こぶしファクトリー解散で痛感するアイドル活動の難しさ

こぶしファクトリーの解散が突然発表された。

こぶしは2年前にメンバーの脱退が相次いで、その時も存続の危機が囁かれた。だが、ハロプロには℃-uteという前例があり、こぶしも同じように残された5人が団結出来れば良い方向に向かう切っ掛けに出来るかもしれないという淡い願望も同時にハロヲタは考えたと思う。

結果的に5人体制となった事で、各メンバーの目線が揃った。歌う事を追求するグループになった。

おそらく2020年現在のハロプロにおいては自他共に、こぶしファクトリーがボーカルスキル単体での評価は1番だろう。

アカペラ&ボイパでこのレベルの物を提供出来るアイドルグループはなかなか無い。

だが、それが数字に反映されないのだ。

正直、僕もこぶしは好きだし、こぶしの歌も大好きだが、ライブには行かない。こぶし単体のYouTubeの動画再生回数にもそんなに貢献していない。

たぶん、同じようなライトこぶしファンは多いと思う。ハロコンで観て感動して、でも結局こぶしソロライブには足を運ばない。

この層を獲得する事が出来なかった。

カントリー・ガールズも同じだったと思う。そして、もうひとつカントリーと共通する事がある。JASRACの作品データベースで「こぶしファクトリー」を検索してタイトルの詳細を見ると、その楽曲の権利者の項目に作詞家、作曲家、編曲家、アップフロントと共に日音という名前がある。

※ここからはあくまで推測と想像でしか無いので、それを踏まえて読んでください。

日音とはTBS傘下の音楽出版社で、現在のハロプロ関係ではカントリー・ガールズ、こぶしファクトリー、鈴木愛理、BEYOOOOONDS、そしてカレッジ・コスモスが契約を結んでいる。田中れいなのLoVendoЯもそうだった。

つまり、楽曲製作においてアップフロントと日音が共同で出資しているという事だ。ちなみにモーニングさんとアンジュルムはテレ東、つばきはテレ朝、Juiceはティーズ音楽出版という田辺エージェンシーの子会社が権利者として名を連ねている。

ハロプロの楽曲、更にいうとグループの活動費用はアップフロント単体の予算ではないのだ。ざっくり言うとスポンサーみたいな物だと思えば分かりやすいかもしれない。アニメ業界とかでいうと「製作委員会」みたいな物だ。

アイドル活動はビジネスである。

楽曲製作ひとつを取っても、そこに各会社の予算組みがあり、会社間の予算の配分が決まっており、更には各会社で予算稟議が通らないと制作が出来ない。世知辛いが現実的に僕らが務めている普通の会社となんら構造は変わらないのだ。

さて、そこでもう一度、日音に権利があるハロプロ関係を見返すと、他よりも抱えている案件が多い事が分かる。いや、この数年で増えた事が分かる。

鈴木愛理とBEYOOOOONDSだ。

それが意味する事は何か。そう、予算配分の整理が必要だという事である。今の御時世で湯水のように予算が湧き出る会社など存在しないだろう。その中で新たな案件が浮上し、かつ利益面や興行面での可能性を比べてみた時に論理的に出てくる答えは「カントリー、こぶしの予算削減」だ。LoVendoЯも正式に2019年に活動休止という名目の案件削除が行われた。日音としても2案件に抑えておくくらいの予算組みが現実的な数字なんだろう。

マンガ連載でもそうだが、数字が芳しくない時に行われるのが「テコ入れ」作業で、例えば新キャラや新たな敵、新たなストーリーで新規層を獲得する手段を試行錯誤する。

スマイレージもそうだったのかもしれない。

主力の卒業、2期メンバーの加入と続いたが数字が伴わない。そこで出てきたテコ入れ案が「3期加入と改名」という大鉈だったんじゃないか。ただ、そこでアップフロントは完全にトップダウンで決めることをしない面がある。最終的な決断はメンバーに委ねる。

和田彩花と福田花音の初期メンバーふたりは、苦渋の選択だったとは思うが会社の提案を受け入れた。だから今のアンジュルムが続けられている。

おそらくカントリーもこぶしも同様の様々な選択を提案されたのだろう。カントリーなら「一度解体するが、名前を残して未来の再始動の余地を残し、メンバーも出来ればハロプロに残らないか?」という提案があったんじゃないか。だが、メンバーはそれを良しとしなかった。

こぶしも(リーダー広瀬彩海の卒業決定が先か後かは分からないが)同じように「メンバー増員してテコ入れor4人で続けていくor解散」というような選択肢が提示されたんだとしたら……

はまちゃんのブログにこんな一行がある。

私はこぶしファクトリー以外でアイドル活動をするという考えがなく、今の5人でなければアイドルとして活動しないと決めていました。

もしかしたらカントリーのように、こぶしを解体してグループ移籍という選択肢も提示されていた可能性すらある。昨日と今日のブログで、はまちゃんは「自己プロデュース」という言葉を多用している。

自分ではない大きな存在に委ねられる状況から抜け出したくなったんじゃなかろうか。自分自身の責任で決めていく事に挑戦したくなったんじゃなかろうか。

最近、アニメの『鬼滅の刃』を一気観した。第一話で主人公が鬼となってしまった妹を鬼殺隊員・義勇に殺されそうになる所で、土下座して助けを求める。その時に義勇が主人公・炭治郎を叱責する。

『生殺与奪の権』を他人に握らせるな!!

はまちゃんが『鬼滅の刃』を観たわけではないだろうが、何かを終わらせられる時に説得力のある反論(反撃)、対案(未来)を提示出来ない身分で居てはいけないという厳しい現実に直面した今回、出した結論がハロプロからの脱却だったのだろう。

同ブログには、こぶしマネージャーから言われた言葉も載せている。

「ハロー!プロジェクトは、人を育てて送り出す場所だ」

誰だろう、こんな良い事を言っちゃうマネージャーって。

アイドル活動はビジネスだ。

良い時もあれば悪い時もある。どうにもならなくなったらプロジェクトの終了や中止はやむを得ない。その時にメンバーそれぞれがセルフブランディング出来ていないと誰に対しても説得力のあるプレゼンは不可能だ。

今のハロプロに致命的に足りない部分である。

■中島卓偉の言葉と共に

最後に、中島卓偉が自身のライブでこぶしファクトリーの事を熱く語ってくれた時があった。

この後に出来た曲がアルバム辛夷第二幕に収録された『明日の私は今日より綺麗』だ。正月のハロコンで聴いて、とても胸を打たれた。このアルバムにはメンバー個人個人をフィーチャーした曲があり、図らずもこれは浜浦彩乃メインの曲となっている。

はまちゃんレコーディング映像もある。

こぶしメンバーも念願だった中島卓偉の提供曲は、卓偉のこぶしファクトリーに対する思いが全て乗っている。そしてメンバー全員がそれを真正面から受け止めて自分たちの言葉として歌っている。

中島卓偉によるコーラスRECの映像とコメントもある。

アイドル活動はビジネスではあるが、それでもやはりこんな良いグループが志半ばで消えざるを得ない現実が悲しくて仕方ない。

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