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半年ぶりに開いた校舎

  アメリカの私が暮らす地域にコロナ禍が押し寄せ、急に学校閉鎖が決まったのが3月中旬。以来、わが学区の公立高校は、一度も建物を開放することはない。許可なく建物内部に足を踏み入れることを、固く禁じているのだ。8月終わりから始まった新年度も完全オンライン授業で、生徒も先生も学校に通うことは一切ない。しかし、9月終わりと10月はじめの2週連続、SAT試験会場として、学区内のいくつかの公立高校がようやく、受験生に門戸を開いた。学校に生徒が戻ってきたのだ。これは本当に画期的なことで、とても感慨深かった。


 アメリカは日本と違って新型コロナウイルスの蔓延が桁違いに多い。信じがたい死亡者数。すべての人ではないが、アメリカ在住者の大半は、コロナに怯え、家にこもる生活が板についてしまった。それだけに、シンボル的存在だった学校が、急に賑わいを見せたことに、通りかかった地元の人も驚き、興味津々に、「学校は本当に開いているのか。」「何のイベントで開けているのか。」「教室には何人くらい生徒が座って、試験をやっているのか。」と、試験監督補助をしていた私に聞いてきた。
 

 例年だと受験生は、大学出願にあたり、アメリカの多くの大学では英語と数学のSATスコア提出は必須で、さらに大学によってはSATエッセイや科目試験も課していた。SAT試験はほぼ毎月、地域の高校を会場に行われ、受験生は2~3回受けて、スコアアップを図り、秋から冬にかけて大学に出願するのが一般的だった。が、今年はコロナ禍の波が押し寄せ、3月以降、私が暮らす地域ではSAT試験会場がキャンセル続きだったのだ。受験生にとって、どんなに一生懸命勉強しても、実力を証明する機会を得られないことが、どんなにつらく、ストレスのたまることか。「次回のSAT試験は実施します。」と、あれほど言っていた高校会場も、試験三日前になって突然、「やはり会場は開けられません。キャンセルします。」とお知らせを流して来るケースもあった。「これじゃ、やる、やる詐欺ではないか!」と、高校生は怒っている。
 

 受験地を変えたら、会場が閉まらずに済み、SAT受験ができるかもと、コロナが蔓延していない田舎の州のSAT試験会場を予約し、車で5時間かけて受験しに行く計画を立てていた受験生もいる。が、結果として、田舎の州の会場をも飲み込むコロナ蔓延。その受験生は、またもやSAT受験の機会を逃してしまった。事前に、試験会場からキャンセルのお知らせが来ず、万全を期して受験会場に行ったら、会場が閉まっていたケースもある。それくらい大荒れの受験なのである。
 

 急激なコロナ感染者数の増加や、地元教育委員会の方針、試験会場である学区や高校の受け入れ態勢、などさまざまなことが絡んで、結果的にSAT会場が閉まって受験難民が出ているのが現実だ。アメリカのほとんどの大学は、出願条件を変え、こうした事情を配慮し、SAT/ACT統一試験をオプショナルとするとしている。しかし高校側では、最後まであきらめず、なるべく統一試験を受け、そのスコアを大学に送るべきだとする意見が多い。大学側に少しでも合否の判断材料を多く提供すべきだとか、学業の客観的なパフォーマンスを示すものさしとして、統一試験も有効な方法だとか、合格後の奨学金申請の時に有利に働くとか、いろいろ理由はある。
 

 SAT統一試験とは言え、学校が生徒に開放されたことは、教育関係者にとっても、そして地域住民にとっても明るい話題である。生徒の往来があってコミュニティも活気づく。生徒も久しぶりに踏み入れた教室に感慨深い様子だった。忘れていたこの空気、机と椅子、先生や友達とのたわいもない会話などの記憶がよみがえり、勢いづいているのが感じられた。学校側も、学校再開に向けて、いい訓練になるのではないか。早く学校建物を開けて、対面式の授業が再開されることを祈る。


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アメリカの公立高校で教師をしていました。アメリカ東海岸在住19年。家族は日本人の夫と娘(12年生)の3人。子育てと仕事をとおして、アメリカの教育や、海外で暮らす子どものアイデンティティ形成について考えます。
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