怪物



宇宙人と人間の混血に育てられた少女は、死んだ親の体から植物が生えてくるのを途絶えさせないために毎日水をあげていました。
しかし、戦争の瓦礫を燃やす焼却炉の熱は待機中の水分を蒸発させてしまうので、少女はビニールと太陽の熱を利用して水分を絞り集めていました。
そんなある日、この町を、ルビッチが訪れました。背中には、ばらばらになったままのプペルが、カバンから飛びたして、カラコロと音をたてています。
この町に入ってきた途端、ルビッチはその暑さから引き戻ろうと思いましたが、もしかしたらあの日の山に、ブルーノ(ルビッチの父親)の時計が放り込まれたかもしれないと考え、思い切って踏み込んだのでした。
この町に住んでいる生き物らしいものはこの少女の他には数人の子供と、宇宙人と人間の混血の生き残りでした。
少女が向こうから歩いてくるルビッチに気付くと「怪物がでるよ。気をつけないと殺されてしまうよ」と言いました。
ルビッチは何のことか分かりませんでしたが、うなずきました。
少女はこの町で行き残ったみんながどんな生活をしているのかを教えてくれました。ルビッチが言いました。「この町をみんなで出たほうがいいよ。きっとその怪物は生き物を全て食べてしまう」
少女が言いました。「そうだね。みんなも本当は逃げたいんだ。だけど私たちは外の世界を知らない。外の世界にはもっと危険な怪物が待っているかもしれない。実際にもっと大きな怪物を見たという子もいたんだ」
ルビッチが頷いて「僕が来た町は星は見えないけど、怪物はいないよ。夢を見たら怒られるけど、心の中で夢を見ていることは誰にも気づかれないよ」というと、少女の表情が明るくなりました。
すると突然、ドスン、ドスン、と大きな足音が聞こえてきました。
そして大きな影があっという間にルビッチと少女を覆い被したかと思うと、大きな手が少女を摘み上げました。怪物は少女を大きく揺さぶると、地面に叩きつけました。少女はあっという間に糸の切れたあやつり人形のようになってしまいました。ルビッチは怪物の足にしがみついて怪物が少女を放すように試みましたが遠くへ吹き飛ばされてしまいました。
少女は怪物に食べられてしまったのです。
ルビッチが放り出された場所は、戦争の瓦礫を燃やしている山のそばでした。目が覚めるとルビッチは喉がカラカラでした。
カバンの中のプペルを確認すると、プペルは無事でした。
ルビッチはプペルを一纏めにして抱きしめると思い切り息を吸い込んで、泣きました。
山の上からは少女を襲った怪物があちらにもこちらにも見えます。
ルビッチの前に現れたのはこの町の知恵者でした。
彼はルビッチに早くこの町を出たほうがいいと言いました。
ルビッチはさっきの少女のことが気になって引き戻ろうとしたのです。知恵者は言いました。「あの子は怪物に食べられてしまったよ。やつらは野菜とメタルと人間の皮以外は何でも食う。得に人間はな。大きな手で地面に叩きつけて手のひらでほぐして、皮の中身をたべるのさ。やつら皮はたべないんだ。
ルビッチに来た方向を指し示すと、知恵者は目の前から消えてしまいました。
プペルは、戦争の瓦礫がいつまでたっても萌え終わらないこの町で、生まれたときから働くことだけを強いられて、最後には怪物に食べられてしまう運命の、自分とおなじ年頃のこどもたちのために、助けを求めに行く必要があると思いました。そしてそれはいそいがなければならないと思いました。自分のやってきた町では異端審問間が立ちはだかっています。彼らが宇宙人と人間の混血を助けるとは思えませんでした。ルビッチは知恵者の指し示す方向とは真逆に歩き始めました。(つづく)

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