歌人俳人の名にちなむ和菓子名あれこれ
伝統和歌にちなむ名を持つ和菓子のあれこれを、以前探ってみた。
今回は、歌人だけでなく俳人まで範囲を広げて、人名そのものを ( 略称を含めて ) 銘に使っている和菓子商品を探訪してみた。
パッと思いつくように、〇〇最中、〇〇饅頭といった名付けが確かにある。
けれど、菓子の形とか意匠に、名前からイメージされるものを使う工夫もあって、ただ冠に○○と、名前を借りればいいという発想ではないことにも気づいた。写真は各菓子匠のホームページからお借りした。
菓子の名に使われる歌人俳人は、間違いなくビッグネームと言っていいと感じている。誰?と思われるような人名が使われていることはないと、ほぼ言えそうだ。
なお、今回は実際食べたことがあるものは皆無である。美味紹介のnote
記事はゴマンとあるけれど、食べても見てもいない菓子の紹介をしているのは、私の記事くらいだろう。
ただ、商品名に郷土ゆかりのビッグネームをつけるのは、商品に矜持と誇りを持つ者であろうという想像は出来る。
昭和時代以降に活躍した歌人俳人のものは、探し当たらなかった。死後何年くらいたてば、菓子の名に使われ始めるのか、これはこれで民俗学的関心のテーマかもしれない。
ただ菓子匠は全国に何千とある。調べ当たらないだけで、この記事を読んでくださった方が知る、人名のつく菓子はきっとあるかと思う。
左党 ( 死語かもしれない?お酒好きの人のこと 左手は鑿持つ手から転じて飲み〈盃〉持つの意味 )の方からは、人名のついた酒ならある、それも含めよと言われそうだ。
ありそうで探し当たらなかった名も記しておく。
◉ 和泉式部
◉ 建礼門院右京大夫
◉ 赤染衛門
◉ 西鶴
◉ 与謝野晶子
⚪ 柿本人麻呂
① 志を乃屋 ◈ 人麿最中
近江のうみ夕波千鳥なが鳴けば心もしのにいにしへ思ほゆ 柿本人麻呂
🔶 🈺 奈良県宇陀市大宇陀万六1783
② 横田福栄堂 ◈ 人麻呂せんべい
東の野にかげろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ 柿本人麻呂
人麻呂の和歌がせんべいに書かれている。
🔶 🈺 奈良県奈良市二条町1丁目3番17号
③ 鶏卵堂 ◈ 人麻呂巻
🔶 🈺 島根県益田市あけぼの本町9-18
🔵 大伴家持
① 引網香月堂 ◈ 家持まんじゅう
振り放けて三日月見れば一目見し人の眉引思ほゆるかも 大伴家持
大伴家持にちなむ菓子は富山県に集中している。赴任地であり、「万葉集」の編纂にいそしんだ地であるゆかりからだ。
🔶 🈺 富山県富山市古沢111-3
② 菓匠 美都家 ◈ 家持巻
🔶 🈺 富山県高岡市大坪町1丁目4-1
🟣 西行上人
新杵(しんきね) ◈ 西行まんじゅう
吉野山梢の花を見し日より心は身にもそわずなりにき 西行
🔶 🈺 神奈川県中郡大磯町大磯1107
⚫ 藤原定家
小倉山荘 ◈ 定家の月
藤原定家は自身の日記を『明月記』と名付けている。月を詠んだ定家。
代表的な一首。
帰るさのものとや人のながむらん待つ夜ながらの有明の月 藤原定家
🔶 🈺 京都府長岡京市今里蓮ヶ糸45
🟨 与謝蕪村
和菓子店「冨久屋」 ◈ 蕪村もなか
🔶 🈺 大阪府大阪市都島区高倉町 1-7-1
愁いつつ岡にのぼれば花いばら 蕪村
もなかは、蕪村にちなんで蕪の形である。
🟩 良寛上人
①菓子処ひらい ◈ 良寛てまり
霞立つながき春日に子供らと手毬つきつつこの日暮らしつ 良寛
包み紙が、手毬の紋様になっている。
🔶 🈺 岡山県倉敷市玉島乙島6697-5
②良寛さまお菓子本舗大黒屋 ◈ 良寛上人 月の兎
月よみの光を待ちて帰りませ山路は栗の毬の多きに 良寛
🔶 🈺 新潟県三島郡出雲崎町尼瀬293-1
③良寛さまお菓子本舗大黒屋 ◈ 良寛さまおせんべい
🔶 🈺 新潟県 三島郡出雲崎町尼瀬293-1
※「良寛上人 月の兎」と「良寛さまおせんべい」は同じ菓子匠の商品です
🟤 本居宣長
柳屋奉善 ◈ 宣長飴
敷島のやまとごころを人とはば朝日ににほふやまざくら花 本居宣長
「本居宣長は漢方医としても有名でした。〈宣長飴〉は古くからある《あめぐすり》を再現したもので、桂皮末や生姜といった材料を使い」と製造元の紹介文にある。
🔶 🈺 三重県松阪市中町1877
🍵 加賀千代女
田中屋 ◈ 釣瓶千代
朝顔や釣瓶とられてもらひ水 千代女
🔶 🈺 石川県白山市東新町100番地
🍑 正岡子規
巴堂本舗 ◈ 子規
「柿ジャムとともに炊き込んだこし餡を求肥で包んだやさしい味」と製造元の紹介文にある。
🔶 🈺 愛媛県松山市道後湯之町13-7
🍶 若山牧水
風の菓子 虎彦 ◈ 顕彰銘菓 若山牧水
白鳥は悲しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ 牧水
お菓子は牧水の歌碑をイメージした形になっている。
「新鮮な生クリームと手亡豆の白餡でミルク餡をつくり、ココア風味の生地で包んで伸ばし、表面にメレンゲを刷毛 ( はけ ) ぬりして焼き上げたもの」と製造元の紹介文にある。
🔶 🈺 宮崎県延岡市幸町1-20
🌸 柳原白蓮
かるかん堂中村家 ◈ 幻の華 白蓮
大正8年に発表した歌集が「幻の華」。また「まぼろしの花」
は、歌集中の次の一首にも出て来る。
天上の花のすがたとおもひしは仮寝の宿のまぼろしの花 白蓮
🔶 🈺 大分県別府市石垣東6丁目8-14
🎀 北原白秋
梅花堂越山 ◈ 名代最中 白秋
君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ 北原白秋
🔶 🈺 福岡県柳川市京町12
令和6年2月 瀬戸風 凪
setokaze nagi
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