ワーカーホリック 心酔する愚者2章-13
「ここは築地から直接お魚を仕入れているから、本当にお寿司が美味しいんだ」
「ほんと…すっごく美味しい」
正直、お寿司は会食で食べまくっているから何が良いか私は分からなかったけど、反社の事務所徹夜で潰した後のお寿司を豊洲市場で食べたときは美味しかったな…と思っていたところ、カトウアイはお箸を置いて話しかけてきた。
「サキコちゃんって…今日の朝の打ち合わせのときにいたよね。普通の事務員って言っていたけど、本当はどんな仕事をしているの?」
カトウアイは真っ直ぐ私をみる。
「私はただの事務員だよ。ただ、今日は同席しただけで普段は会社の事務所にいることの方が多いよ。どうして?」
「いや、もし今回の件でサキコちゃんが直接対応してくれるなら、頼みたいことがあったんだけど…」
「頼みたいこと?それってなぁに?」
「僕に脅迫してきた女の子…できれば大事にしたくなくて、ほら僕、動画配信でも活動しているのだけれと、最近コメントも荒れて、配信できなくなっていて、だから、その、円満に解決してほしいなって思っていたんだ」
煮え切らない話をするのに私は理解できなかったが、ボスから指示が入った。
「…わたしが、ここで話を聞いて直接何かできる訳じゃないけれど、もし何か要望があれば担当者に話を繋げることができるよ。依頼を受けた時点でお金はかかっちゃうけと」
「もちろん、構わないよ!必ず依頼するから、担当者に話してほしい…その実はね、もし彼女と交渉してもらうときに返して欲しいものかあるんだ」
そういって、カトウアイは私の右手を掴んで、こちらを見つめてきた。表情は少し焦っているようだったが、お茶を飲んでいるのに手の温度はすごく冷たかった。
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私はカトウアイとの食事がおわり、呼んでくれたタクシーでSとの合流地点まで向かっていた。
ネット予約のタクシーだから追跡されることも予想して、お店から15分ぐらいの位置で降りることにした。
カトウアイから、追加の依頼を受けた瞬間、すぐに立ち上がってお手洗いにいき、お店を出るように促された。
そこからタクシーを呼ぶまで15分くらい待っていたが、改めてカトウアイの身長は高いと思った。厚底のブーツを履いているとはいえ190cm近くある身長と少し北欧のような顔立ちは王子様のよう雰囲気を出しているような気がした。
ただ少し焦っていたのか、余裕のない表情をすることもあった。
私や他のお客様と話す表情よりも、この余裕のない表情が本性なのだろうと思ってしまった。
カトウアイはタクシーに乗るまで、私を見送ったあと、すぐ別のタクシーを呼んでいるようだった。
お店に戻るのか、それとも他のお客様のところにいくのか…
この後のことを考えてしまうのも、ホストにハマる醍醐味なのだろう…ちょっとだけ沼に落ちる彼女たちの気持ちが分かるような気がした。
合流地点に止まると、すぐ近くにSたちが乗っている車を発見した。
私はタクシーを降りて、Sたちの車に向かう。
後部座席が開くとボスが笑顔で顔を出していた。
「お疲れ様でした」
私が乗り込むと満面の笑みでSとボス話しかけてきた。
「どうだった?初めてのホストクラブは?」
「つかれた…会食とは違った気疲れで疲れたよ…」
「おつかれさま、先に君を家に送ってから僕たちも帰るからね」
「いや今日は母屋に泊まる。」
「母屋、なぜ?」
「出張からの荷物があるから、明日の朝に母屋で洗濯したいし、それにこれを手に入れたから保管したい」
私は鞄からジップロックを取り出す。
中には髪の毛が入っていた。
「今日の私の目的はこれだからね」
「さすがN、あの寿司屋でのタイミングで取ったのか?」
「まぁね、彼ら結構なナルシストだと思うし特にガチガチにヘアセットしているだろうから採取は難しい思っていたけど、鏡でちょくちょく髪型気にしていたから、手についたタイミングで採取の時をずっと狙っていたよ。」
恐ろしい女だと言って、Sはエンジンをかける。
「あっ運転の前に渡すね。ネカマスマホ」
私はSに借りていた、押し付けられていたスマホを渡した。
「おう。この後のやり取りは俺がするから任せろ」
「頼んだわ」
「それじゃ、俺も母屋に泊まるので、先にボスをお家に送りますね。」
「えっSも泊まるの?」
「おう、俺も疲れたから母屋で泊まるわ。安心しろ、風呂は離れではいるからよ」
「…私だけの場所じゃないから、何も言えないけど、荷物保管したらすぐ寝るからね」
「安心しろ、俺もすぐ寝る」
「僕には君たちがいちゃついているようにしか、聞こえないんだけどね」
ボスはニヤニヤしながら、私の顔をみる。
「僕は職場でヤルような大人じゃないので、安心してください」
「あぁ彼のことね、今日ビニール袋かかえて事務所を歩いていてから、怪しかったから声をかけたよ」
「優しく優しくお願いしたあとですね…ボスには口止めのことは話しているから安心しろ」
「次は彼にはお金渡さなくていいよ。もう違う部署に移動するし、何よりお金を渡したことが分かれば上層部はつけ込んでくるからね。彼には首になりたくなかったら、そのお金を僕に渡すようにいったから、すぐ渡してくれたよ。君に返すね。」
そういって私に300万を渡した。
「じゃさっきの200万はボクサーくんから取り返したお金だったんですね」
「そうだよ。結局は君たちは手付金で一日回ったいたということさ」
「なんだー急にボスがお金だすから、やっぱりお金持ちだと思っていましたよ」
「そんなことはないさ、僕も1日のお金を稼ぐだけで必死だよ」
「…続きは移動しながら話しましょうか。もう2時過ぎていますし、」
「そうだね。運転よろしくね」
よろしくーと言って私はシートベルトを閉めて鞄の中にある300万の上に、ボスからの300万を入れてチャックをしめた。
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