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【プリンセス・プリンシパル Crown Handler第3章感想】プリンセスとかいうヤベー奴【ネタバレあり】

4/7(金)鑑賞。
現在、本編冒頭10分の映像公開中。以下、冒頭部分のあらすじ

あらすじ

王位継承順位第一位のエドワードが暗殺され、悲しみに暮れるアルビオン王国。しかしそれは同時に王位継承争いという新たな権力闘争の始まりを告げる鐘の合図でもあった。新たに継承順位第二位から第一位へと繰り上がった幼き王女メアリー、そして新大陸を平定した第二位のアーカム公リチャード。各々の貴族が自らの行く末をどちらに賭けるか選択を迫られる中、第三位であるプリンセスことシャーロットもまた、エドワード殺害の首謀者であるリチャードから決断を迫られていた。すなわち、今までと同様に壁の中で安寧に身を委ねるか、それとも自分と共に古い因習を打破し変革の道を歩むか。

プリンセスはチーム白鳩の仲間に告げる。「私は身分や貧困によって生まれる差別の壁、そして家族や友人を引き裂いてしまったロンドンの壁、それらの壁を無くしたい」と。しかし同時に目的の為に手段を選ばないリチャードのやり方には賛同できないと、リチャードとは袂を分かつこともまた宣言する。

とはいえ現実的にプリンセスが女王の座へ付くためには、何らかの形で王位継承順位第1位のメアリー、そして第2位のリチャードを蹴落とさなければならない。リチャードの真意を探る為、そして王宮内の情勢を見極めるためにアンジェとドロシーはメイドとして王宮に潜入するのだった。

次期女王としての責務に対し、日に日に精神を擦り減らしていくメアリー。
あらゆる手段を用いて虎視眈々と王位の座を伺うリチャード。
「王国の安寧」の名のもとに王国の実質的な支配を目論むノルマンディー公。
陰謀渦巻く王位継承争いの行方や如何に。そして世界に翻弄されるプリンセスとチーム白鳩の選択や如何にー




-以下、ネタバレを含む感想につき注意-

第3章の軸になると思いきや……




そんな訳で第2章から約1年半ぶりの劇場公開となったプリプリCH第3章。「この後どうなってしまうんだ!?」という引きで第2章が終わったため一日千秋の思いで公開を待ち望んでいた今作だったが、待った甲斐はある、あるいはその期待を遥かに上回る出来に非常に満足しているというのが正直な感想だ。

アクションシーンが目立った第2章とはうって変わって宮中を舞台にした陰謀渦巻く政治劇が中心となった今作では、そうした動きのあるシーンこそ少ないものの代わりに緻密な心理戦が繰り広げられ、常に静かな緊張感を保ったまま物語が進行していく。そして何よりもラスト10分からの急転直下の展開。

初回鑑賞終了後軽い虚脱感に襲われた後、すぐに「これだよ、これが見たかったんだよ!」という笑みが思わずこぼれずにはいられなかった。顧客がプリプリという作品に求めるものに対して、製作側が100%以上のものを返してくれる。この信頼と安心感があるからこそ、続きをいつまででも待っていられるんだろうなあと改めて実感する。

劇中BGMについて

第3章のストーリーについて触れる前に、まずは音楽について言及したい。今作の主人公ともヒロインとも言うべき、王位継承順位第1位のメアリー。王室内の王位継承争いが描かれる本作において、彼女の登場シーンも必然的に多くなるわけだが、そこで流れる「メアリーのテーマ」とも言うべきBGMにおいて、G.ホルスト作曲『惑星』の「木星」中間部をモチーフにしたと思われる旋律が用いられている。

2章でも流れたこのメアリーのテーマ曲だが、イギリスの愛国歌にもなっているただでさえ哀愁を誘うこのメロディーが様々なアレンジによってメアリーの登場する各所で流れるのだから、否が応でも一々感情を揺さぶられずにはいられない。全体として一つの楽曲となっているものの部分部分を切り取っているのだと思うが、数えた限りではハープ、ハープシコード、バイオリンなど楽器やトーン、リズムの違う6~7種類のバリエーションがあったように思う。早く全編通してこの曲を聴きたいので、劇場版サントラの販売が待ち遠しい。

個人的に一番好きな所はメアリーの息抜きの帰り道での、プリンセスとメアリーの会話の場面。プリンセスが幼少期の思い出を語る際には、プリプリのメインテーマと言うべき『shadows and fog』(本編1話やCH1章の冒頭ナレーションで流れるやつ)のアレンジが流れるのに対し、そこからメアリーが「私は女王になりたくない」と自らの想いを告白する際にはスッとメアリーのテーマに切り替わる。ここの受け渡しが本当に素晴らしい。また、亡命作戦決行時に『espionage trap』とメアリーのテーマが混じり合う箇所もお気に入りだ。

第3章の製作側のテーマの一つとしていかに観客をメアリーに感情移入させるかというのがあったのではないかと勝手に思っているが、その意味で今作では特にこのBGMの果たしている役割は非常に大きいように思う。

会話劇の楽しみ方

ここからは本編の内容に触れていこう。繰り返しになるが第3章は王室内での政治劇・会話劇がメインとなる為、第2章の劇場でのバトルやロンディニウム号のシーンの様な際立って目を引く場面というのはそれほど多くない。しかし、だからこそ逆に会話や演出の一つ一つに集中することができる。特にこの第3章から王国・共和国・新大陸それぞれの陣営の動きが本格化し物語がかなり動いたので、各陣営の思惑を考えながら観ることが大事だ。

どこに視点を置くか

アンジェの言うように「私情を挟む」というスパイとして犯してはならない行為を主にプリンセスを中心としてチーム白鳩が積み重ねた結果、取り返しのつかない失敗をやらかしてしまうというのが第3章の物語である。話の大筋としては単純な分、チーム白鳩及びメアリーを応援する主人公サイドの視点から観るとハラハラ感満載のサスペンスストーリーを楽しめるわけだが、各陣営の思惑を念頭に別の視点から彼女たちの行動を見ていくと、全く違った見え方が現れてくる。ある意味これこそが第3章の一番のキモと言って良いだろう。プリンセス達の取った私情を挟んだ行動が具体的にどういう点でマズかったのかという考察も含めて、ノルマンディー公とアーカム公リチャード双方の目線から彼女たちの言動について考えていきたい。

ノルマンディー公 -「王国の安寧」とは何か?-

まずはノルマンディー公の視点からストーリーを振り返ってみよう。最初の登場シーンはプリンセスが勉強中のメアリーの元へ本を届けに訪れた際、ノルマンディー公もまたメアリーの教育方針の変更を告げに訪れるシーンだ。ここでノルマンディー公はプリンセスに対し「メアリーは次期女王となる身であり、甘やかしては彼女の為にならない。シャーロットも今後は接し方に気を付けるように」と忠告する。

額面通りに取れば「次期女王としての責務を果たす立場としての自覚を促すべき」と捉えられるのだが、エドワード殺害直後の王位継承争いが混沌としている現状を鑑みると、この忠告にはもう一つ別の意味が込められていると考えてよいだろう。すなわち「決して幼いメアリーに甘言を弄して操ろうとするなよ?」というメッセージだ。

劇中でリチャードがプリンセスに語るように、10年前の革命はアルビオン王国の貴族にとって強烈なトラウマを残した。そしてそれはノルマンディー公も例外ではない。未だノルマンディー公の考える「国家の安寧」が何かはストーリー上で明らかになっていないが、このような過去を踏まえるとそれは「国体の維持(死守)」ではないかと思う。

元祖ラスボスの面目躍如

ちせと堀川公が「どこの国もお家騒動は変わらないものだ」と話す場面があるが、史実でもこうした王位継承争いの例は枚挙に暇がない。オスマン帝国ではこのような継承争いを避ける為、新たなスルタンが即位するとその兄弟を皆殺しにする習慣があった程だ。リチャードを新大陸送りにしたりTV版4話でプリンセスをモスクワに送ろうとしたりと、ノルマンディー公の言動の端々からはこのオスマン帝国の兄弟殺しに近い思想を感じる。それが読み取れる箇所を他にもいくつか挙げてみよう。

・TV版5話 車中での会話
ここでノルマンディー公はプリンセスをあの女と呼んでいる。この「あの女」呼ばわりに関しては解釈が分かれる部分で、ノルマンディー公がプリンセスの本当の正体=入れ替わりに気付いているからという意見もあるがこのセリフ自体が「誰かが担ぎ出さないとも限らん」というセリフと結びついていることから、ノルマンディー公が最も危惧するのは誰かがプリンセスを担ぎ出すことそれ自体であり、個人的には上記の通り国体維持の為には皇太子以外の王族は全て潜在的な敵であるというのが「あの女」呼びに込められた真意ではないかと思う。

・CH3章 狩りの場面
ここでもリチャードに対してノルマンディー公は「『女王陛下に免じて』お前を新大陸にやった」と言っている。つまり新大陸送り自体がノルマンディー公の中では温情であり、そこからもノルマンディー公の皇太子以外の王族に対する考え方が伺えるだろう。

さて、そうしたノルマンディー公の「国家の安寧」観の仮定を念頭に置きつつ、ノルマンディー公の立場に立ってプリンセスのメアリーに対する言動が彼の目からどう映るか見直してみよう。





どうみても奸臣の讒言です本当にありがとうございました^^



……いやほんとプリンセス何やってんの(笑)。主人公補正を取り払った上でこの王位継承争いの渦中という状況下でのプリンセスのメアリーに対する言動を傍から見ると、幼い王位継承順位第1位を甘言で誑かして実権を握ろうと目論む野心家の第3位の図にしか見えない。逆に言えばそれだけ自らの行為が周りにどう映るか目に入らない程にメアリーに肩入れしていたという事の裏返しでもあるが。

勿論そうまでプリンセスが肩入れする背景には過去の自らの境遇という要素があるわけだが、そうしてメアリーに自分の過去を重ね、彼女の為に奔走すればするほどノルマンディー公の警戒度合いが高まるというのは何とも皮肉な話である。きっとメアリーの勉強中にばったり出会った場面やメアリーの勉強スケジュール見直しを直訴しに来た際は、ノルマンディー公の頭の中でさぞ警戒アラートがけたたましく鳴り響いていたことだろう。


リチャード視点 −同志候補から競合相手へ−

次にリチャード視点からプリンセスの行動を見ていく。夜会のテラスでの語らいにおける「君の目は僕と同じく王室を見ていない」という発言からも分かる通り、少なくともここまではリチャードはプリンセスに対して「世界を修正する自らの目的に賛同しうる存在」として捉えていた。

風向きが変わったのはメアリーからプリンセスとの息抜きのお茶会の話を聞かされた時だ。リチャードがメアリーの部屋を立ち去った後に例の壺のシーンへと繋がる訳だが、ここで彼は「穏便に済ませようと思っていたのに」と呟いている。直前シーンでのメアリーに向けた「僕は必要無かったかな」というセリフとあわせて考えると、ここでいう「穏便」とは次期女王教育で憔悴するメアリーを甘やかしつつ将来的に傀儡化して実権を握ることだったと思われる。目的こそ違えどその行為自体はまさにプリンセスが先んじて無自覚に行ったことだ。

しかしその計画はプリンセスに先を越されたことによって断念を余儀なくされる。リチャードにとって誤算だったのは、結果としてプリンセスが自分かノルマンディー公かではなく第三極を選択したことになったということだろう。リチャードがメアリーを先に取り込めていれば、後はノルマンディー公さえ葬れば自分よりも継承順位の低いプリンセスなど放っておいても良い存在であった。ところがプリンセスが先にメアリーに唾を付けた為に、リチャードが王国の実権を握るには裏方ではなく自力で玉座に付くという選択肢しかなくなってしまった。そらリチャードも壺の一つや二つ壊したくもなりますわ(そもそもエドワード暗殺とケイバーライト爆弾で既に王族皆殺しの予定だったのに)。

その後のメアリー襲撃に関してプリンセスはあくまでリチャードorノルマンディー公という選択肢の中でのリチャードからの脅しと捉えたが、リチャードにとってはそれ以上に自分が王位に就くためにそうせざるを得なかったというのが実態といえる。ある意味「穏便に済ませようと思っていたのに」とは彼の偽らざる本音だったのだ。

王位継承RTAなら余裕の再走案件と言わざるを得ない

結局のところプリンセスがメアリーを想って行動すればするほど、リチャードの目には自分やノルマンディー公に付くどころか第三極というちゃぶ台返しで返答してきやがった野心マンマンのヤベー奴と映るのである(なお、全て天然の行動な模様)。

Crown Handler

さて、ここまでノルマンディー公、アーカム公リチャードの両者の視点からプリンセスの取った行動を考察してきた。両者の視点を整理した上で改めてチーム白鳩(プリンセス)の行動を見返してみると、あれだけハラハラして見ていたサスペンスドラマがあら不思議、「なんだこのプリンセスは・・・たまげたなあ」という感想に早変わり。正直わざとプリンセスは地雷原の上でタップダンスでも踊っているのかと突っ込みたくなる。

地雷原無自覚タップダンスウーマン


また各陣営の王位継承争いに対するスタンスが明らかになったことで、今までおぼろげだったCrown Handlerというタイトルの意味の一端がようやく見えてきたように思う。今一度エドワード死後の彼らのアクションについて振り返ってみよう。

・ノルマンディー公→メアリーを次期女王として教育することによる国体の維持
・リチャード→メアリーを傀儡化した上での実権掌握
・プリンセス→メアリーのストレスを取り除いてやりたい(客観的には結果としてリチャードと同じ)

いかがだろうか。公開前の展開予想としてエドワードの死後メアリー、リチャード、そしてプリンセスがどのように王位を争っていくのかというのが大方の予想だったのではないかと思うが(私もその一人である)、蓋を開けてみると物語はメアリーを中心した周囲の政争という形で推移していった。

次期女王たるメアリーをどの陣営が先んじて取り込み主導権を握るか。つまりメアリー(Crown)を巡る各陣営(Handler)の争奪戦という構図こそが王位継承争いの真の姿だったという訳である。

王位継承争いとかいう魔性のおでこを巡る争奪戦

その後リチャードがメアリーを襲撃し、最終的にプリンセスがメアリーを亡命させようとしたことでこの構図は瓦解する。ノルマンディー公の最後のセリフからして恐らくメアリーは王位継承争いから脱落することになるのだろう。プリンセスを傀儡というこれ以上ない形で手中に収めた以上、必ずしもまだ幼く精神的に不安定なメアリーにこだわる必要は無いからだ。

ある意味ノルマンディー公は一貫してCrown Handlerという立場であり、そのことはリチャードにも「お婆様を操ろうとする狐」と評されている。様々な意味を含ませていると思われるCrown Handlerという言葉の意味の一つとして、上記の政争の構図の他にノルマンディー公単体を指す意味合いも含まれているのは間違いないだろう。

いずれにせよ今後Crownを巡る争いはメアリーを介した間接的な主導権争いから、より直接的な争いへとシフトしていくことになると思われる。ノルマンディー公の完勝という形で第一ラウンドを終えた本作が今後どのように展開していくのか、第二ラウンドのゴングを期待しつつ本稿の結びとしたい。なお、第3章の考察と今後の展開予想についてはまた近々別途記事を上げようと思うので良かったらそちらも是非ご覧下さい。

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