにそれが遠い昔のことのように感じる。
 人一人がいなくなることへの自分たちのエネルギーの減り方が凄まじくて毎日神経を摩耗する。
 生前の父は朝起きると白湯とお線香を上げるのが一日の始まりだった。私はご先祖様にお線香をあげる習慣がなく、「よく続くなあ」なんて思っていた。
 しかし、父がなくなってからは朝晩はもちろん嫌なことがあったり嬉しいことがあるとお線香をあげる。続くとか続かないという問題ではなく、ただ父と会話したいのだ。もしかすると父もそうだったのかな。
 四十九日目にゆらゆらと彷徨っていた父が死出の旅路に出るのだという。離れたくないけれど、もっとずっと一緒にいたいけれど、そのときは涙ではなく笑顔で送り出そうと思う。お線香と一緒に好きだった芋焼酎もお供えしよう。

『生まれ変わってもどうか違うことなく母と巡り会って私の親になってください。そして、できたら長生きをしてください』

 ずっと言えなかったけど、大好きだよ。今までも、これからも。


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