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江戸の名階段をダッシュでめぐる

 故郷の新潟県南魚沼市への移住まで、1年を切りました。

 さまざまな断捨離をすすめつつ、東京での思い出作りも大切です。自分らしく楽しんで、しかも学びにつながるような思い出作りができないか。そんなことを漠然と思っていた時に、たまたま観たBSの途中下車番組で、こだわりを持って生きている人を訪ねる企画に松本泰生さんという人が登場していました。

松本泰生著『東京の階段』と出会う

 松本さんは人生を階段研究に捧げている人でした。この方が書いた『東京の階段』という本があることを知り、その日のうちにネットで購入しました。BS効果か、定価の倍以上の値段でしたが迷わずポチりました。自分を変える何かが、その本にある気がしました。


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 本の帯には、「名階段126!その先に広がる意外な都市風景!!」とあります。2007年発行で、松本さんの博士論文がベースになっている書籍とのことでした。

 ページをめくると、東京の階段の魅力、なぜ階段が好きなのか、また都市開発の波におされ、名階段がつぎつぎ姿を消していることを嘆く一文もありました。

 そして、松本さんの好みの階段が一つずつ、写真と解説付きで展開されていきます。

 よし、この本に掲載されている階段をすべてダッシュして制覇しよう。そしてそれを残り少ない私の東京生活の最後の思い出つくりにすることにしました。

なぜ階段を走るのか?


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 トレイルランニングをしている私は、もともとトレーニングメニューに階段ダッシュを組み込んでいます。最寄りのトレーニング階段は、お茶の水にある駿河台男坂。まさにマイホーム階段ともいうべき男坂は、この五年ほど最低でも月に1回は練習に使ってきました。そしてなんと、その男坂がこの本の最初の一つ目に紹介されいます。なんという運命と因果でしょうか。やっぱり俺が走っていた坂は、名坂だったんだ。なぜかうれしくなり、ますますこの本にのめりこんでいきました。

 階段ダッシュをすることで、心拍に強い刺激を与えられるのと、登りの筋持久力を鍛えられます。普段は、20分と時間を決めて、延々ダッシュでの上り下りを繰り返します。駿河台男坂は73段あり、傾斜29度。途中踊り場が一つあるものの、上からみると崖のような景観です。ここを20分ダッシュし続けると、調子のいい時で30往復、体が重い時で26往復くらいになります。

 なぜそんな苦行をするのか?

 普通に考えると、好き好んで階段を走っている人間は変態に見えるかもしれません。心理的にも理解しがたいですが、物理的に邪魔くさいはずです。その自覚はあるので、通行している人の妨げにならないよう配慮は怠らないようにしているつもりです。なぜ階段かと問われると、やっているスポーツが変態じみており、変態じみたトレーニングをしないと成果を出せない、としかいいようがありません。

 いずれにせよ、東京の地形を自らの足を運んで体感し、階段にまつわる地理と歴史を学び、さらにその階段をダッシュすることで自分を鍛える。まさに自分らしく、楽しく、学びの多い趣味であると、この企みを描いたとき、自分の中ですべてのボタンがカチッとはまった気がしました。

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スロープの坂ではなく、なぜ階段なのか

 ところで、なぜ普通の坂道ではなく、階段なのでしょうか?階段名も「○○坂」というのが多いので、区別するためにここでは階段ではない坂をスロープ坂と呼ぶことにします。確かに東京は、タモリさんの趣味を出すまでもなく、南部坂や三分坂、団子坂などスロープ坂の名所がたくさんあり、歴史的な勾配は東京らしい風情に満ちています。そして、トレイルランニング的にもスロープ坂トレーニングはポピュラーな練習メニューの一つであり、効果も高いとされています。

 ではなぜ私は階段にこだわるのか。スロープ坂と階段の違い。それは人以外が通れるかどうかです。スロープは、動力や機械をつかっても移動できます。ただし、階段は人が自分の足を使うことでしか移動できません。人しか通れないことで、心理的・物理的安全性が担保されます。

 また、階段があるということは、階段を作らなければならないほど、その傾斜が急であることを意味します。

 そして、階段をつくってまでもその高低差を最短距離でつなぎたいという人間の意志を感じます。階段を「高低差をつなぐ橋」と考えると、その存在そのものがとても愛おしく感じます。

 人しか通れない。そして人間の意志が込められている。それが私が階段を愛する理由であり、トレーニングの主戦場にしている理由になります。
※スロープと階段が並走している坂もあります。

すでに70階段を制覇

 『東京の階段』掲載の階段のうち、すでに70階段をダッシュできました。今年の1月から主に週末の時間をあててきましたが、年内に全部の階段に到達するのが目標です。

 実際ひとつひとつ走ってみると、東京の階段の奥深さと面白さにはまってしまいます。そのネーミングから歴史、形状まで千差万別で、さらには地域住民との関係性など、個性が光るものばかりです。

 そして、その階段たちをめぐることで、東京の地形を3Dで感じてみたり、地政学的・都市開発的な視点で新たな発見がありました。25年以上住んでいても決して見えなかった東京という街の別の側面を垣間見ることができたと思っています。

 次回以降、私が走った中で特筆すべき階段たちを紹介していきます。なかなか更新が追い付いていないですが、自分の思い出の記録のためにも記していこうと思っています。

※寺社仏閣や狭い住居エリアなど走るべきではない階段でのダッシュは控えています。

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