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【小説】音楽の救いと権力の影

日本の長い歴史の中で、戦争は幾度となく繰り返され、その度に新たな政権が生まれては消えていった。2030年、またもや新たな政権が誕生し、日本は再び変革の波にさらされることとなった。しかし、その翌年、日本は泥沼の戦争へと足を踏み入れ、国民は再び混乱と絶望の中に投げ込まれた。

そんな中、東京の一角にある大学で学ぶ青年、太郎は音楽に救いを求めていた。2033年のある日、彼は友人たちと共に音楽ライブに足を運んだ。ライブハウスの薄暗い空間の中で、彼の心は音楽の波に揺られ、やがてその音楽が彼の内面を深く侵食していった。目の奥がひんやりと冷たく、心地よい感覚が全身に広がっていく。まるで音楽が彼の魂を浄化し、過去の苦しみや痛みを一瞬にして取り払うかのようだった。

その時、太郎の脳裏に鮮明な記憶が蘇った。彼の父親は無情なビジネスマンであり、家族に対しても厳格な態度を崩さなかった。特に、弟の次郎に対しては暴力を振るうこともあった。太郎が父親に抗議すると、彼は暴力で評判の悪い寮制高校に強引に入れられてしまった。その苦い経験から、太郎は次郎のような人々が安心して暮らせる世界を創ることを心に誓ったのだった。

時は流れ、2035年。太郎は大学を卒業し、父親の会社に入社することとなった。父親の陰に隠れていた太郎は、次第にその影から抜け出し、やがて会社の乗っ取りに成功するまでに至った。会社を掌握した太郎は、彼自身の理念と信念を基に新たな経営方針を打ち立て、次第に社会的な影響力を強めていった。

2040年、日本は依然として泥沼の戦争に突き進んでいた。太郎はその時、すでに日本で知らない者はいない大物経営者となっていた。彼は政治の舞台に進出することを決意し、出馬を宣言した。しかし、大手テレビ局や新聞社はすべて新政権の息がかかっており、太郎の選挙活動は困難を極めた。途方に暮れていた彼の前に、思わぬ選択肢が現れた。それは、アメリカにある世界一のSNS企業『インタレスト・アンド・ライク』(I&L)の社長、マーティン・ズィーとの出会いであった。

マーティン・ズィーは、日本での権益と引き換えに、I&L社の力で太郎を選挙で勝たせると言った。この悪魔とのビッグ・ディールのもと、太郎は政権を奪取し、前政権の残滓を解体することに成功した。彼は素晴らしい条件で和平を実現し、偉大な政治家として名を馳せていった。

時は流れ、2045年。I&L社の人工知能はシンギュラリティに達しようとしていた。ズィーは、利用者の個人情報と人工知能の力で人々を支配し、世界の王に君臨しようとしていた。しかし、日本の公安警察がこの情報を入手し、太郎は自ら先頭に立って公安警察をI&L社の本社ビルに突入させた。対面する太郎とズィー。

「人々の個人情報を一点に集めれば、誰も悪いことができなくなる」とズィーは言った。しかし太郎は、人類を信じると言い、ズィーを否定した。

「もういい。君の個人情報を暴露する。これでI&L社も終わりだ。私たち二人の失墜で世界に平和を…」

しかし、コンピュータは動かなかった。既に公安警察によって機械系統まで制圧されていたのだ。ズィーは失意の中、逮捕された。世界レベルの恐怖政治を寸前で止めた太郎。しかし、5年前に悪魔と契約したことはずっと心残りだった。その時、I&L社の人工知能はとうとうシンギュラリティに達した。

太郎は全世界に宣言した。「I&L社の集めた個人情報と人工知能を使って、私が世界の王になる」と。しかし、全世界同時中継中、一人の男が突入し、太郎の心臓をナイフで刺してしまった。その男こそ、太郎の弟、次郎であった。

その後、次郎は英雄となり、世界に平和が訪れた。この平和が永遠に続きますように。

太郎の人生は、波乱と闘争に満ちたものであったが、彼の遺志は次郎によって受け継がれ、世界は新たな時代へと歩みを進めていった。

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