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デッキビルドパック特有のテーマ性の自己否定について あるいはエクソシスター・マルファの成功と失敗

定期的にTwitterで言及しているものの、最近の(MD未実装組の)ビルドパックで改善されてきている部分でもあるので、タイミング的にも最後ということでビルドパックの新規について少し語りたいと思います。以下常体。

ビルドパックのある意味での完全版商法について

デッキビルドパックは「このパックを開封すれば友人などと一緒にデッキが組めて、単体で始められるエントリーセット」というコンセプトで販売されている。

収録されるテーマはかならず3つで確定。収録カード数は45種類で確定しており、おおよそどれも12枚前後のカテゴリカードと、テーマに沿った3枚程度の再録枠で構成される。

再録枠は過去に増殖するG(スピリット・ウォリアーズ)や群雄割拠(こちらもスピリット・ウォリアーズ)など極端なカードが再録されることもあったが、基本的にはテーマに沿った汎用サポートが収録される形だ。

直近で言えば獣戦士サポートとして炎舞-「天キ」(ワイルド・サバイバーズ)や、戦士サポートとして増援(アメイジング・ディフェンダーズ)が収録されるなど、誘発や指名者のような汎用カードを除くと、概ねこのパックだけでデッキの軸が完成すると言って良いつくりになっている。

遊戯王のレギュラーパックは過去テーマの強化が多分に含まれるため新規層がレギュラーパックを買っても使えないカードが多くなってしまう中で、新規参入の間口を広げる良い取り組みとなっている。

ただその分使用者が増えやすいことから強化させて人口をグリップしたいのか、はたまたビルドパックで完結して購買を一度きりで終わらせたくないのかは定かではないが、ビルドパックのデッキの殆どは初出時点では「なんらかの欠陥を抱えている」状態であり、「後日レギュラーパックにて、その欠陥を補填した新規が実装される」というところまでがセットとなっている。

これによってエントリー向けの賞品にしては毎回どのテーマも癖が強いという難点もあるが、それは既存のユーザーにとっては構築のモチベーションを強く刺激されるものであり、これも含めて賞品の魅力の一つである。

しかしながら、「後日レギュラーパックにて、その欠陥を補填した新規が実装される」点について、ともするとテーマ性を破壊しかねない新規を作ることが散見される。これが何故か。そしてどういうアプローチや正解があるのかについて考えたい。

「エクソシスター」というテーマについて

今回は一番特徴的な題材として【エクソシスター】を取り上げたい。OCG・マスターデュエルともに活躍し、知らない人はいないテーマではあるが、「マルファがめちゃくちゃしてくるテーマ」という認識しかない人も多いのではないだろうか。

「マルファ」登場までのエクソシスター

このテーマは登場当初は「行儀よく手札を2枚使って4×2を揃えないと能動的には動けない」「その代わりに、相手依存ではあるが条件を満たしたら強力なエクシーズモンスターを1体で展開できる」という特徴があり、その条件に当たる部分がテーマのフレーバーを支える「墓地からの移動」となっていた。

例えばエリスは「シスターがいると手から出てくる」ことしかできない。

つまりは「強いカードをアドバンテージの損失なく供給する」というリターンを明確に提示し、そのために「相手依存であるはずの墓地利用をどのように誘発させるか」あるいは、「墓地利用しない相手に対してどのように戦うか」をプレイヤーに委ねるデッキとなっていた。

これに対してプレイヤーは工夫を凝らし、例えば先攻1ターン目でミカエリスを出してテーマカードの万能サーチ(パークスを経由することですべてのカードへとアクセスできる)を実現するためにゾロアを採用することや

召喚権で後続確保+4Xを実現できる。ただしテーマ外カード。

単に4×2でエクシーズするのはアドバンテージで得しないので、いっそバリキテリウムを採用して無理やり相手の墓地を動かすというアプローチも見られた。

ざっくりいうとLv.4のギラザウルスみたいなモンスター。

また別軸のアプローチとしては、盤面に供給された「エクソシスター」モンスター自体は相手ターンの妨害にならないため、先攻展開の存在は忘れて同胞の絆をベースとしてメタビートの形に寄せるような型も考案されていた。エクソシスターのステータスが15/15ではないことを除き聖女ステータスなので、教導と白のエクレシアを出すことが可能であり、ドラグマとアルバスの妨害を構えることができる。

Lv4/光/魔法使いが活きていた。

このように欠点はあるが開拓の余地がある状態で世に届けられ、ビルドパックのテーマはユーザーの手によってその時点での完成形が生まれていく。

言ってしまえば「相手依存でしか妨害を構えられない」という重大な欠陥があるゆえに、その弱点の克服を狙い、相手ターンに起動できるとゲームエンド級の効果を発揮する(特にカスピテル/アソフィールは単体で相手のデッキコンセプトを否定しうるパワーを持っている)カード群を活かしたいモチベーションに駆られるとも言える。

「マルファ」の元も子もなさ

そんなエクソシスターにも、継続的な今日は訪れる。まずは「仕事を終えた次のターンからバニラになる」という欠点を解消するためにマニフィカが登場する。

自分が知る限りは、この時点で「エクソシスター」と対面してこのカードを出されて負けたことは一度もないが、テーマコンセプトに沿った順当な強化と言える。

X素材がなくなったミカエリスとかが攻め手になるのは偉い。暇になったカードに未来龍王以外の着地点が生まれた。

ただこれを出されて負けたことがないのはテーマとして最大リターンである「チェーンバディスで2体を変身させても、その後に相手ターンにマニフィカにならないので終わったゲームを終わらせるカード」でしかないからと言える。

その点マルファと同期ではあるが POTE 実装のリタニアは非常に良くできている。バディス+リタニアの組み合わせで、テーマとしての動きをしつつ、最大リターンがきちんと最大リターンを得るようになっている。

惜しむらくは発動条件であり、このカードによって混ぜもの構築のパワーは下がることとなる。

ベースは1:1交換だが、追加効果が非常にテーマとマッチしている。

これを踏まえて最大の問題作と言えるのがマルファとなる。

このカードの問題点は大きく2つあり、一つは能動的な変身が可能なこと、そしてもう一つは「するターン」「メインデッキにもかかる」制約であることが挙げられる。

先述の通り【エクソシスター】は、受動的な欠陥のあるギミックについて、多くのプレイヤーが【エクソシスター】として勝利を求めるために外部ギミックを探し、試行錯誤していくデッキとして進化していた。

そこに対して「1枚初動であらゆる外部ギミックの上位互換」であり、かつ「使ったら最後、ほとんどの外部ギミックが使用不可となる」という重大な制約を課されることとなる。

これによってユーザーが開拓したデッキは過去のものとなり、デザイナーズの劣化でしかない。

幸い「ゾロア」やOCGでの「荒魂」などの召喚権のみで動く数少ないカードに限定しては、まだユーザーの工夫の余地が残されていた。
厳しい制約の中でもベストな開拓を続けられるのは、根本的なテーマの魅力故か。

例えばこれが「EXデッキから」であれば、まだ Lv.4 のギミックが活躍できたかもしれない。例えばこれが「発動後」であれば、外部ギミックである程度動いたのち、エクソシスターのパワーが活きるような形に落ち着いたかもしれない。しかし、現実はいずれも「するターン」であり「メインデッキ」へとかかる制約となっており、殆どのギミックは死に絶えることとなる。

この事実から「能動的な変身を付与しないとこのテーマはやれない」という考えと「能動的な変身を付与するのであれば、相応の制約が課されるべき」という考えが透けてみえるが、この方面で強化をした場合、ほぼすべてのテーマカードは「弱いマルファ」となってしまう。

もちろん、貫通札になるエリスやステラ、1ドローで堅実にアドバンテージを稼ぐソフィア、デッキに入れておくとソフィアをバディスで出せるようになるイレーヌなど、それぞれ必要な役割は存在するが、「エクソシスター」しか特殊召喚できない制約によって、明確に「マルファ」と「それ以外」で優劣がつくだけの結果となった。

もし制約がなければ他の「エクソシスター」モンスターたちも「マルファを引けてないときに外部ギミックとあわせて仕事をする」カードたちとして活躍したかもしれないが、制約がある都合上、特殊召喚を伴うギミックは全て「マルファと一緒に引くと邪魔になる」「使うとカスピテルやパークスでマルファにアクセスする意味がなくなるから得しない」ため、実質的にデッキに組み込むことが難しいカードとなってしまった。

この制約は非常に重く、私自身「深淵の獣」搭載のエクソシスターと100人規模のCSの決勝トーナメントで当たったときですら、相手の手札にいるマルファとドルイドヴルムの制約の噛み合いによってゲームが決まってしまったことがある。試合自体は勝利したものの、この規模で戦う場になってもなお、デザイナーズがユーザーの工夫を阻んでしまっているため、マルファという存在が生み出した罪について、より一層考えるきっかけとなった試合でもある。

マルファはそのカードパワーによって1枚で非環境デッキを環境へと導いた救世主ではあるが、その一方でテーマのアイデンティティとユーザーの開拓の余地を否定してしまうカードとなってしまった。

ビルドパックでは「作ったは良いが弱すぎた」と判断されたカードには、極端な強化が来ることが非常に多いが、マルファはその象徴とも言えるカードとなっている。

他のビルドパックの事例について

一つ一つのテーマについて課題を上げ続けるとキリがないので、コンセプトの否定の方式について、いくつか場合分けして紹介する。

戦術の一本化と「場合に応じた使い分け」の全否定

パワーの差こそあれど、「轟の王 ハール」や「絶火の魔神ゾロア」が該当する。

いずれもメインデッキやエクストラデッキに「状況に応じた回答が用意されており、それをうまく使い分けて戦う」コンセプトであるはずが、それらに対して「これを出しておけばとりあえずOK」というカードを実装して元も子もない状況を作り出した。

「ジェネレイド」は「ヴァラ」など後に課題を克服するタイプの良い新規を提供されたが、マギストスはSゾロアの実装前にXサンドリヨンによって「マギストス以外の特殊召喚」を封じているせいで、やることが本当にゾロアつっぱするだけのデッキになってしまった。その上同時期に勇者が実装されたため、ドラコバックで0妨害になってしまうあたり実装時期も悪かった。

コンセプトに対しての白旗

先述の「マルファ」はもちろん、「プランキッズ・ミュー」がこれに該当する。

「2~3枚初動で事故率は高いが、FやLに成功した場合にリターンが大きく大型モンスターも積極的に出せる」デッキが、どれを引いても最終的には同じ結果をも足らず大量の1枚初動のうちのどれか(3色×3+ロック2+ハウス2+テラフォなど)でしかなくなり、バトラー連打マシーンとなった。

まだ制約が緩く工夫の余地があったこと(勇者プランキッズやプランキッズスプライトなど)、《融合》を使う型が開拓されたことなど、ユーザー側の努力によっていろんなカードが活きる良いデッキであるまま環境を退くことになったのは非常に良い結果ではあった。コンセプトの追加としては綺麗ではないため成功したとは言いづらいが、ミューのカードパワーのお陰で多くの人が工夫をしたという点で悪くも言いづらい具合に収まっている。

やりたいことの押しつけ

これまでとは真逆の事例であり「アダマシア」や「エルドリッチ」が通った道。「勇者トークン」関連の新規も含まれるが、事情が事情であるためやむを得ない部分もある

トップ操作デッキとして生まれたがS/L混合の岩石族連合としてユーザーが開拓してしまったアダマシアや、逆にアンデット連合に組み込めるような魔法・罠のデザインにしたが結果的に永続デッキとなってしまったエルドリッチに対しては、後からテーマ性を押し付けるようなカードが実装されている。

超融合で吸われるだけになり永続とは喧嘩する「黄金狂エルドリッチ」や、開き直って岩石には対応したが縛りすぎて展開と喧嘩して見向きもされなくなった「魔救の奇縁」、ユーザーのテーマ性の破壊への反発が露骨に見られる「禁呪アラマティア」などは制作側のエゴが反映された結果見向きもされないカードに落ち着いてしまっている。

後述するが「本来想定したケース以外で使われている」ことに対しては P.U.N.K. のように純構築の魅力を底上げることで解決できる問題ではあるが、これらの失敗ケースでは「縛る」ほうでテーマを使わせようとした結果失敗している。

このケースはカードパワーが低いため単純に使われず終わったが、カードパワーが高い場合も待っている結末がマルファであるため、成功事例に転換しづらい点もネックとなる。

うまくいった事例はないのか

却って、うまくいった事例を探したとき、明確な成功事例はいくつかあると考えている。

P.U.N.K.

例えば【P.U.N.K.】からディア・ノートなどは非常に有効な新規と言える。ディア・ノート登場以前は「ハリファイバーや3軸に組み込む出張パーツ」としてのみ期待されていたP.U.N.K.であったが、ディア・ノートによってまずテーマ内で相手ターンアメイジング・ドラゴンが無理なく可能な展開力を手に入れ、その後にドラゴン・ドライブの実装によって、 P.U.N.K. 単体で十分な出力を手に入れた。

OCGでは【P.U.N.K.セリオンズ】や【60GS】、ハリファイバーとカトリンと共存したポテンシャルでいうと最強の時代の【アダマシア(POTE)】などで引き続き出張セットとして使われたが、少なくともテーマとして十分動くような作りとなっていた。

友人が OCG でフリー用に【P.U.N.K.】を組んでいたが、毎回適切な強化によって強くなる様は、対面していてもデザイナーズの理解度の高さを強く実感できていた。

斬機

単体性能によってテーマを塗り替えてしまった部分はあるが、サーキュラーも十分に成功した事例と言ってもよいだろう。

サーキュラー一枚展開のパワーが十分に高いことから【サーキュラー】という側面は拭えないものの、テーマとしての一撃必殺である「超階乗ラプラシアン」を安定して実現する1枚に加え、現実はジャマーアクセスで解決するケースも多いが、「ファイナルシグマでワンキルするのが勝ち筋」という明確なメッセージ性も保っている。

制約もあくまでも【サイバース】らしさを残せる範囲に留まっており、サイバースに求められるサイバース連合軍の1枚としてのポテンシャルも提示しながら、斬機としての強力な動きが尊重されている。

強いて言うならば、おそらくサイバース以外のデッキが「4×2でダラン経由でサーキュラーにアクセスできる」ことが拡大解釈され、「方程式+ナブラ混ぜると4×2がサイバース縛りなく4×3になってなんでもできる」といった用途での利用は想定外であり、デザイナーズの時点ではサイバース以外の出張パーツは想定していなかったと考えられる。

2023/07/15 追記
「サーキュラー自体もマルファに片足を突っ込んでしまっているのでは?(制限カード指定など)」という指摘がありましたが、「誘発ケアや妨害という観点で引き続きダイア(ROTD)が動きの要を担っている」ことや、「サーキュラー1枚のパワー増加はサーキュラー後に実装されたリンク・デコーダーやディセーブルムのような『サイバースの横のつながり』側が予期せぬ教科となってしまった」ことから、運営上の設計ミスというよりは、ユーザー側が予想を超えた先述を開拓したという点で、勇者の初期カードプールのような結果に近い。

イビルツイン

また、Evil★Twin’s トラブル・サニーのような、革命こそ起こさないが順当な強化を施す成功事例もある。

ビルドパックにつきものの「ハズレ枠」がエースモンスターに割り当てられてしまったことから、長らくサイバースに寄せた「アクセスコード・トーカー」あるいは悪魔族縛りの中で活躍できる「破械雙王神ライゴウ」などフィニッシャーを外部に依存していたが、テーマ内でそれらが完結することとなった。

また、先攻展開でEXの消費が激しい割にできることが大したことではないという問題も解消でき、最終盤面に着地するエースモンスターとして順当な強化をもらったと言える。

正直面白みがある新規ではないが、優等生といった形で、テーマの動きを崩さずに、それでいてパワーの底上げを実現した。

このように探すと開発者のテーマの理解度によっては「デザイナーズの素材の味をきちんと活かしながら、コンセプト通りに順当に強化する」新規も生み出せていることがよくわかる。

最近のビルドパックとこれからの期待

長々と話したが、最近はビルドパックに対してある程度テーマ・コンセプトに沿った強化がなされているように感じる。

例えば私がMDに傾向しOCGから離れ気味だった4月環境では【R-ACE】が環境入りを果たしており、初登場時に触っていて感じた「ハゥフニスやマルチフェイカーはいるのにシルキタスが居なくて弱い」という点がプリベンターという形で適切に解消されていたり、「ハイドラントが中心のデッキではあるのにエースのタービュランスを出すと場にハイドラントが残らない」点がEMERGENCYで解決されていたりと、「弱めに作っていた部分を補填する」ような新規の実装を行ってくれている。

エアホイスターが1枚初動になってしまったことで、多少1枚初動偏重な部分が出てはいるが、そこを差し引いても十分にテーマを理解し、コンセプトを活かしたい部分が伝わってくる

この点はかなり改善されてきていると思うので、どうか次のヴァリアント・スマッシャーズも程よい縛りのものカードデザインを行ってほしい。

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