ワタクシ流☆絵解き館その132 何処なのか知りたい―描かれた場所を求めて。
題名に記されていないと、描かれた風景が何処なのか知りたい、という鑑賞の上では第二義的なはずの関心が心にひっかかかる。(共感してもらえるだろうか?)
上の絵は「ワタクシ流☆絵解き館その129 孔雀と坂道―こんないい絵が、ひっそりと飾られている②」ですでに紹介したが、この取材地がわからない。知りたい関心がムラムラと湧き起る。
そこで、当てずっぽうながら長崎か?と見当を定め、似た風景画はないか探ってみた軌跡が今回の内容。
ここじゃないか!と目に飛び込んできたのが中川一政「長崎の岡」。海を見下ろし、向かいに鋼鉄船が舫っている様子や、手前の背丈ほどある塀の感じが似ていると思う。洋館と見えなくもない。
けれど、これが長崎の何処なのかわからない。
大久保泰 「リンガー邸の屋根」も、雰囲気は近い。長崎の何処であるかも題名でわかる。しかし、三木俊二「入り江」の洋館の屋根とは煙突の形が異なる。
「入り江」に描かれた角度の坂道も、googleストリートビューでたどってみる限りでは見つけられない。向かい側の建物の感じは、中川一政「長崎の岡」が似ている気もする。
屋根と煙突の感じで選んだのが、斎藤清 「長崎南山手」。有名なオランダ坂の風景だ。けれどここもgoogleストリートビューで巡ってみる限りでは、三木俊二「入り江」に重なる眺めは得られない。
「入り江」は、直感で言えば極めて長崎っぽいのだが、あるいはまったく別の街か? いったい何処なのだろう。坂道、眺め降ろす港湾、塀、洋館の屋根…長崎市には、その組み合わせで出来る眺めがいくつもあるのが、机上の旅をしているだけでもわかる。
洋館と道の組み合わせで、東山手の洋館通りも写真で眺めてみたが、うーん、一致する眺めがない。
迷路をさまよっただけで、この妄想散歩は終わるしかない。それも絵の愉しみ方になっているのが少しさびしいけれど、何だろう、消せないこの関心の出どころは。
でも筆者には、こんな遊びから、題名には出ていない絵の取材地を探し当てた経験が二三例ある。そのときの、よっしゃ!という感じは、忘れられないもの。
少し前のことだが、フェルメールの「小路」の場所を研究者が特定したというニュースがあった。スケールは違えど、同じ気持ちなのだろう(ということにしておきたい)。
令和4年5月 瀬戸風 凪
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