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春が遅いときはね #シロクマ文芸部

春の夢をみているの お願いまだこのままで

大変なことになった。
春がいない。
季節を司る王は慌てている。
お寝坊さんなのは分かっていたけど隠れてしまうなんて、
今までになかったことだ。

人間界では子供たちが春を探している。
「つくし、ないねぇ」
「たんぽぽさいてない・・」

原っぱにも土手にも春の気配はない。
風が冷たく、子供たちはまだもこもことした
上着を着こんでいる。

春は心地よく満ち足りた季節。
新しいことを始めたり巣立ったり、
人間にとっても節目のとき。

どうしたものか。
冬のままにはしておけないが、
夏を呼ぶにはいくら何でも早すぎる。
とりあえず梅雨に来てもらってお茶を濁しておいた。

ん?少し騒々しいな??
王のもとへぞろぞろと客人がやってきたのだ。
平家の皆さんと藤原一門だ。
「春がなくなるとはまことか?」
「困るでおじゃる、困るでおじゃる。我世の春を謳歌出来ぬでおじゃる」
麻呂まゆをひそめやいのやいのと始まった。
恨めしそうにこちらを見ている十二単もいる。
自分のエッセイが台無しになるとでも言いたげだ。

早々に鬱陶しいクレームが来てしまった。
まあまあ、春はなくなりませんよ、
となんとかその場をおさめ、お引き取りいただく。
しかし、
春がなかったら、若者たちの
「青春」もあやうくなる。
それはさすがにやばい!!

春や春や、出てきておくれ。
お前がいないと困るのだ。

王の声が届いたのか。
子供たちの呼び声に気づいたか。
春の恥ずかしそうな声が聞こえた。

わ、わ、ね、寝過ごしてしまいました。ゴメンなさい。
春一番が早すぎるって
北風さんに意地悪されて拗ねてたの。
そしたらそのまま夢の中から出て来られなく
なっちゃった。

「春眠暁を覚えず」も辞書から消えることは
なさそうだ。
雨がやみ、
風向きがかわった。
程なく
柔らかな風がそこらじゅうを
包むだろう。
王はほっと胸をなでおろした。

#シロクマ文芸部
お題「春の夢」



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