同一労働同一賃金を読み解く 後編 (施行規則3条を読んでみる)
前編で法律を腑分けしつつ読んで、使用者側の思惑により、同一労働同一賃金の規制が実態として骨抜きにされていることを確認しました。
その際に、二つのカッコ部分を読み飛ばしました。
そのうち、大事なカッコ部分、つまり「その賃金(通勤手当その他の厚生労働省令で定めるものを除く。)を決定するように」というカッコについて読み込んでいきます。
まず、「厚生労働省令」ですが、法律は国会の議決で、政令は内閣の議決で定められますが、「省令」つまり施行規則は各大臣が勝手に決められる、というのが日本の法律のルールです。
その上で上記のカッコ部分を読み返すなら、賃金についてニヤ・イコールとジャスト・イコールの泥仕合を法律で定めた上で、なお、通勤手当など諸手当についても、施行規則でもう一戦やりましょう、と読むことが出来るのです。
だったら最後までお付き合いしましょう、と言うわけで、パートタイム労働法の施行規則を見てみます。
最近の施行規則は親切に出来ていて、法律の何条に関する定めかが一目で分かるようになっていますので、ざっと見ていくと、法第10条に関する規定が第3条にありました。
(法第十条の厚生労働省令で定める賃金)
第三条 法第十条の厚生労働省令で定める賃金は、通勤手当、家族手当、住宅手当、別居手当、子女教育手当その他名称の如何を問わず支払われる賃金(職務の内容(法第八条に規定する職務の内容をいう。)に密接に関連して支払われるものを除く。)とする。
これもカッコを読み飛ばしてみると「通勤手当、家族手当、住宅手当、別居手当、子女教育手当その他名称の如何を問わず支払われる賃金」については法10条に規定を適用しない、と書いてあることが分かります。
しかし、前編で読み解いたように、法10条はジャスト・イコールとニヤ・イコールが玉虫色になっている条文です。
だから、法第10条の規定から除くとするなら、どっちのイコールの対象から除くのか、同一労働同一賃金の原則を適用するのかしないのか、はっきりしなくなります。
具体例を挙げるなら、仮にシングルマザーの労働者がいたとして、正社員の場合なら子女教育手当が出ているけれど、パートさんには出しません、と言うようなケースを、この施行規則は許容しているのか、否か、と言うことです。
そこで大事になってくるのがカッコ部分、つまり「(職務の内容(法第八条に規定する職務の内容をいう。)に密接に関連して支払われるものを除く。)」です。
カッコが2重になっているので手強い印象ですが、まず内側のカッコに従って法第8条を見ると「職務の内容」を「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」と規定していることがわかります。
それを頭に入れて、シングルマザーの例で考えると、仕事の内容や責任の程度が異なるなら、賃金が異なることは認められるけれど、そうでない条件、例えば家族構成や扶養義務、住宅状況などを基準に払われる諸手当について違いをもうけることは認められない、つまりジャスト・イコールにしなければならない、と読むことが出来ます。
法第10条、施行規則第3条、法第8条とあちこちグルグル遠回りしないと意味が分からない、しかも、法律も施行規則も「除く」という背理法的な定め方をしているのでさらに話がややこしくなる、ということで、おそらく多くのパートさんや契約社員さんには何をどう決めたのか、まず理解できないと思いますし、前編の繰り返しになりますが、とても良くないことです。
そして、さらに繰り返し申し上げますが、それは読み手の頭が悪いからではない、定め方が悪いだけのことなのです。
実際、まずこの施行規則3条のほうを法律に明記した上で、法10条を施行規則に落とした方が、はるかに分かりやすいはずです。
しかし、諸手当に関するジャスト・イコールを法律に書いてしまうと、国会の議決がない限り、削除できないけれど施行規則に落としておけば、大臣の裁量で簡単に削除することが出来る。
つまり、同一労働同一賃金の責任を免れたい事業主側の力が強かった結果、こういう定め方になったのだと思います。
そもそも同一労働同一賃金はアベ首相のツルのヒト声で始まった話なのに、こういう結果になったと言うことは、単なる人気取り、票稼ぎ戦略でしかなかった、ということが見えてくる話でもあります。
残念ながら、以上が日本の法律の実態であり、このような法律を作っている国会の真実だと言うことです。
次回の選挙には、そういうことも念頭に置いて投票していただきたい、というのが私からのメッセージです。
【おまけ】
諸手当について正規・非正規間の取り扱いの違いは認められない、と言う考え方は実はすでに判例において確立していたので、実は今回のような規定ぶりは、見方によっては判例を後退させたとも言えるかもしれません。
立法府のリーダーシップがどの辺にあるのか、その本音が見える規定ぶりだとも言えるでしょう。
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