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わたしが出町座に行った日

上司からのパワハラが原因で休職している期間のことだった。
私が初めて出町座を訪れたのは。

以前から気にはなっていたものの、少しだけ家から行きづらいというだけの理由で遠ざけていた、そんな存在が出町座だった。

時間は無限にある。

皮肉なことに、休職によって行かない理由は失くなったのだった。
好きなものに使える体力と時間があったのは、幸いだったというほかない。

平日真っ昼間に出町柳駅まで電車を乗り継ぎ、出町桝形商店街を目指す。
多少の背徳感もありつつ。

商店街を進んでほどなく現れた出町座。
想像以上にお洒落な佇まいにたじろぎつつ、扉を開いた。

勝手が分からず、上映時間の30分ほど前に着くと、観たい映画の座席は既に満席。
補助席ならば空いているとのことだった。

少し逡巡した後、初めて訪れた映画館での映画体験が補助席なのも味があっていいかなと思い、チケットを購入。
何より映画が観たかった。

その日観ることにした映画は、『バーフバリ 王の凱旋』。
シネコンで公開している時期を逃したために、出町座で観ることを決めた。

ちなみに、このシネコンで逃しちゃったけどやっぱり観たい映画を出町座で観るというのは、足しげく通うことになった今でも続くスタイルとなっている。
加えて、これは後々出町座でやりそうだな、というのを予測してあえて観ないというのも、楽しみ方のひとつになっている。
外れたときは悲惨だが。

併設された本屋さんの本棚に見とれているとあっという間に入場時間になり、地下の劇場へ向かう。
補助席は簡易な丸イスだったと思う。
これで3時間強か、という懸念を抱くも杞憂に終わる。
なぜなら、『バーフバリ 王の凱旋』がとてつもなく面白くて、そんなことを気にする暇がなかったからだ。

古代王国の王位継承を全2部作で描く一大叙事詩の結末となる後編。
大迫力のアクションシーン、悲劇を経てカタルシスたっぷりに迎える大団円、映画の楽しみ全てを凝縮した、映画館で観ることができて良かったと心から思える映画だった。

そして、補助席からの光景は、子どもの頃に父や兄と立ち見でドラえもんを観た映画原体験を私に思い起こさせた。

映画、楽しい。

帰り道、バーフバリを観て尋常じゃないテンションになった私は、鴨川沿いを歩いて出町柳駅とは別の駅に向かう。
バーフバリ!と叫びたい気持ちを押し殺して、余韻を噛み締める。

出町座とこの映画のおかげで仕事に復帰した、となれば話は綺麗なのだが、その後も休職は続いたし、復帰もすんなりとはいかなかった。

でも、それでも、心の拠り所になったことは間違いない。
それ以降も行きづらいことに変わりはないが、そんな些細なことを全く気にすることなく通っていることがその証明。

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