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フナ釣り2

はじめに
これは私の#リモラブ をもとにした妄想小説です。今回はごもちゃんの話の続きです

「美味しい」

僕と新井さんは、いつもの公園に戻り、金子さんから持たされた惣菜を食べた。
久しぶりに、仕事関係以外の人と食事をしている事に気がついた。なんだか、それだけで特別なことが起きているような感覚だった。

「さっきの、人に興味がないって話なんですけど」

新井さんが、僕に問いかけてきた。僕に慣れてきたのか、少し喋るスピードが速くなっていた。

「そんな話しましたっけ?」

「私が、プライベートには踏み込ませない雰囲気があるって話ですよ」

「ああ…」

だいぶ言葉が変わっているなとは思ったけど、似たような感じか?と思って訂正をしなかった。

「それ、五文字さんの事ですよ」

「えええ?!」

「そんなに驚く?
五文字さん、いつもにこやかに挨拶はしてくれるけど、そっからは絶対喋らないし、すごい集中してて話しかけるなオーラ満載だから、ああ、プライベートには踏み込んでほしくないんだろうなと思って、喋りかけなかったんですよ」

「えーーーーー…」

まさか、という声を、僕は漏らした。

「だって、五文字さん、金子さんの家知らなかったでしょ?私知ってたでしょ?ホラ」

確かに、思い出してみると、金子さんの名前も新井さんの名前も、2人の会話を聞いていて知っただけだった。

「じゃあ、新井さんの事、色々質問して大丈夫なんですか?」

「どうぞ?でも、尋問みたいにはしないでね」

そこから、なんの仕事をしていてから始まって、どんな学生時代を過ごしたのか、どんな家族がいるのか、お互い話をした。
バリアを張っていたのは本当に自分で、話をしてみたら、新井さんはとても話しやすい人だった。

家族の話になり、自分の家族がいかに優秀であることを話した。

「五文字さんは?」

そう聞かれて、僕は

「僕は、中身がないからなあ。努力が苦手なんですよね」

そう話し始めた。

「努力は、努力するに値する人がするべき事だと思っていて。
だから、僕はしないんです。努力する人をバカにするわけじゃないですよ?反対に、努力できる人を見ると、それだけで羨ましいなあって思います。人として尊敬する。
だから、兄貴たちは輝いて見える。尊敬してる。
じゃあ、努力すれば良いじゃないってなるけど、ただ、自分には向かない、それだけなんですよね。
その日、その日に少しだけ頑張る。その日だけ頑張れば格好がつくもん。わかってますよ?誤魔化しだって。でも、それが、僕の精一杯だし、お似合いだと思うんですよね」

「もういい?しゃべった?
言いたいこと言った?」

僕の話をじっと黙って聞いていた新井さんが、突然、敬語を使わず喋り出した。

「さっきから聞いてたらさ、単に、お兄ちゃんに敵わないから、そこに及ばない自分を見たくないから、そうやって武装してるだけじゃん。
はーーーー、格好悪い。ずっとそうやってカッコつけて生きてきたわけだ。僕無気力人間なんですーって」

あまりに突然怒られたのと、捲し立てる新井さんが格好良くて、僕は豆鉄砲を喰らったような顔をした。それに気づいた新井さんが、今度は、慌てた。

「あーーーー!!!!!
やっちゃったーーーー!!!!
ごめんなさい!これ、私の悪い癖なんです。
ちょっと心許すと、こうやって、心のフィルターひとつもかけずに相手に物事言っちゃうんです。これでいつも失敗するから、気をつけてるのに」

新井さんは、本当に申し訳なさそうに僕に頭を下げた。
だが、僕は、ひとつも悪い気がしなかった。

「謝らなくていいよ。
思ったことって事は、そう感じたことを素直に言ってくれたってことでしょ?
それに、当たってるもん。そうなんだよ。うん、僕、自分が努力できないことを兄貴達のせいにしてたんだな」

聞くと、新井さんは、なんでも素直に喋ってしまう自分をかなりコントロールしながら、仕事をしており、そのバランスを取るために、毎日釣りをしていたのだという。

「ここで黙って糸見てるとさ、だんだん自分に戻れる気がするんだよね」

「僕と一緒だ」

僕は、驚くように呟いた。

「僕も、ずーっと、家族の中でも、仕事でも、求められてる自分像ってのに、その場に合わせて演じて来たんですよね。
そうか、だから、釣りをしてリセットしてたのかあ」

自分がなぜ、フナ釣りという地味なものをこれだけ毎日続けて来たのか、その理由がわかった気がした。

同時に、演じて来た自分も間違ってはいない、そう思えた。

始めは、家族の中での立ち位置を確保するための技術だったが、それを、『活用する』という応用を覚え始めたのだ。
そして、その「応用」は、僕に合った方法だったのだ。だから、最近の仕事のスタンスが自分にとってうまくいっていたのだ。

「私もさ、自分を好きになりたくて、せめて仕事では、って頑張ったんだよね。でも、それが実を結んできていて、最近、仕事うまくいってるんだ。五文字さんもそんな感じなのかな」

「努力、してたんだね、お互い」

新井さんが僕の肩をポンポン、と叩いた。

すると、僕は「頑張ったね」と手を差し伸べられているような感覚になった。

僕の努力は間違っていなかった。今まで努力とは思っていなかったけどさっき気づいた事だけど、敢えて言う。

僕の努力は間違ってなかったんだ。


カメレオンのように、その場に合わせて自分を使い分けることができるのも立派な才能なんだ。

そう思ったら、この事を気付かせてくれ、幼い自分に「大丈夫だよ」と声をかけてくれた、目の前にいる女性が女神に見えた。

「僕、新井さんのことが好きです」

吸い寄せられるように、突然言葉を発していた。

「えええええええ!
どこが?どこに?私が好かれる要素があるの?!」 

新井さんは、本当に心の底から驚くような声を出した。

「こんな、思ったことズバズバ言っちゃう無神経だし、全然美人でもないし……五文字さんとは不釣り合いだよ」

僕は、少し距離を空けて座っていたベンチの距離を詰めた。

「ズバズバ言う内容は、思ってることでしょ?だとしたら、素直な人ってことだよ。表裏がない。
現に、さっきズバズバ言ってる新井さん、格好良くて見とれてたんだよ?
でも、不釣り合いって何?」

「だって……五文字さん、イケメンだし。私みたいなのわざわざ選ばなくても……」

「そんなの。僕が新井さんの事好きなんだから、関係ないよ」

僕は、新井さんの手をギュッと握った。

「ちょ、ちょ、ちょっと待って!
私まだ、そんな、五文字さんの事よくわからないし、そんなグイグイこられても困る。慣れてないの!」

そりゃそうだ。
僕は、もう新井さんのことは勝手に女神認定しているので気持ちは固まっている。でも、彼女にとっての僕は、まだ、知り合ったばかりの男性だ。

「わかった。
でも、僕のことを好きになってくれるよう、努力することは許可してくれる?」

「……はい」

恥ずかしそうに、新井さんは返事をしてくれた。

「覚悟してよ、努力って言うアイテムを手に入れた僕は、強いよ。
まずは、今日、家の近くまで送らせてね」


僕は、笑顔で宣言した。

きっと、今までで、1番カッコいい笑顔で宣言できている。
そう自覚があった。

美々先生の時は、好かれるように嘘をついてしまった。実はそんな自分が恥ずかしかった。
だけど、今回は違う。
僕は、僕のために相手を思って努力をする。そんな自分が誇らしかった。

帰ったら、青ちゃんに報告しよう。僕は、女神に出会ったんだよ!って。青ちゃんなら、きっと、ずっと話を聞いてくれる。
そうだ、僕は、いつの間にか仲間にも出会えていた。

僕の努力は、僕に還ってきていたんだ。
そんな事を実感しながら、新井さんを送り届けた。

街の灯りがいつもよりも、優しい、そう感じた。

あとがき
こんなにイケメンなのに、女性慣れしてない感じなのどうしてよ!
と思ったのが、美々先生を好きになったごもちゃんに対する気持ちでした。きっと、自分に自信がないんだろうな、でも、ごもちゃんにだって、いい出会いがある!そう思って、今回のお話を書きました。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。

このお話は、私の妄想です。本編とは全く関係がありませんので、悪しからずです。





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