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ワタクシ流☆絵解き館その103 青木繁「わだつみのいろこの宮」下絵素描ではあれかこれかと動いている山幸彦。

今回は、「わだつみのいろこの宮」の下絵とみなされる2枚の素描(下の図版)を比較して、完成画に至るまでの、青木繁の試行のあとをたどってみたい。

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山幸彦が、カツラの木に座り片足を立てるのは、当初からのイメージで、完成画にまでつながっている。ただし、下絵で立てていた右足は、完成画では左足になった。
下絵では左足の置き方の方に迷っている。伸ばすけれど、幹に足の裏を乗せるというⓐとⓑの折衷のイメージが、完成画の右足の構図に変わっている。

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上に掲げた素描①の方では、山幸彦は両の腕を上方に向けていた。素描②では左腕は下ろしている。幹から出たカツラの枝をつかんでいる姿だろう。
完成画では、右腕も下ろしている。これにより、山幸彦は、座るという姿勢以外はまったく動作をしていない人物になった。
静止したような雰囲気を求めてゆきついた結果だろう。

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下絵素描と完成画でまったく違うのは、山幸彦が正面を向く姿になったことだ。
逆から考えてみたい。なぜ横向きの姿で着想したのかと。わだつみのいろこの宮の門のそばにカツラの木があることを、どう表すかという問題が解決しなかったのではないか。山幸彦が門を背にする情景としたときに、山幸彦は正面を向くことになったのだろう。
そして構図の必然性から、下絵では並び合っている豊玉姫と侍女は、山幸彦をはさむ位置に分かれた。

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青木繁 「わだつみのいろこの宮」全図 1907年 アーティゾン美術館蔵

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                   令和4年1月     瀬戸風  凪

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