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或男2

先生は私を傍に引き寄せた。しかし、視線は遠くを見たまま。軀の半分が違う世界に溶けている。
私はその半分が欲しくなって、いつもよりハッキリと声をかけてみた
「先生」
先生は私を一瞥したが、また、同じ姿勢になる。

だけれど、半身は私を掴んだままだ。

先生は時折お酒を飲みながら、縁側で月を眺めることがある。

月を眺める時、私が近くにいれば大抵私を引きよせる。私は先生の太腿の間にスッポリとはまり込む形で2人は一つになったように穏やかな空気が流れる。
私はこの時間がこの上なく好きだった。

月を眺める時以外は先生は気まぐれだ。
私を呼び寄せて引き寄せる癖に、ひとつも私を見てくれない。
お互い軀だけの繋がりに終始する。
それを刹那と呼ぶのならば、そうなのだろう。
お互い、その場の快楽のみを求めて呼び合い、引き合い、必要としてきたのだから。

だから、月を眺める時は私にとってにとって至上の喜びの時間だった。

なのに、

先生はその時間でさえも私の思い通りにならない。

私はその半分が欲しくて、もう一度はっきりと、大きな声で呼んでみた。
「先生」


先生は私に気づき、穏やかな笑顔で私の身体を撫でてくれた。

私はそれに納得し、その場を後にした。

その場を後にした私の背中に先生の言葉が聞こえてきた。

「ふふふ、お前は、私に撫でて貰えばそれで良いのかい?気まぐれだなあ」

それはあなたのことですよ。
と思いながら、私は外に飛び出していった。

「猫というのは気まぐれに私に寄り添ってくる。それ位が今の私にはちょうどよいのかもしれない。」
先生が幸せそうに呟いていた。


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