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ワタクシ流☆絵解き館その260 クリシュナとラーダー幻想/青木繁「わだつみのいろこの宮」

過去の記事で、青木繁の《白馬賞》受賞作品のひとつ、詳細所在ともに不明でタイトルのみ伝わる「唯須羅婆拘楼須那」の読みは、「ユー・スーラセーナ・クルシュナ」と解釈し、インド神話の全知全能の祖神ヴィシュヌの8番目の化身であるクリシュナを描いた絵だと推測した。
※クルシュナ=一般的に通用しているのはクリシュナ ( 以下クリシュナで通す )
インド神話を白馬会の出品作の題材に選ぶほど、インド神話にのめりこんでいたのは、青木自身が語っておりはっきりしている。そのことから、後年の制作「わだつみのいろこの宮」の山幸彦豊玉姫の造形において、クリシュナとその恋人ラーダーのイメージが大いにヒントになっていると気づいたことを述べて来た。
今回はそれらの記事の補完である。青木が下に掲げた画像を見たということでなく、青木の脳中にあったであろうクリシュナとラーダーのイメージと青木の絵のつながりを、いくつかの画像をもとにして、肉付けをしてみたい。

🔂 先ず復習としてクリシュナの特徴を挙げる。
①  横笛を携えた、まるで美少女にも見える秀麗な容貌の美青年
②  樹の中に現れ樹の下に立つ
③  そこにいる人をたちまち魅了、陶酔させる霊力を持つ
🔂 次にラーダーの特徴を挙げる。
①  クリシュナの伝説の主要な女性
②  祖神ヴィシュヌの妃ラクシュミーの化身
③  クリシュナには最愛の、至高の存在
④  しかしラーダーはクリシュナ妃ではない。永遠の、宿命のロマンスとし 
     て位置づけられる

🔳 水辺、樹下、葉のそよぎ、見つめる動作

クリシュナとラーダー」1780年頃 インド ガンダラ派 
紙本着色  ミニアチュール
「クリシュナとラーダー」部分 1780年頃 インド ガンダラ派 
紙本着色  ミニアチュール
青木繁 「わだつみのいろこの宮」油彩 1907年 重要文化財
アーティゾン美術館蔵   東京勧業美博覧会出品作品 三等賞
クリシュナとラーダー」部分 1780年頃 インド ガンダラ派 
紙本着色  ミニアチュール
コーター 「笛を吹くクリシュナに果物を差し出すラーダー」
紙 18世紀後期 ニューデリー国立博物館蔵

🔳 水辺、水浴、裸体、木の枝に座る姿、祈

  りの姿

クリシュナのエピソードの中で、牧女=牛飼いの娘たちに対してのクリシュナの戯れを語ったものがある。
こういう話だ。ラーダーに心を奪われたクリシュナは、ある日、ラーダーの混じる娘たちが川で水浴びをしているときに、娘たちの衣を盗んで木の陰に隠す。クリシュナは、ラーダーを水から上がらせるために、笛を吹いて娘たちを招き寄せ、娘たちは衣を返してもらうためにクリシュナに手を合わせて願った、というエピソードである。
この場面を描いているのが下に掲げた「水浴する牧女たちの衣服を盗むクリシュナ」であり、「ラーダーの水浴をかいま見るクリシュナ」という絵だ。
このエピソードからは、青木の絵「水浴」「暁の祈り」( 下に掲げた図版 ) が連想される。何の場面を描いているのか不明とされている青木の二点の絵だが、このエピソードに重ねてみると、通い合うものが感じられる。

カーンダラー 1780年ごろ 「水浴する牧女たちの衣服を盗むクリシュナ」
紙 ニューデリー国立博物館蔵
カーンダラー 1780年ごろ 「水浴する牧女たちの衣服を盗むクリシュナ」部分
紙 ニューデリー国立博物館蔵
青木繁「わだつみのいろこの宮」1907年 油彩  部分  
重要文化財 アーティゾン美術館蔵
カーンダラー 1780年ごろ 「水浴する牧女たちの衣服を盗むクリシュナ」部分
紙 ニューデリー国立博物館蔵
青木繁「わだつみのいろこの宮」1907年 油彩  部分  
重要文化財 アーティゾン美術館蔵
カーンダラー 1780年ごろ 「水浴する牧女たちの衣服を盗むクリシュナ」部分
紙 ニューデリー国立博物館蔵
青木繁 「暁の祈り」油彩 1907年 個人蔵
「ラーダーの水浴をかいま見るクリシュナ」 1959年 平凡社 
「世界名画全集第6巻」より
「ラーダーの水浴をかいま見るクリシュナ」 1959年 平凡社 
「世界名画全集第6巻」より
青木繁 「水浴」1904年 水彩  アーティゾン美術館蔵
「笛を吹くクリシュナ」 18世紀 ラージャ・スターニー派
青木繁 「わだつみのいろこの宮」   油彩 1907年 
重要文化財     アーティゾン美術館蔵
 

 
                 令和6年3月        瀬戸風 凪
                                                                                              setokaze nagi


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