うのせけんいち情報

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うのせけんいちといえば、週刊少年サンデーの伝説として知られる『爆発ウギャー!!』のようなハイテンションギャグが有名ですが、今回それと同時期に発表された『頭の先までピーコピコ!!』を読んで深く感銘を受けました。(ちなみに「頭の先までピーコピコ」という言葉は昭和に活躍した漫才コンビ若井はんじ・けんじのギャグで、60年代に流行っていたギャグだそうです。この本が刊行されたのは1991年なので、死語をタイトルにつけたイメージでしょうか。)

ネット上に情報がなくて分からないのですが、『ウノケンの頭の先までピーコピコ!!』は当時うのせけんいちが成年誌等で発表していた4コマをかき集めた本だと思われます。
表紙をめくると、まずこれらの4コマが出てきます。

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ファンシーな絵柄の動物が有名人のうわさ話をして立ち去る連作です。谷岡ヤスジを彷彿とさせる画面の白さと、ウノケンらしからぬ疲れた雰囲気が漂っています。うのせけんいちといえば代表作『爆発ウギャー!!』のタイトル通り、ハイテンションギャグの印象が強いので、脱力ギャグの路線も開拓していたのかと興奮しました。他の著作も読みましたが脱力を開拓しているのはこの本だけのようです。ただごとではないと覚悟してページをめくるとさらに力は抜けていきます。

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先日、縁あって出させていただいた「まんが未知」の取材で「活動できるうちにうんこを全パターンやっておきたい」みたいな発言をしたのですが、パネラーが全員うんこの朝生は思いつかなかったので悔しくなりました。仮に思いつけたとして、スタジオの一部すら描かない人はいないのではないでしょうか。引き算こそ面白いという気概を感じます。ちなみに栗本慎一郎は経済学者です。うんこの話で思い出すと、文芸誌『すばる』2月号の乗代雄介の『こんなことしていいのか日記』に乗代さんが漫画家のたかたけしと僕と3人で久しぶりに会ったときの話が書かれているのですが、

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たかさんも似たようなことを言っていました。ギャグを描いている人の考えていることは同じなのかもしれません。ただ、新しい表現を発明しても自分のような物好きから崇拝されるだけで暮らしは一向に良くならないのが切ないです。

さらにページをめくります。

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じょーちゃんという売れる気ゼロの新キャラが出てきました。タイトルも投げやりです。じょーちゃんに1も6もないはずです。吉田戦車の登場以降、ギャグ漫画はとがった発想でしのぎを削るギラギラとした環境になったと言われているので、当時こうした気の抜けたギャグを発表するのはけっこう勇気のいる(またはやりがいのある)行為だったと思います。ギャグ漫画は面白くしようと手を加えるほど笑えなくなってしまう変な表現なのでうのせけんいちのローファイな賭けは共感できます。ちなみにこの連作が単なる下ネタではないと感じる理由は、じょーちゃんが"誰にも迷惑をかけない、かつ世界との繋がりがスイカしかない人"だからです。さらにページをめくっていくと、

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ふたたびファンシーな動物がきました。注目したいのはタイトルです。「〇〇情報」という無機質なタイトルをつけることで、読み手にいかなる感情も発生させまいとしています。じょーちゃんがあくまで願望を語るだけなのも、動物がうわさ話をして立ち去るだけなのも、存在として世界から無視されているほうが面白いというウノケンの矜持を感じます。このテイストのうのせけんいち作品をもっと読みたかった。これ以上紹介すると漫画村になってしまうのでこの辺で終わります。

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おすすめです。


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